土砂降り
主人公の名前
ツバメ・セナガキツバメ(初期設定)
21歳。元海軍中将。
今はいろいろあって麦わらの一味のクルー(戦闘要員)になっているけれど、ローに命を助けてもらったことがあり、ハートのクルー達とも仲がいいので船を行き来することが多い。
セナガキ(初期設定)
ツバメが海兵時代に使っていた偽名。
男性ということになっている。海軍暗部。
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勤務中、急にバケツをひっくり返したような大雨にふられて、近くのカフェで雨宿りをさせてもらっていた。
雨音をバックに蓄音機から気だるげなスイングが流れる、狭い店内。
上着を乾かしている間、カウンターでオレンジジュースを飲みながら手配書と新聞を眺めている僕と、1階と2階を往復して掃除をしている店員さん以外は誰もいない。
ふと、木製のドアが開き、チリンチリンとドアベルの音がして、そちらを見たとき、僕は息をのんだ。
「ツバメさん………!?」
見覚えのある麦わら帽子の奥の青い瞳と目が合った瞬間、彼女ははっとして、走って店を出た。
「待ってください、ツバメさん!!」
僕は上着を着るのも忘れて、土砂降りの中を追いかける。
白いワンピースにサンダルなんてお嬢様みたいな恰好をするタイプじゃないけど、あの青い瞳、見間違えるはずがない。
それにしても逃げ足が速い。
さっき角を曲がったところなのに、僕がそこまで行くと、もう向こうの方に消えそうになっている。
僕は全速力で路地を曲がったけど、もういない。
どこに行ったんだ…?
…落ち着け。
こういう時、ツバメさんなら…隠れるはずだ。
そう、例えば…ゴミ箱の中!
蓋を開けると、当たり。
中から蹴りが飛んできたのを間一髪でかわして、ギリギリのところで手首を掴んだ。
「待って、ツバメさん…!」
そのまま僕の方に引き寄せて、もう片方の手で麦わら帽子で顔を隠すようにして、強く抱きしめた。
「離して…っ!」
「僕はあなたを捕まえる気はありませんよ」
大雨に消えないように、でもできるだけ凛とした口調で言った。
「今捕まえたら、あなたは死刑になるんでしょう…?」
そう言うと、ツバメさんは抵抗をやめた。
「会いたかったです、ツバメさん…生きてて良かった…」
ちゅっ、と、触れるだけのキス。
唇を離すと、僕の大好きな青い瞳と目が合う。
「………私は、もう海軍には戻らないよ…」
その言葉に、僕はツバメさんの覚悟を見た。
ツバメさんがいなくなったあの日から、いろんなことが変わってしまった。
「分かっています…ルフィさんのところにいるんですよね」
「どうしてそれを?」
「この麦わら帽子…ルフィさんのです。
安心しました…ルフィさんと一緒ならきっと大丈夫だから」
ツバメさんは僕の言葉を聞いて驚いた。
ルフィさんの話はよくしていた気がするけど、いつかルフィさんを捕まえるんだ!って言ったことが、そういえば何度かあったっけ。
「敵同士になっちゃいますけど…あなたが生きてくれるなら、僕はもうなんだっていいです」
僕はツバメさんを抱きしめている手をそっと放した。
このまま抱きしめていては、いずれ傷つけあう関係になってしまう。
今ここで、終わらせよう。
「ありがとうございました。
どうか、お元気で………」
ツバメさんに麦わら帽子をかぶせ直して、ピシッと敬礼をした。
「コビー」
久しぶりに名前を呼ばれた。
「好きだったよ」
最後に、素直じゃない彼女が、まっすぐに、僕の目を見てそう言った。
「僕も…」
もう、それ以上言葉にできなかった。
彼女はそんな僕を見て、ピシッと敬礼を返すと、麦わら帽子を目深にかぶって、土砂降りの道を走っていく。
僕はその背中を、見えなくなるまで見送った。
end.