レイトン街恋物語
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side.コビー
今日はヘルメッポさんとノースブルーのルブニール王国に来ている。
ルブニール王国の王女マヤ様の生誕祭で護衛任務だ。
王女は3日かけてルブニール王国を周って国民とふれあい、国中でパーティーをする。4日目に帰還する予定だ。
今日は2日目。『レイトン街』という、昨日の都心部から少し離れた観光地。
街そのものが『世界一美しい雪の街』と呼ばれていて、雪の日は本当に素晴らしい。
あと、観に行く時間はないだろうが、なんでもオーロラが綺麗に見える場所があるそうだ。
「はっくしょん!」
「大丈夫かコビー」
「うん、やっぱり寒いね」
「ほらよ」
「ありがとう」
雪の街中でマヤ様が市民とお話している途中で、ヘルメッポさんがカフェオレを買ってきてくれて、マヤ様と僕に手渡した。
あったかい…手がじんわりする…。
暖を取ってから一口飲むと、僕の大好きな味だった。
どうしてだろう。
ツバメさんが淹れてくれるカフェオレと同じ味がする。
「これ、どこで買ったんですか…?」
「そこのコーヒー屋だが?」
木製の柱にガラス張りの、青い屋根のお洒落なお店だ。
青い旗に金文字で『ステラ珈琲』と書かれてある。
帰りに寄ろう。
「ヘルメッポ殿、ありがとうございます!わたくし、ステラさんの珈琲大好きですの!」
マヤ王女は嬉しそうに言って珈琲を飲んだ。
この国の王女・マヤ様は庶民のものが大好きであまり王女らしくはないが、赤毛のアンみたいで好感が持てる。
「『世界一美しい雪の街』…でも市民は皆雪をも溶かす愛と温もりを持っているわ…『雪をも溶かす愛の街レイトン』…。よい市民が多くて大好きだわ」
馬車に乗ってコーヒーを飲みながらマヤ様は仰った。
「お二方は、恋人はいらっしゃらないの?」
「えっ!?」
「俺はいませんが…」
「ぼ、僕もいませんよ」
「片想いですね、こいつは」
ヘルメッポさんは王女に何か耳打ちすると、王女は頬を紅潮させた。
「まあ!素敵!!告白なさらないの?」
「ええっ!?無理ですよ!」
「どうして?」
「どうしてって…その…彼は男性ですし、僕のことはそんなふうには見ていませんから…」
「いいじゃない!恋はいつもハリケーンですのよ?好きと言われて喜ばない殿方はおりませんわ!」
「いやまあそうかもしれませんけど…」
「そうだわ!コビー殿には『海賊と青年』のお話を是非お聞きになっていただきたいわ!」
マヤ様がパン、と手を合わせて楽しそうに言った。
「『海賊と青年』…ですか?」
「ええ、レイトン街に語り継がれている恋物語は数多ありますが、その中でもわたくし一番好きなお話ですの!これを聞いた時本当に胸を打たれましたわ!次の移動も長いようですから、暇つぶしにちょうどいいでしょう」
「これはまだ4年ほど前のお話ですわ…このレイトン街に、それはそれは美しい青年が引っ越してきました」
馬車が出発すると同時に、マヤ王女は語りはじめた。
「青年は資産家の一人息子で少し世間知らずでしたから、社会勉強のために一人暮らしをしてみなさいとお祖父様に言われて、この街にやってきたそうです。
丁度あなたがたと同じくらいの年頃ですわ。無口で物静かですがとても賢く、街の人が言うには、雪のように白い肌に猫のように大きな黒い瞳が印象的で、その瞳に見つめられれば誰もが虜になってしまうほど、本当に美しい青年だったそうです」
「青年がこの街にきて2ヵ月が過ぎる頃…ある雪の夜、彼は大通りを歩いて家に帰る途中、暴漢に絡まれてしまいました。
路地裏に引きずりこまれ、殴られ蹴られしていたところを、通りすがったある有名な海賊が助けたのです」
