#11 愛し抜く正義
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それからペンギンの作った朝食を食べている間にシャチが帰ってきた。
グランドラインに行くことをシャチに話したらひっくり返りながらも他のクルー達を呼んできて、狭い部屋でひしめきながら、今後の航路について、スバルを交えてミーティングをした。
スバルはなかなか鋭い。
少尉にしておくのはもったいないくらいで、ベポ達も感心していた。
その後少しわいわいしてから17時ごろに解散して。
スバルに散歩に誘われて、外に出た。
久しぶりにスバルと歩く街は懐かしかった。
完全に陽が沈んで、雪で覆われた街の街灯がぼうっと明るく燃えはじめる。
夕飯の匂いがして、子供たちがきゃっきゃと家へ帰っていく様子を眺めながら、雪道をスバルと歩いた。
「お前の父親って、コラさんだったんだな」
俺は先を歩くスバルにそう言った。
「コラさん…?ああ、コラソンですね」
スバルはクスッと笑う。
「ロシーと一緒に過ごしたのは1年ちょっとで、そのあとドンキホーテ海賊団に潜入捜査に行ってしまったので、あなたの方が長いと思いますが」
「小さかったけど、愛してもらえたことはよく覚えています」
「俺もだ」
スバルの海軍手帳の写真のコラさんは、俺が知っているコラさんと全然違っていたけれど、俺が知っているコラさんと同じ笑い方をしていた。
「手配書が出た当時から、あなたのことはマークしていました。
なにせロシーが亡くなった日に消えたオペオペの実の能力者ですから」
「まさかお前が俺をボディーガードに雇ったのって…」
「ええ、ロシーのことが分かるかもしれないと思ったからです…こっそり調べさせてもらったおかげでいろんなことが分かりました」
ステラ珈琲を過ぎ、アンリ古書堂も通り過ぎて、坂道にさしかかった。
「ロシーは僕を拾って、名前をつけて育ててくれた人です。ですが彼は僕が8歳の時に殉職しました…」
坂道を上りながら、スバルはぽつぽつ話しはじめた。
「なぜ父が死んだのか、子供だった僕は教えてもらえませんでした…だから調べた…僕の推理になりますが…彼はある海賊団の潜入捜査で自分の命と引き換えに、白鉛病の少年を逃がそうとして、ボスに殺されて殉職したのではないかという結論に至りました」
そこまで調べたのか…。
「彼は海軍と海賊団の二重スパイをしていた…しかし最後は海軍の任務も海賊団の任務もどちらも捨てて、たった一人の子供を守って亡くなった…推測の域を出ませんが、確信に近いものを感じています」
「どうしてそんなことをしたのか僕には分かりません。ですが、もしこの推理が真実であれば、ふたつ、言えることがある…」
「彼は僕を愛していたのと同じくらい、その子を愛していたということ。
そして、そこに彼の正義があったこと」
「僕はまだ少尉ですが…少尉に上がってからいろんなことが見えてきました。今の海軍では自分の正義を貫けない人間は世界政府に食い殺されます…世界政府のやることが全て正しいわけではありませんから」
「ロシーが海軍もファミリーもどちらも裏切ってその子を助けたのは、彼が彼の正義を貫いたからです」
「僕はそんな父を誇りに思います。僕は父のような海兵になるんです」
坂道を15分ほど登って公園に着く。
いつか屋台の焼き芋を買ったところだ。
見下ろすと、宝石を散りばめたような夜景が向こうまで広がっている。
散歩はいつも昼だったから、こんなに夜景が綺麗だなんて知らなかった。
「ねえ、本当のことを教えてくれませんか?ロシーはなぜ死んだのか」
スバルは手すりにもたれて俺を見て言った。
「ほとんどお前の推理通りだ…あの日、ドンキホーテ海賊団はバレルズ海賊団と世界政府の取引でオペオペの実を横取りしようとしていた…。
コラさんはドンキホーテも海軍もどちらも裏切って、俺の病気を治すためにドンキホーテより先にオペオペの実を奪う…俺はその間に、海軍の人間にドンキホーテファミリーの機密情報を書き込んだものを渡すようコラさんに頼まれたんだが…俺が海兵だと思って渡した奴がヴェルゴだった」
「!ヴェルゴ…!!!」
