読み聞かせ
主人公の名前
ツバメ・セナガキツバメ(初期設定)
21歳。元海軍中将。
今はいろいろあって麦わらの一味のクルー(戦闘要員)になっているけれど、ローに命を助けてもらったことがあり、ハートのクルー達とも仲がいいので船を行き来することが多い。
セナガキ(初期設定)
ツバメが海兵時代に使っていた偽名。
男性ということになっている。海軍暗部。
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side.ロー
「『あら、さそりの火のことならあたし知ってるわ。』
『さそりの火ってなんだい。』ジョバンニがききました」…。
今日は宴だというからカルテを書き終えてから麦わら屋の船に行ってみたら、ツバメが麦わら屋と肩をくっつけて甲板に座って、何やら本を読み聞かせていた。
「ツバメ、本読むの上手よね」
俺が来たことに気づいたニコ屋がふふっと笑って俺に言った。
「なんだこれは」
「ルフィがいきなり読みたいって言った本をたまたま私が持っていたから貸したんだけど、漢字を読めないっていうからツバメが読んであげてるのよ」
「ほう、珍しいこともあるもんだな」
俺も昔よく読んだ本だから、懐かしいなと思って聞いていたが。
「ツバメの好きな本だったから、珍しく頑張って読もうと思ったみたい」
「そうなのか…」
ニコ屋からそう聞かされて、少し心が重たくなった。
「朝からずっとよ。これで3回目。お姉ちゃんと弟みたいでかわいいわよね」
ニコ屋からはそう見えているのか…。
俺には全然そう見えねえ…。
俺だって昔ラミに絵本を読んであげていたが…あれと同じようなもんだとはどうしても思えねえ。
色恋に興味がないとはいえ、19歳ならそういうことはある程度理解しているだろう。
距離が近すぎる。
何とも思ってねえなら肩くっつけんな。顔近すぎるんだよ。ツバメも楽しそうにするんじゃねえ。
…はあ。
モヤモヤイライラするが、一旦落ち着こう。
そうだ、ニコ屋の言う通り、姉弟みたいなもんだ。
一味みんなそう思ってるのは知ってる。ならそれが本当のはずだ。
麦わら屋は色恋に興味がねえし、ツバメだって、自分の好きな本に興味を持ってもらえて嬉しいだけだし、麦わら屋は年下だし甘えるのが上手いからつい姉さんぶってるだけだろう…。
バカでも少しは勉強しようと思ったわけだ、いいことじゃねえか…。
身を寄せ合って楽しそうにしているのも、二人とも今は本にのめりこんでるだけだ…。
そう思おうとすればするほど、余計心が重くなっていく。
『銀河鉄道の夜』が好きだなんて、全然知らなかった…。
『ああ、わたしはいままでいくつのもの命をとったかわからない、そしてその私がこんどいたちにとられようとしたときはあんなに一生けん命にげた。それでもとうとうこんなになってしまった。ああなんにもあてにならない。どうしてわたしはわたしのからだをだまっていたちに呉れてやらなかったろう。そしたらいたちも一日生きのびたろうに。どうか神さま。私の心をごらん下さい。こんなにむなしく命をすてずどうかこの次にはまことのみんなの幸のために私のからだをおつかい下さい。って云ったというの。そしたらいつか蝎はじぶんのからだがまっ赤なうつくしい火になって燃えてよるのやみを照らしているのを見たって』…
麦わら屋が聞き入っているのがチラッと見えて、俺も聞き入ってしまっていたことに気づく。
聞きやすくて、心地いい声。
ツバメの声なんて、意識したことなかった。
きれいな声してるんだな、こいつ…。
そう思ったら、何とも言えず切ない気持ちになって。
…ほんの少しだけ、鼓動が大きくなったのを感じた。
傾きはじめた陽が、甲板をオレンジ色に染めていく。
「『早くお母さんに牛乳を持って行ってお父さんの帰ることを知らせようと思うともう一目散に河原を街の方へ走りました。』…おしまい」
ツバメが本を閉じると、麦わら屋がツバメに抱きついた。
「ツバメ、もっかい!」
「そろそろご飯なのでサンジさんを手伝ってきます」
「ええー」
「早く食べたいでしょ?サンジさんが焼いたお肉」
ツバメがそう言うと、麦わら屋はもう肉のことを考え始めているのが分かる。
…麦わら屋が甘え上手なだけだと思っていたが、ツバメがこんなに面倒見良いとは思わなかった。
うちの船では一番年下だからか。
「おう!じゃあメシ終わったらもっかいな!」
「構いませんが「ツバメ」
俺はツバメを呼ぶ。
大きい声が出たようで、隣にいたニコ屋が驚いた。
「メシ食ったら帰るぞ」
「今日は泊まると言っていませんでしたか?」
「気が変わった」
「…わかりました…ごめんね、ルフィ、また今度ね」
「ん、わかった」
俺がイライラしているのが伝わったのか伝わっていないのか、ツバメはいつもの淡々とした口調で答えて、それが余計に俺をイラつかせた。
「あらあら…」
ツバメの手首を握って船内に入ろうとしてすれ違ったニコ屋がそう言ったのが聞こえて、急にみじめな気分になる。
麦わら屋より俺の方がツバメと一緒に居る時間がずっと長いのに
俺はまだツバメのことを全然知らなかった。
麦わら屋は、俺の知らないツバメをたくさん知っていて
一瞬でツバメを笑顔にすることができて
なんの躊躇もなくツバメに甘えられて
いつもクールなツバメから簡単に優しさを引き出してしまう
俺は、あんなふうにはなれねえ。