ツバメが旅立つ頃に 小噺
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side.クザン
セナガキにはじめて出会ったのは中庭だった。
黒スーツの変な男がいたから声をかけたんだが、ふとこちらを振り向いた顔がガキだったので驚いた。
「あらら、未成年が煙草なんか吸っちゃって」
俺に気づくとガキが逃げようとするから、ヒエヒエで凍結させて捕まえてやった。
「ちょっとちょっと、ここでそんなことしたらダメでしょ?」
俺がそう言うとものすごい覇気を放ってきた。
この歳で覇王色に覚醒してるなんて、ただものじゃない。
「…怖いねえ、あんた何者?」
ガキは表情一つ変えずに口を開いた。
「… セナガキ」
「セナガキくんね。なに、海軍の人なわけ?」
セナガキはだんまりだ。
質問に答えないし逃げようとしたってことは部外者だろうが、捕まえられて焦ってる様子も全く見せねえし、この若さで既に覇気使いだし、一般人じゃねえのは確かだ。
「答えられねえなら」
「海兵ではありませんが…幼い頃から父のいる海軍によく遊びにきてて…」
「ふうん、お父さんいるの。君のお父さんなんて人?」
「…ドンキホーテ=ロシナンテ中佐です。もう亡くなりましたが」
聞いたことない名前だったが、嘘をついているようには見えなかった。
「お盆なのでしばらくここにいますから、見かけたらまたよろしくお願いします」
「ふうん、でも、こんな時間に敷地内で煙草吸うのは良くないね。しかも君未成年でしょ?」
「ごめんなさい、内緒にしていただけませんかね…」
あらら、意外と素直じゃないの。
「しかたねえな、ほら、代わりにチョコレートでも食っとけ」
「すみません、俺甘いのダメなんです」
「あげるっつってんだからいちいちわがまま言うんじゃないの、いらなかったら誰かにあげな」
「…ありがとうございます…」
ちょっと面白い子だなと思って、俺はセナガキくんを気に入った。
「セナガキくんいくつ?」
「16です」
「16?彼女いるの?」
「いません」
「ふうん、なに、海兵希望?」
「そうですね…憧れはあります」
「入隊したらいいじゃない、素質あるよ」
「そう思いますか?」
セナガキくんがまっすぐ俺の目を見て訊いた。
「俺でも、海軍将校になれると思いますか?」
射抜かれそうな瞳に、ゾクゾクするような恐怖を感じた。
「…いいんじゃねえの?君強くなりそうだし、海兵になったらモテモテなんじゃない?」
「なんですかそれ」
かと思えば、あははと笑った顔はまだ幼くて、少し安心した。
セナガキくんはどんな大人になるんだろうな。
俺はセナガキくんの頭をくしゃくしゃ撫でて、電伝虫の番号を渡した。
「そうやって笑ってたら女の子寄ってくるから、来たら俺に紹介しろよ」
「ははは…」
言ってるうちにぽつぽつと雨が降り出した。
「じゃあな、早く寝ろよ」
俺はそう言って先に部屋の中へ入った。
その後も、セナガキくんが本降りになった雨の中で煙草を吸っていたのが、寝る前の窓から見えた。
end.