わかっているけど
主人公の名前
ツバメ・セナガキツバメ(初期設定)
21歳。元海軍中将。
今はいろいろあって麦わらの一味のクルー(戦闘要員)になっているけれど、ローに命を助けてもらったことがあり、ハートのクルー達とも仲がいいので船を行き来することが多い。
セナガキ(初期設定)
ツバメが海兵時代に使っていた偽名。
男性ということになっている。海軍暗部。
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side.コビー
「は?好きな女のタイプ?」
書類仕事の休憩中に訊いてみたら、セナガキさんはぽかんとして僕を見た。
「はい、そういえばどうなんだろうなと思って」
セナガキさんは煙草に火をつける。
「お前…今更それ訊くのか?」
「え?どういうことですか?」
僕が訊くと、セナガキさんはふーっと、ため息と一緒に煙を吐いた。
知らない女性の海兵から、それとなくセナガキさんに聞いてみてくれと頼まれた。
最近多い。今日だけで7~8人くらいに言われて、いきなりどうしたんだろうと思っていたけど、そういえばもうすぐクリスマスだということを思い出して、ああ、なるほどなと理解した。
セナガキさんのことだから、そういうのはいつものあの感じでクールに突っぱねているのだろう。
でも今年は僕がセナガキさんの副官になったから、間接的に僕に訊く作戦なんだ。
「お前は?」
「え?」
「好きな女のタイプ」
「ええ…?」
逆に聞き返されるとは思っていなかった。
困ったな…。
セナガキさんの顔をちらっと見たら、ガン見していて思わず目を逸らした。
たまに思うんだよな…。
セナガキさんが恋人だったらなあって。
女性が好きになるのはすごく分かる。強いし、かっこいいし、クールだけど優しいし、賢いし、頼りになるし。
でも。
この時期になって、セナガキさんに言い寄ろうとしている女性に思うようになった。
セナガキさんのこと、何にも知らないくせにって。
僕の方がセナガキさんのこといっぱい知ってるのにって…。
なんでそんなこと考えるのか自分でも分からない。
だってセナガキさん、背は高いし顔は整ってるけど男だ。
セナガキさんがモテすぎて僻んでいるのかと思ったけど、そうじゃなくて、セナガキさんに言い寄る女性にヤキモチ焼くみたいなことしてる。
どう考えても、最近の僕は変だ。
「そうですね…僕、女性が苦手なので…」
「え、お前、そっちだったのか?」
「違いますよ!ちょっとトラウマがあって…」
アルビダの船に乗ってたなんて言えないし、少し濁した。
あの頃は殴る蹴る暴言は当たり前だったし、今でも女性との会話は少し怖い。
「強いて言うなら、気の強い女性は苦手です…」
「ふうん?女海兵なんてみんな気の強い奴ばっかだぞ?」
「あはは…そうですね」
僕は苦笑いしてセナガキさんの淹れてくれたカフェオレを飲む。
セナガキさんは僕の様子を眺めながら、長い脚を組んで、僕に訊いた。
「じゃあさ、俺が女だったらどうする?」
「えっ…うぇええっ?!」
びっくりして変な声が出たので、セナガキさんが少し苦笑した。
「例えばの話だよ。苦手になったりするか?」
「それはないですよ…でも、ええっ…えっと…絶対かっこいいし、かわいいと思います…」
ああ、だめだ。
僕今顔真っ赤だ。
「ぼ、僕の話はいいんですよ!セナガキさんの好きな女性のタイプです!ほら、お付き合いしてた時の彼女さんとか」
「んなもんいるわけねえだろ」
「ええっ?!そうなんですか?!」
「女にうつつ抜かしてられっか」
頭を抱えてため息をつかれた。
カッコいいしモテるけど確かに興味はなくてホッとした。
「じゃあ、好きな人いないんですか?」
「いる」
「えっ…?!」
「ま、いなくてもいるって言うけどな」
「どっちなんですか」
「…どっちだと思う?」
吸殻を携帯灰皿に入れながら、ふふっと微笑を向けられて、なんだかそれがすごく妖艶に見えてしまって、またどきっとする。
なんで僕がこんなに動揺してるんだろう。
「あっはっは!お前面白すぎだろ!」
かと思えば、急に笑われて、またカーっと顔が熱くなるのを感じた。
セナガキさんがこんなに笑うのは珍しいし、そもそもこんなに表情が変わるのも珍しくて、今日はいちいちギャップにやられてる。
「あれだろ?誰かにリサーチ頼まれてるんだろ?」
「え…」
「すっげーかわいいピンクの髪の恋人がいるっつっといてくれ、めんどくせえから」
「それ、もしかしなくても僕のことですか」
「当たり」
セナガキさんは立ち上がってくしゃくしゃと僕の髪を撫でる。
恋人って…何言ってるんですか、もう。
冗談だってわかってても…嬉しくなってる自分がいる。
「ちなみにお前、24か25は空いてるか?」
「どっちも今のところ空いていますよ」
「どっちもか…よし、おごってやるから旅行行こうぜ」
「ええっ!?さすがに悪いですよ!自分の分は払いますので!」
「いいっていいって。俺仕事しかしてねえからこういう時しか金使うとこねえんだよ、先輩には甘えとけ」
「…ありがとうございます」
スッといつものクールな顔に戻ってデスクに向かった。
「さて、休憩終わり。終わったら行き先決めようぜ」
…こんなので喜んでる僕ってなんなんだろう。
僕はコーヒーメーカーからテーブルのマグカップにコーヒーを足してセナガキさんのデスクに置いた。
僕も、少しミルクを減らしたカフェオレを自分に淹れて、一口飲んでから、書類に向かうセナガキさんの顔をちらっと盗み見て、また書類に取り掛かった。
うすうす分かってたけど。
きっと認めてしまったら本当に大変だろうから。
もうちょっと、このままでいたい、なんていうのは、そろそろ無理そうだなあ…。
end.