「有名な海賊?」
「当時ノースブルーで頭角を表し手配書が出回りはじめた賞金首ですわ」
マヤ様は少し注釈を入れながら話を進めた。
「青年は助けてくれたお礼に何かご馳走させてくださいと海賊に申し出、小料理屋で食事をしているうちに二人は意気投合しました。
海賊は青年に打ち明けます。
戦闘で船を壊された状態でなんとかこの街に流れ着いたのだが、金庫も何もかも海水で水浸しで、修理に必要なお金も食べる物もなく、部下たちも路頭に迷ってしまったと。
そこで青年は、ログがたまって修理が完了するまでの1ヵ月間だけ、1億で彼をボディーガードに雇うことにしました」
「ええっ!?」
「1億!?海賊に!?」
「面白いでしょ?」
マヤ王女は続けた。
「海賊も強面ですが背が高く男前でしたから、王子様のような青年と2人で並んでいる様子は人目を惹きました。
とは言えこの街は海賊嫌いが多いので、やはり最初は誰も海賊に近寄ろうとはしませんでした。
ですが、海賊はとても品のある男でした。
街の人たちを脅したり傷つけたり物を盗むような、所謂『海賊行為』はしませんし、温厚で礼儀正しく、ただいつも青年を隣で優しく見守っています。
それに、いつも物静かな青年が、海賊といるときは口数が増えて、とても楽しそうにいろんなことを話してくれるのです。
そんな二人の様子を見ていた町の人はいつしか海賊を信頼するようになり、二人は仲のいい主人と使用人で有名になりました」
「二人で過ごしているうちに、海賊は、自分のことを怖がらず、いつも明るく楽しく話しかけてくれる可愛らしい青年に、いつしか恋をするようになりました。
とは言え彼も青年も男ですし、彼は海賊で、雇ってもらっている身…しかも青年は街の女の子にモテモテです。
青年に気を向ける女の子たちに嫉妬しながらも、自分に振り向くことはないだろうと、海賊はその気持ちをそっと心にしまっておくことにしました」
「ところが、聖バレンタインデーに事件が起こります。
海賊が青年のお使いでいつも通っている本屋に行くと、本屋の少女が、青年に渡してくれと可愛らしい封筒を海賊に渡しました。
世界的にはバレンタインデーは好きな相手にチョコレートを贈る日ですが、この街では、思いを寄せる相手に夜のお誘いの手紙を送る風習があります。
海賊は不本意ながらも帰ってきて封筒を青年に渡しましたが、たった一枚の手紙を何度も読み返す青年を見て気持ちを抑えきれなくなった海賊は、勢いで口付けてしまいます。
溢れる思いをぶつけられた青年は困惑して、喧嘩に発展してしまい、青年は家を飛び出してしまうのでした」
「心配した海賊は必死に探します。
青年が行きそうな場所を片っ端から当たりましたが、一向に見つかりません。
ふと海賊の電伝虫に青年から通信が入りました。出てみると青年ではなく、青年に手紙を渡した本屋の少女。
『助けて!彼が海賊に襲われているの!』
受話器の奥から少女が叫びます。
海賊はすぐに本屋へ向かいました」
「中に入ってびっくり。海賊らしき男たちがすでに100人近く倒れていました。胸を刺されて出血多量で気絶寸前の青年が、少女を後ろ手に庇って、なんとか立っていたのです。
海賊が残りの男たちを素早く倒し、急いで青年の手当てをして家に運びましたが、ふと、青年のコートのポケットから手帳が落ちました。
中を見た海賊はまたびっくり。その手帳は海兵が持つ海軍手帳だったのです」
「えっ?!」
「そう、青年は実は資産家の息子などではなく、海軍将校…しかも当時世間を恐怖に陥れたロビンソン事件の大量殺人犯『ゴーストマリーン』だったのです」
「「えええっ?!」」
ってことは、その青年って…ツバメさん?!
