あなたの残り香
主人公の名前
ツバメ・セナガキツバメ(初期設定)
21歳。元海軍中将。
今はいろいろあって麦わらの一味のクルー(戦闘要員)になっているけれど、ローに命を助けてもらったことがあり、ハートのクルー達とも仲がいいので船を行き来することが多い。
セナガキ(初期設定)
ツバメが海兵時代に使っていた偽名。
男性ということになっている。海軍暗部。
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「ツバメさん、明日から長期任務なんですよね?」
某海軍御用達のホテルの最上階の一室。
制服をハンガーにかけてクローゼットにしまっている時に、コビーに訊かれた。
「…誰に聞いたんですか?」
「ガープ師匠です」
「そうですか…」
センゴクさんあたりがガープ中将に喋ったのか。
極秘事項は口の軽いガープ師匠に言っちゃダメでしょう。
本当にみんなおしゃべりなんだから…。
「行き先は?」
「ドレスローザです」
「いつ頃戻ってきますか?」
「早くて半年くらいだと思います」
「そうですか…」
クローゼットを閉めたのと同時に、後ろから抱きしめられた。
緊張なのか恐怖なのか、コビーから震えが伝わってくる。
「…どうしました?」
「…その任務…辞退できませんか…?」
いつものビビりで元気なコビーからは想像もつかないほど、か細い声。
「無理ですよ、私にしかできないことですから」
「少し遅らせることは」
「できませんよ」
「お願いです…」
「………」
抱きしめる力が強くなる。
コビーは本当に敏い。
センゴクさんもガープさんもおしゃべりだけど…誰がコビーに言ったとしても行き先だけは絶対に隠すはずなのに。
口裏を合わせたはずなのに、気づいてる。
私が、もう帰ってこないってこと…。
「行かないで…」
耳元で、切なくなるような涙声に、ズキッと心が痛んで、私は何も言えないでいる。
「好きなんです…僕…ツバメさんのことが…」
泣きたいのはこっちの方だ。
こんなことを言ってくれるのに、私はコビーを置いていかなきゃいけないんだから。
「好き…」
「好きです…」
「だから………行かないで………」
こういう時どうしたらいいのか分からないけど、どれだけ泣きたくなっても泣いちゃダメなのは分かる。
私はコビーの腕を解いて、向き直った。
「なに泣いてるんですか…大丈夫ですよ、ちゃんと帰ってきますから…安心してください」
「ツバメさん、ダメです…!行っちゃダメだ…!」
コビーの瞳から大粒の涙がぼろぼろこぼれ落ちる。
演技は得意なはずなのに。
心配かけたくないのに。
泣かせたくないのに。
こんな時に限って、どうしてバレバレの嘘しかつけないんだろう。
「…私が行かないと、海軍が危ないんです」
「嫌だ…!ツバメさん…ここにいて…」
「コビー…」
今度は正面から強い力で抱きしめられる。
私だって…離れたくないよ…。
でも逃げられないんだよ…助けてよ…。
って言いたくなるけど、今ここで弱音を吐いてはいけない。
覚悟を決めろ、ツバメ
海軍を守るため…コビーを守るためだ…。
ロシナンテ中佐のように、誰かのために命を捧げられるなら、それが私の、本望だ…!
「…っツバメさん…っ!」
コビーの手が頭の後ろに回ったと思うと、そっと唇が重なった。
唇が離れて、少し見つめ合う。
『僕は、海軍将校になるんです!』
そう言って誰よりも真剣に雑用をしていた君は、今や言葉通りの、精悍な顔つきの海軍将校になっている。
本当に、かっこいい。
ビビりだし、気が弱いところもあるけど、私はそんなコビーが大好きだ。
人殺しや暗殺に駆り出されてばかりで心を失いかけていた私が、こんなに人を好きになるなんて、思ってもいなかった。
私も、好きだよ、コビー…。
大好きだったよ…。
もう一度、コビーの顔が近づく。
舌が入り込んで、口の中で絡み合う。
「…っ」
私はコビーの肩を押し返す。
情に流されてはいけない。
私はもう、恋人ではいられないのだから。
コビーが前を向けるように。
引き止められなかったことを後悔しないように。
これが…恋人として私にできる最後のこと…。
「お願い…あなたは前だけ見ていて…」
「…っ」
「誰に頼ってもいい。泣いたっていい。立ち止まってもいい。
どれほど犠牲を払うことになっても、大切なものを失っても、受け止めきれないものと出会うことになっても…振り返らないで」
「[#da=1#]さん…!」
「コビーは、海軍大将になるんでしょ?」
「…ツバメさん…!!」
コビー…ごめんね。
今までありがとう。
愛してるよ。
伝えたくても、どれももう言えない言葉だった。
「僕も…愛しています…」
コビーは泣きながら私を抱きかかえて、ベッドに降ろした。
私は、君の寝顔を見てから、最後にキスを落として、水平線が明るくなる前に部屋を出て行った。
涙は、もう出なかった。
end.