濁流を渡って
主人公の名前
ツバメ・セナガキツバメ(初期設定)
21歳。元海軍中将。
今はいろいろあって麦わらの一味のクルー(戦闘要員)になっているけれど、ローに命を助けてもらったことがあり、ハートのクルー達とも仲がいいので船を行き来することが多い。
セナガキ(初期設定)
ツバメが海兵時代に使っていた偽名。
男性ということになっている。海軍暗部。
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side.ロー
船長室へ戻ってドアを閉めたとたん、はあ、とため息が出た。
ツバメ屋が一味に戻ってから2週間ほどか。
気が付いたらあいつのことばかり考えちまってる。
あいつ一人いなくなっただけでこんなに寂しくなるとは思わなかった。
敵船のクルーだからこんな感情があっては邪魔になると思っていたが、ここまで自分が脆くなってしまうなら素直に告白しとけばよかった。
ただでさえいつ死ぬか分かんねえんだから。
『次』とか『また今度』はないかもしれねえんだから。
会いてえ。
急にコン、コン…とノックの音がした。
「キャプテン、夜食を持ってきたよ」
ベポか。
「入れ」
俺がそう言うとドアが開いたが、開いたところに立っていたのはベポではなかった。
「?!ツバメ屋…!?」
入ってきたのは紺色の浴衣姿のツバメ屋だった。
驚きすぎてガタッと椅子から立ち上がったが、言葉が出てこねえ。
「七夕ドッキリ大成功~~~!
あ、これお土産です!一緒に食べましょう!」
ツバメ屋は笹団子と金平糖となにやら見たことのあるお菓子が乗った盆をテーブルの脇に置いた。
「お前…どうしてここに!?麦わら屋たちは…?」
「一人で来ました!」
「一人でって、どうやって…!?」
「ベポくんに頼んで現在位置を電電虫で教えてもらってきたんです!」
ベポに頼んだからって、それでどうやって一人で来たんだ??
確か一味はサウスブルーへ行く途中で、ここはノースブルー。
サニー号で来たわけではなさそうだし、どう考えてもそんな恰好で笹団子持って一人で来れる距離ではない。
「っはー疲れました!コーヒー淹れますね!」
勝手知ったるなんとやら。
ツバメ屋は俺にはお構いなく戸棚からコーヒーセットを取り出して、カセットコンロで湯を沸かしはじめた。
「お前らサウスブルーに行くと言ってなかったか?」
「ええ、だからもー大変でしたよ!ここまでミニメリーで来るの!」
「はあ!?」
ミニメリーって、あの小船で?
なおさら無理があるだろ!
ここノースブルーまではカームベルトもレッドラインも通らないと行けねえし、フロリアントライアングルもある荒れた海域を越えなきゃならねえ。
どう考えても買い出し用の小舟では渡れねえぞ。
「フランキーにエンジンをパワーアップしてもらったし、船底を海楼石で加工してもらったし、レイリーさんにコーティングもしてもらったし、対策はしましたよ!
ただ、カームベルトとレッドラインだけじゃなくていろんな海流を通過しないとこっちまで来れないから…レッドラインを通過してから、カームベルトに入るギリギリのところを航行している船ならしっかり対策していると踏んで、かつメリーを格納できるくらい大きな船を見つけて渡り切る作戦にしました。
運よく大きな海賊船を見つけてメリーと一緒に近くまで乗せてもらえたので、5日で着きましたよ!おかげで嵐もしのげたし、食糧も燃料も困らなかったし」
「海賊船に乗せてもらった…?」
「乗っ取ったわけじゃありませんよ?」
乗っ取ったのか…。
こいつはいつもありえねえことを簡単にやってのけるから意味わかんねえけど…
「楽しかったですよ~!お宝もゲットできましたし!あ、コーヒーできました!」
俺は振り向いたツバメ屋を抱きしめた。
「ローさん…?」
「何してんだお前…」
「だって、会いたかったから…」
「だからってそんな無茶苦茶なことしやがって…」
ぎゅっと抱きしめる力を強くすると、ツバメ屋が俺の背中に腕を回して抱きしめ返してくれた。
あったかくて安心する。
「心配かけてごめんなさい…びっくりさせたかったんです…」
「ガキかよ…」
「…ごめんなさい」
違う、そんなことが言いたかったわけじゃねえ。
そんなしおらしい声を聴きたかったわけでもねえ。
こんなんじゃだめだ。
せっかく、この七夕に、濁流を渡って、命がけで、ただ会いに来てくれたんだ。
もっと、素直に…
言いたいこと全部言わねえと。
「無事でよかった…」
「ごめんなさい、心配かけて…ありがとうございます」
「……俺も……その………会いたかった…」
ツバメ屋にも聞こえちまってそうなくらい、心臓がばっくんばっくんと大きく脈打つせいで、思ったように声が出ねえ。
「そう言っていただけるなら、来て良かったです」
ツバメ屋の声が優しい。
「………似合ってる」
「…ありがとうございます」
「………その……」
「?」
「………好きだ」
「………えっ」
ツバメ屋は抱きしめる手を緩めて俺を見上げた。
潤んだ青い瞳と目が合う。
少し赤くなったツバメ屋の頬を両手で包むと、ぴくっと反応して、目を逸らされる。
緊張してる。
「ツバメ屋…」
名前を呼ぶと、おそるおそる、もう一度、ツバメ屋が俺を見て、目を閉じる。
ゆっくり顔を近づけて、唇を重ねた。
少し触れるだけのキス。
薄いけど柔らかい感触。
唇を離して、少し見つめると、ツバメ屋が真っ赤になってうつむいた。
外では静かな波音が聞こえる。
「…好きだ、ツバメ屋…」
「………私も」
もう一度伝えると、ささやくように言われて、今度はツバメ屋からちゅっとキスされた。
「私も…ローさんが好き…」
「…ツバメ屋…俺は敵船の船長だ…お前を最優先には考えられねえと思うが………俺はお前と一緒にいたい…」
「…私もです」
「しばらく会えねえこともあるかもしれねえ…心配かけることもあるかもしれねえが……お前が良ければ……俺と付き合ってくれねえか」
「…敵かどうかなんて関係ありません…ローさんのためなら、泳いででも会いに行きますよ」
「気持ちは嬉しいが…もうそんな危ねえことはするな…」
またちゅっとキスを落とすと、ツバメ屋が幸せそうに笑った。
(お団子食べましょうか。コーヒー冷めちゃいます)
(ああ…いつまでこっちにいるんだ?)
(ルフィたちが用が済んだら迎えに来てくれるそうですから、それまでですね)
(そうか…)
(ふふっ)
(どうした?)
(いえ、キャプテン愛されてるなあって思っただけです)
(なんだそりゃ?)
(後で甲板に行けば分かりますよ)
end.