「手帳の中を見ると、いつもの可愛らしい青年ではなく、軍服を着て精悍な顔つきをした青年の顔写真。
書かれてある情報は、名前も年齢も誕生日も出身地も、海賊が知っているものとは全く違いました」
「青年は社会勉強ではなくロビンソン事件の謹慎処分のためにこの街に島流しされてきたのです」
それまでの話も面白かったけれど、ツバメさんの話だったと分かってから、僕もヘルメッポさんもどんどん話にのめりこんでいった。
「青年が8歳の頃に、同じく海兵だった青年の父親が殉職しました。
しかし子供だった青年は、なぜ父が亡くなったのか、誰にも教えてもらえませんでした。
幼かった青年にとって海兵の父親は憧れで、最愛でした。
その父親が亡くなってから、彼は犯人を突き止めて復讐することを心に誓い、海軍に入隊したのです」
そうだったのか…。
「彼は飛び抜けて優秀で、1年と経たず海軍将校になりましたが、その頃にはすでに復讐に囚われ、心を失っていました。
人を殺すことに躊躇いもなく、大物海賊を次々に死刑台に送りました。
そして、優しかった父親とは真逆の、大量殺人鬼に堕ちていき、この街にやって来たのです」
「そしてあの夜、謹慎中で騒ぎを起こせない身だった青年は暴漢を返り討ちにすることもできなかった…そこをたまたま通りがかった海賊が助け、2人は出会ったのです…」
「父親が亡くなった事件に海賊が関与していると踏んでいた青年は、ロビンソン事件よりずっと前から海賊のことを追っていましたから、青年にとってこの出会いは運命でした。
青年は海賊に出会ったその瞬間から計画を練り上げます。
海賊に近寄るために夕食をご馳走し、世間知らずのかわいらしいお坊ちゃんを演じて彼の懐に入り込み、ボディガードとして自分の近くに彼を置いて徹底的に調べ上げることにしたのです」
「そして、本屋の襲撃事件の時にはすでに真相に辿り着いていた…。
青年の父親はあるマフィア組織の幹部として潜入していた時に、自分の命と引き換えに、当時13歳で組織員だった海賊を助けるために亡くなったのです。
青年の父親は青年を愛してくれたのと同じくらい、不治の病で余命幾ばくかだった少年の海賊のことも愛していた…。
海軍の任務を遂行することより、マフィアの幹部として立ち回ることより、病を治してマフィアから彼を解放することが父親にとっての正義だった…。
そう、青年は全てを知ってしまった…青年と海賊は、血は繋がっていないけれど、同じ人を父として尊敬する兄弟だったのです」
「複雑な思いはありましたが、父親がいなくなってからずっと孤独だった青年は自分と同じように父を愛する兄弟がいたことを嬉しく思いました。
しかし海兵と海賊が一緒にいることはできません。
正体がバレてしまった青年は、半月分の給与と向こう1ヵ月海賊団が困らないだけの金額を渡してクビにすることにしました」
「しかし、その後すぐ、緊急任務として青年に海賊の暗殺命令が下ったのです」
「!」
「海賊は当時ノースブルーで頭角を表してきた億越えの賞金首…早いうちに摘み取らないと大変なことになると海軍側が危惧したようです」
「青年は葛藤します。
青年は、最初は海賊を油断させて情報を引き出すために、ただひたすら可愛らしいお坊ちゃんを演じていました。
ですが、海賊は青年を一ミリも疑いませんでした。
口から出まかせのくだらない話を素直に楽しんで聞いてくれる。
演技のために作っている食事を毎日美味しそうに食べてくれる。
自由にしていいと言った休日ですら一緒にいてくれる。
そう、海賊はどんなときも青年に優しかったのです。
海賊の愛は、青年の冷え切った心を気づかないほどゆっくりと溶かしていたのでした。」
「自分に心をくれた兄弟分の海賊を殺すなんて考えられません…このまま海賊と同じ船に乗りたいと一瞬よぎったくらい、彼の中で海賊は、もうただの使用人やターゲットではなくなってしまっていました…」
「しかしそうしているうちにどんどん期日が迫ってきます。もう日がありません。
そんなある日、青年の元に、海賊の部下が2人たずねてきました。
キャプテンがいなくなったと言うのです。
心当たりは全部探したが見つからない。青年は探し物が得意だから、青年なら見つけられるのではないかと藁にもすがる思いで来た、どうか力を貸してくれないかと」
「賢い青年は持ち前の推理力で短時間で居場所を特定し、すぐに部下2人とともに敵のアジトに向かいます。
青年は扉を蹴破って、海賊の手当を部下2人に任せて、200人を相手に1人でカタをつけました。
それから海軍支部に引渡し、事情聴取などの後処理を全て終えてから、夜遅く、海賊の棲家に向かいました。」
