#04 エリスの赤い薔薇
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すっかり暗くなった道を歩く。
「『エリスの赤い薔薇』気分は味わえたか?」
「はい、すっごく楽しかったです!」
俺がそう訊くと、スバルはすごく嬉しそうな顔をした。
「ですがおそらくあの世界のガールズバーは300年前のゴア王朝の貴族サロンと古代ワノ国の廓を足して2で割ったようなものだろうという結論に至りました」
「そうかよ」
…かわいい。
これをかわいいと思う俺って末期かもしんねえ。
「『エリスの赤い薔薇』ってどんな話なんだ?」
俺が訊くと、スバルは語りだした。
「…スラム街にエリスというガールズバー…娼館で働く女の子がいました。
彼女はまだ14歳でしたが、とても美しく、未来を予知する力を持っていて、その予知能力と美しさを使って、若くしてそのお店のNO1に成りあがった女の子でした。
ある日街を取り仕切っているマフィアが店にやってきて、ボスの付き人だったゲインズはエリスに一目惚れします。
No.1のエリスの手練手管にゲインズはどんどん溺れていきますが、エリスにとってはゲインズはただの客の1人。身請けされるつもりもなく、ただ嘘の愛でゲインズを手のひらで転がしているだけでした。
ある日その街でマフィアの抗争があって、街は焼け野原になってしまいます。
ゲインズはすぐにエリスを助けに行きますが、店は焼け落ちて、オーナーも店の女の子たちも亡くなっていました。
やっと見つけたエリスも、絹のような髪は焼け落ちて美しい肌も焼け爛れ、変わり果ててしまっていました。
エリスは何もかもを失って自暴自棄になります。私から美しさを取ったら何も残らない、枯れた花は土に還るしかないのだと、ゲインズの拳銃を奪って自殺をしようとします。が、ゲインズは、全てを失っても君の心は美しい、冬に花が枯れてもまた春に咲くだろうと言ってエリスの自殺を止めます。
ゲインズは自分も死んだことにしてエリスと一緒に亡命し、遠い街に2人で住むことにしました。
自分を助けてくれた上にその選択をしてくれたゲインズにエリスは恋に落ちて、ゲインズのためになんでもしようと未来予知能力をバンバン使ってすごくいい生活ができるようになったのですが、裏社会で生きてきたゲインズは平穏な生活の中で、ファミリーを裏切った罪悪感と追いかけまわされる恐怖にさいなまれて気がくるってしまうんです。
エリスはゲインズをよく支えます。
ゲインズの固く閉ざされた心がエリスのひたむきさにだんだん溶けていく場面もあり、ゲインズに傷つけられて涙を流す場面もありますが、最終的にはエリスはマフィアのボスの命令でゲインズに殺されて亡くなり、ゲインズもその後すぐボスに殺されます」
「どこが面白いのか全然分からねえな」
「面白いというより深いです。エリスは自分がゲインズに殺されることを知っていながら、ゲインズに献身し続けていたんですから…それにゲインズに殺される時のエリスのセリフがすごくいいんです…
『貴方様はすでに枯れた花を綺麗だと仰った…おかげでまた咲くことができた…私はもうそれだけで十分ですわ…薔薇の花はいつまでも真っ赤に燃え盛る炎のように、私のこの生が尽きてもなお美しく咲き続けるでしょう…。
誰にも手折ることのできない、私だけの花…ゲインズ様のお好きな真っ赤な薔薇の花…。
貴方様も必ず出会える…薔薇の花が咲く瞬間に…悪夢から醒める一瞬に…。
どうか貴方様がこの花を見つける日が来ますように…』」
「覚えてるのかよ」
「だってこの話大好きですから…。殺されると知っていながら恋に落ちて、自分を殺すだろう相手を献身的に支えて愛して死んでいく…身を捧げることの本当の意味を教えてくれるお話です」
街灯の下で、スバルは少し悲しげに笑った。
「ローさんは…すべてを捨ててでも一緒になりたいと思うほど人を好きになったことはありますか?」
いきなりそんなことを訊かれた。
「いいや」
「そうですか…だったら、読んでみるといいかもしれません」
「いや、いい」
俺に『献身』なんて似合わねえ…。
俺は先に歩いて、スバルが後から俺を追いかけた。
end.