あなたが願ってくれたから
主人公の名前
ツバメ・セナガキツバメ(初期設定)
21歳。元海軍中将。
今はいろいろあって麦わらの一味のクルー(戦闘要員)になっているけれど、ローに命を助けてもらったことがあり、ハートのクルー達とも仲がいいので船を行き来することが多い。
セナガキ(初期設定)
ツバメが海兵時代に使っていた偽名。
男性ということになっている。海軍暗部。
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side.コビー
7月7日の明け方。
今年もこの日がやってきた。
海軍って世界のほぼ真ん中だからか行事はどこよりもちゃんとやっていて、毎年七夕には海軍本部の玄関に大きな笹が飾られる。
海兵の七夕の願い事を吊り下げるのが、毎年の恒例行事だ。
この笹に吊るした願いは必ず叶うという噂を聞いてから、僕は同じ願いを毎年書いている。
「『海軍大将になる!』…」
でも吊り下げる前にセナガキさんに見せたくて、セナガキさんが帰ってくる明け方…朝の特訓が始まる前に部屋に行って、読み上げてもらった。
「お前まさか、わざわざこれを見せるためだけに来たのか?」
「はい、セナガキさんに見てほしくて」
「見なくても知ってたけどな、お前の願い」
「セナガキさんに読んでもらったら、叶う気がするんです」
「そうかよ」
「えへへ…」
セナガキさんは煙草をくわえた口元を少し緩めて言った。
「セナガキさんは書いたんですか?」
「入隊してからは書いたことねえな」
「えーっ、もったいないですよ!必ず叶うんですよ!?」
「んなわけねえだろ、ガキの頃書かされたけど叶ったことねえよ」
「書かされるって思ってたからでしょ、それ!
ちゃんと心からの願いは叶いますって!
ほらほら、書いてくださいよ!」
「持ってきたのかよ」
僕は短冊とペンをテーブルに置いて、窓枠に座っているセナガキさんを手招きした。
「名前書かなければ誰のか分かりませんし、僕が吊るしておきますから!ね?」
そう言うと、セナガキさんは、しかたねえな、といったふうに窓枠から降りて、黒いくせ毛頭をがしがし搔きながらこっちの椅子に座った。
特に悩むこともなくサラサラと書いて、ん、と僕に短冊を渡す。
もう書けたのか…セナガキさんの字、はじめて見たかも。
意外にもしっかり楷書体で綺麗な字だ。
「『コビーが海軍大将になりますように』…?それセナガキさんのお願いじゃなくて僕の願いじゃないですか」
「それ以外何を願えばいいのか分かんねえよ、俺には」
そうだよな、セナガキさんってこういう人だ。
自分のことにはすごく無頓着。
無欲だし無機質に感じることもある。
でも僕のために本気で願ってくれているのは分かる。
めんどくさそうにしているのは照れ隠しだ。
「ありがとうございます…でも、これじゃあ僕の願いが二重になっちゃうんで、僕が代わりにもう一つ書いていいですか?」
「まだあんのかよ、貪欲だな」
「もちろんですよ…はい、書けました」
『セナガキさんが幸せでありますように』
僕のために願ってくれたように、僕もセナガキさんのために何か願いたくなった。
「えへへ、僕、思った以上にあなたのこと、好きみたいです」
「お前…」
手渡した短冊を読んだセナガキさんは無表情だったけど、気持ちは伝わったんじゃないかなって、なんとなく感じた。
「俺の名前書いちゃったら本部の玄関に吊るせねえじゃん。センゴクさんに気づかれたら終わりだぞ」
「あ」
「馬鹿だなあ、お前」
セナガキさんは犬や子供にするように僕の頭をくしゃっと撫でる。
この少し緩んだ笑顔が大好きだ。
「吊るせないなら、これ、セナガキさんが持っててください」
「は?」
「だってこれ、セナガキさんじゃないと叶えられない願いでしょ?
ずっと持っててくださいよ!僕もセナガキさんに書いてもらったの、ずっと持ってますから!
お守りです!」
「…お守り、ねえ…」
~~~~~~~~~~~~~~~
あれから2年。
僕は18歳になって、大佐まで昇格した。
セナガキさんは21歳。
僕の隣にはもういない。
なんの因果か、海軍を辞めて海賊になってしまったから。
「コビー、願い事書けたか?」
ヘルメッポさんが僕の短冊をのぞき込む。
「『海軍大将になる!』…またそれかよ、変わんねえなあ」
「だって、絶対叶えたい願いを毎年書いた方が叶いそうじゃないですか?」
「分からなくもねえけどよ…」
『セナガキさんとずっと一緒にいられますように』ってあの時書いてたら、彼女が僕のそばを離れることはなかったのかな
…なんて、毎年この時期になると、あの年の七夕のことを少しだけ後悔する。
けれど、彼女はきっと幸せで。
僕が大将になることを彼女が願ってくれたから、僕はここまで来れたんです。
きっと彼女のことは一生忘れない。
僕はこの時期になると、彼女の不器用な優しさを思い出して、また強くなる決意を固められるんです。
敵同士になってしまっても。
それでも僕は、あなたを想っています。
この気持ちが届いてほしいと思いながら、今年もあなたの願い事を書いたんです。
end.