レイトン街恋物語
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「いらっしゃいませ」
3日目の護衛も終わり、4日目の朝。
船に乗る前に気になっていたレイトン街の『ステラ珈琲』に立ち寄った。
「あら、昨日の海兵さん」
「こんにちは」
「お勤めご苦労様です」
ステラさん…茶髪を一つに結びバッチリ化粧をした綺麗な店員さんが微笑むと、僕はヘルメッポさんと一緒に敬礼した。
「こいつが帰りに寄りたいって言うんで」
「ゆっくりしていってくださいね」
「ありがとうございます」
テーブル席に座ってメニューを開くと、おしゃれな名前のコーヒーがずらりと並んでいる。
ツバメさんに教えてもらったことはあるけど全然分からないんだよな、と思いながら、カフェオレと、ヘルメッポさんはステラブレンドを注文した。
「ここがツバメさんが通ってた珈琲屋さんかあ」
「あの人好きそうだよな、こういう店」
注文してから店内を見回す。
カウンターと合わせて20席ほどの店内は、天井は高いが狭くもなく広くもなく、床やテーブルや椅子、カウンターや窓枠や照明など、いたるところに上質な木がたくさん使われていて、居心地がいい。
カウンターが広くおしゃれだし、奥には大きな暖炉がある。テーブルクロスや壁にかかったタペストリーはノース織り。ブランケットはユキウサギの毛。並んでいるカップやソーサーはこの辺りの工芸品に多い細かい模様のもので、ノースブルーに来たなと感じるお店だ。
「昨日のカフェオレ、ツバメさんが淹れてくれるのと全く同じ味だったんですが、ここに通っていたからなんですかね」
「お前ほんとツバメ中将大好きだな」
「えへへ」
「あの…!」
カウンターに座っていた女の人が立ち上がってこちらに話しかけてきた。
そばかす顔で、赤い髪を一つに編んで、縁のないメガネをかけている。
ピンクの暖かそうな丈の長いワンピースにブーツを履いた可愛らしい人だ。
「今、ツバメとおっしゃいましたか…?!」
「え?ええ…」
「彼は今どうしていますか?」
僕たちのテーブルまで歩いてきて、机に両手を置いて前のめりになっている。
「えっ?」
「あ、ごめんなさい、いきなり…ツバメさん…昔この辺りに住んでいた海兵さんと同じ名前で…うちの本屋に通ってくれていたので、久しぶりにお名前を聞いたものですから」
「!じゃあ、あなたが…」
「そこのアンリ古書堂のアンリと申します!」
この人が…ツバメさんに手紙を送った女の子…。
マヤ様と本を書いてるっていう…。
「ツバメ中将は俺たちの先輩ですよ」
「僕はツバメさんの副官をしています」
「中将…副官…」
「ツバメさんは元気に世界中飛び回っていますよ」
「そうですか…!」
ぱあっとアンリさんの顔が明るくなった。
「お隣よろしいですか?!ツバメさんのお話、聞かせていただきたいです!」
「ええ、どうぞ」
「なになに、あなたたちツバメくんの後輩なの?」
カフェオレとステラブレンドを僕たちのテーブルに置きながら店主のステラさんが言った。
「はい、ツバメさんがここに通っていたとマヤ王女が仰っていたので、どんなところかなと思って」
「というかツバメくん中将なの?!すごいわ、大出世してるじゃない!良かったわねアンリ!」
「な、何がですかっ!」
「あれから5年ってことは…ツバメくん20歳でしょ?あのかわいい王子様が今や20歳の海軍中将よ?絶対カッコ良くなってるし!将来有望じゃない!」
「わ、私はもうそんなんじゃありませんから!」
「ふうん?いつも海軍のニュースチェックしてツバメくん探してるのに?」
「ステラさん!」
アンリさんは顔を真っ赤にしてぶんぶん首を振る。
「あの、ツバメさん、有名な海賊と一緒に住んでいたと聞いたのですが」
僕が訊くと、ステラさんもアンリさんもぴくっとして、顔を見合わせた。
「あ、あの、上に言うなんてことはしません!ただの興味ですから!」
「ほんと〜?あなた真面目そうだからちょっと信用できないわ〜」
「うぐっ…」
「あれでしょ?『海賊と青年』のお話、マヤ様に聞いたんでしょ?マヤ様、あの2人の話が一番好きだから」
ステラさんも自分のコーヒーを淹れて僕たちの席の近くの椅子に座った。
「私も本読んだわ、えらく脚色されているけど、面白かったわよ」
「私は見たまま聞いたままを書きましたよ、脚色したのはマヤ様だわ。でも本のおかげで街の人の海賊と海兵のイメージが変わったみたい。毛嫌いする人が減ったように感じるとマヤ様もおっしゃっていたわ」
「本にまでされてるってやっぱあの人すげーな…」
ヘルメッポさんがぼそっと言ってコーヒーを啜る。
「もちろん名前は変えていますし、言ってはいけないことは書いていませんよ。よければ1冊1000ベリーでどうですか?」
「僕2冊買おうかな」
「マジかよお前」
「ツバメさんにも買って帰ります」
「ツバメさんに届けてくださるんですか?!」
アンリさんが食い気味に言うので少し引いてしまった。
「ええ、喜ぶんじゃないかと思って…」
「…でしたら、1冊は差し上げます!」
「え」
「本を取って来ますので少々お時間をいただけますか?ステラさん、便箋とペンを貸してください」
「わかったわ」
「きゃあああ〜〜〜どうしよう!ツバメさんが読んでくれるんだ…!嬉しいけど恥ずかしい…!!」
なんて顔を真っ赤にしながらアンリさんは一旦店を出て行った。
「ツバメ先輩は海軍ではどんな感じなの?やっぱり厳しい?」
ステラさんは楽しそうに訊く。
「すっっっごく優しいです!」
「すっっっごく人間離れしてるけどな」
「部屋に行くといつもカフェオレ淹れてくれるんですよ!このカフェオレと全く同じ味で、昨日飲んだ時びっくりしたんです!」
「そう、豆の種類教えたから、それで淹れてるのかもね。あの子こだわり強いから」
ステラさんは懐かしむように話した。
「あの子優しいのね…そうよね、いつも街の人の探し物手伝ったり無償でお仕事手伝ってたもんね…。謹慎中なのにアンリ守るために海賊と乱闘したり、あの人助けるために敵のアジトに殴り込みにいっちゃうような子だものね…」
「あの人っていうのは…」
「海賊よ、『海賊と青年』の」
「その海賊って」
「私の口から言うのは良くないと思うわ、本人に聞けばいいじゃない」
「うぐっ」
「あの人絶対教えてくんねえぞ」
そう言われるとそうなんだけど…ヘルメッポさんの言う通りだ。
「そうね…名前は伏せてあるけど、物語をよく読めば分かるかもしれないわね」
ステラさんはうふふっと笑って、コーヒーを飲んだ。