「ああ…ヴェルゴはドフラミンゴファミリーのスパイだ…早く逮捕した方がいいぞ」
「…」
「それでドフラミンゴに海兵だったことがバレて…コラさんは合流した俺にオペオペの実を俺に食わせて宝箱に隠し、ドフラミンゴに銃殺された…ドフラミンゴが去った後、俺はコラさんの言った通りに、隣の島へ逃げた…」
「…そうでしたか」
「…俺はあの人に命も心ももらったんだ…」
「…そうでしたか…」
スバルは遠くを眺めながらタバコに火をつけると、ふーっと煙を吐く。
雪が降ってきた。
雲に覆われて月明かりは見えないが、代わりに夜景が夜のレイトン街を美しく照らす。
しばらく俺たちは夜のレイトン街を眺めていた。
3日後にはこの街とも、こいつともお別れだ。
「月が綺麗ですね」
ふと隣でスバルは下を向いて言った。
「今夜は曇りだぞ」
「そうですね」
スバルは少し困ったように苦笑いした。
何を言っているんだと思いながら、雪の中、またしばらく二人で夜景を眺めた。
ふと隣にいたスバルを盗み見る。
遠くを見つめている横顔が、今まで見た中で一番綺麗に映った。
俺の視線に気づいたのか、スバルが不思議そうに俺の顔を見ると、俺は照れ隠しに夜景に視線を戻す。
肩が触れ合う距離。
スバルの手の甲が、俺の手の甲に触れる。
スバルの手が、俺の小指を遠慮がちに掴む。
スバルと指を絡めると、スバルは俺の隣で俯いた。
長い間夜景を観ていた。
さて帰りましょうかと、公園の階段を下っていく。
人通りが増えてきそうな教会の前で繋いだ手を離して、バー『こぐま』の角を曲がって、郵便局を左に曲がり、大通りの坂を下っていく。
今日は今月一番の寒さだからか、早い時間に人通りもなくなっていた。
「…ローさん」
黒猫が一匹、俺たちの前を通り過ぎたとき、スバルは立ち止まった。
「ここ、覚えていますか?」
「お前の散歩コースだろ」
「僕とローさんがはじめて出会った場所です」
「ああ…そうだったな」
そう、右側に伸びた細い路地の奥で、スバルは暴漢に襲われていた。
こいつが敏腕海兵だと知った今では考えられないが、謹慎中で騒ぎを起こせないスバルは本気で喧嘩を買うわけにはいかなかったんだ。
「あなたが助けてくれて…あそこの居酒屋に入ったんです」
少し下ったところに見えるワノ国風の建物を指差す。
「ああ、金がなかったから飯抜きにしようと思っていたんだ」
「僕はそれを察知して、1億であなたを雇うことにした…」
懐かしいな。
まさかこいつとこんなことになるなんて、あの時は全く予想していなかった…。
「あの時はお前が海兵だなんて全く思わなかったな…世間知らずのお坊ちゃんだと完全に騙されて…」
俺が言い終わる前に、スバルが後ろから抱きついてきた。
俺は驚いて何も言えなかったが、しばらくして啜り泣く声が聞こえてきた。
「ローさん…」
「どうした?」
「…すき」
雪の舞う音にかき消えてしまいそうな声だった。
「離れたくない………」
「本当はクビにしたくなかった…そばにいたかった…でも僕は……あなたのそばにはいられない………」
俺は腕を解いて向き直ると、正面からスバルを抱きしめた。
街灯が人通りのない夜の雪の街を優しく照らす。
柔らかい雪が降り積もっていく。
動いていた時間が止まったのか、止まっていた時間が動き出したのか、どっちなんだろう。
コート越しに確かにスバルの体温を感じていた。
「スバル…」
俺は腕の中で泣くスバルの涙を両手の指で拭うと、そのまま頬を包んで、そっと唇を重ねた。
唇を離すと、スバルの大きな瞳が伏目がちに開いて、また俺を見つめる。
心臓の音が聞こえそうな距離。
今度はスバルからちゅっ、と口づけられる。
子供がするような、拙いキス。
俺はそれを合図に、スバルの口内に舌を捩じ込んで、舌を絡み合わせる。
「っん…」
だんだんスバルの息が荒くなって、鼻に抜けるような少し高く甘い声が出る。
胸を押し返されて唇を離すと、顔を真っ赤にして涙目でスバルが俺を見ていて、また抱きしめた。
「ローさん…出航まで、うちでまた暮らしませんか」
「…意味分かってんのか」
スバルはこくっと頷いた。
雪は静かに降り積もっていく。
end.