「海賊は命に別状はなく、明日には目を覚ますだろうと部下たちは言いましたが、青年は心配で、眠っている海賊の手をずっと握って様子を見ていました。
翌朝、海賊が目を覚まし、隣で眠る青年を優しく起こすと、海賊は微笑み、青年は涙を流しました。
その微笑みを見て、自分はこの人を殺せないと悟った青年は、海賊に全てを話すことにしました。
海賊を殺せと命令が下った、時間は稼ぐから出航準備ができたらすぐにノースブルーを出てグランドラインに入ってくれ、あなたほどの海賊なら生き残っていけるはずだからと。
海賊は、なぜ俺を殺さないんだ、俺を逃がしたとバレたらお前は海軍将校ではいられなくなるぞと青年に問うと、青年はこう言ったそうです。
「僕はまだまだ未熟なんです…一夜で大型船と軍艦を125隻沈めた…敵味方問わず6000人の命を奪った…昨日だって、200人を2時間かけずに捕縛した…なのに…指令が降りて10日を過ぎてもたった1人が撃ち落とせない…!」
「あなたはずっと一人だった僕に心をくれた…あなたを殺すなんて…僕には考えられない」
青年は泣きながら続けます。
「もうどうしたらいいか分かりません…でもきっと、父さんなら…父さんならあなたを殺すなんて絶対にしない…だから、とにかくあなたは僕から逃げてください…」
そう言って帰ろうとする青年を海賊は抱きしめ、彼の左手の薬指に指輪を嵌めました。
青年の青い瞳と同じ色の宝石がはまった、綺麗な指輪です。
海賊はたった一言「愛している」と青年に想いを告げました。
青年は戸惑いますが、その言葉を聞いても、彼の中には不思議と海軍を辞めるという選択肢はありませんでした。
最初は復讐に囚われていた青年でしたが、彼は思い出したのです。
自分が父親にずっと憧れていたことを。
自分も父親のような優しい海兵になりたかったことを。
青年の中には、敵である海賊を想えるほどの優しさも、少女を一人で守り抜く強さも、一人の海軍将校としての揺るがないプライドも、ちゃんと根付いていたのです。
それに気が付いた青年は、「あなたのために志を捨てられない」と指輪を返しました。
海賊は「そう言うと思った」と一言つぶやいて、また言います。
「そんなお前だから好きになったんだ」と。
海賊は微笑み、青年の手を取り、指輪をはめ直し、その指先にキスを落としました。
青年はぼろぼろと涙をこぼしながら、海賊に抱き着きました。
ひとしきり泣いた後、青年はいつも首からさげて肌身離さず身につけていた父親の形見の指輪を海賊の首にかけました。
「こんなに高価な指輪のお返しにはならないかもしれませんが、僕の一番大事な宝物です。あなたが持っていてください」
海賊は知っていました。
そのお守りが青年にとってどれほど価値があるものなのか…
そして、内側に青年の本名が彫られた、海賊の指のサイズの2倍はあるその大きな指輪が、誰のものだったのか…。
「僕も、愛しています」
青年はやっと海賊に気持ちを伝えて、口づけたのでした。
それから出航の日までの短い間、二人は青年の家でまた仲睦まじく過ごしました。
船の修理が終わって出航の日がやってきました。
街を出ればもう敵同士です。
青年は別れを惜しみながら、海賊と別れのキスを交わし、海賊を見送りました。
見送りが終わってから、青年も東側の港に停泊していた海軍の軍艦に乗って、街を出て行きました。
それから2人はどうなったのかは誰も知りませんが、レイトン街のこの1ヵ月は、きっとお互い一生忘れることはないでしょう。
おしまい」
マヤ様が話終わる頃には、僕もヘルメッポさんも呆気にとられていた。
ツバメ中将の恋の話を聞かされるとは思っていなかった…。
しかも相手は海賊だし…大恋愛じゃないか。
4年前ってことは…ツバメ中将15歳…!?相手の海賊いくつだったんだろう…今でも好きなのかな…とか、いろんな想像が頭を駆け巡る。
「いいお話でしょう?」
「ええ、マヤ様はお話お上手ですね…」
「この話は1000回していますから、慣れもしますわ。でも1000回話しても飽きないお話!ああ、二人はその後敵同士…結ばれることはないのかしら…!どうしているのかしら…!」
「これ、全部実話なんですよね…」
「アンリ古書堂のアンリさんと私で実話を元に編集して作りましたの。今のは少し話しやすく聞きやすく省略していますが…完全版も是非読んでいただきたいわ!ああ、帰りにアンリ古書堂に是非お立ち寄りくださいな『海賊と青年』というタイトルを言えば出してくださるでしょうから」
マヤ王女が話終わると同時に、馬車が次の目的地に到着した。