#11 愛し抜く正義
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side.ペンギン
さっきシャチがベポたちと一緒に大きなアタッシュケースをたくさん持って帰ってきた。
スバルくんの言う通りにロビンソンの船からお宝を持ち出して換金したら1億どころか10億近くになったらしい。
ここまでえげつないことしたことないからドキドキしたぜ!ってはしゃいで、キャプテンの様子を見て、シャチはバイトに行って、ほかのみんな晩メシ食って日をまたぐ前に寝に帰った。
命に別状はない。明日には目が覚めるだろう。
俺もそろそろ寝ようと布団を敷きはじめたとき、コンコンと玄関のドアをノックする音が聞こえた。
誰だろう、こんな夜遅くに。
「はい?」
「ペンさん、スバルです」
スバルくん…!?
スバルくんが来るなんて思わなかった。
「ローさん大丈夫ですか?」
ドアを開けてすぐに俺にそう訊いた。
血まみれのスーツから別のスーツに変わっているが、キャプテンを心配してかロビンソンの事後処理に追われているからか、顔が少し青白い。
「うん、まだ寝てるけど、命に別状はないよ」
すぐに中に入って、奥のベッドに横になってるキャプテンを見つけて駆け寄ると、心配とか恐怖とか切なさとか、いろんな感情が入り混じった顔でじっとキャプテンの寝顔を見つめるから、俺の方が胸がぎゅっと締め付けられるような気持ちになってしまった。
「大丈夫だよ、うちのキャプテンはヤワじゃないから。きっと明日には目を覚ます」
俺がそう言っても、ベッドの脇でキャプテンの手を握るスバルくんの手が震えていた。
「心配?」
「ローさん、死なないですよね…?」
「死なない死なない、これくらいどうってことないよ」
「大丈夫、ですよね…傷、残ったりしないですよね…?」
「心配しすぎだよ」
スバルくんは俯いた。
「…僕は放っておけば治るけど、ローさんはそうじゃないでしょう…」
スバルくんはそう言って、キャプテンの額の青あざをそっと撫でた。
「…そんな顔するならキャプテンに本当のこと言えばいいのに」
スバルくんは黙った。
「キャプテンをクビにしたのは…海兵だってバレたからでもあるし、女だとバレたからでもあるだろうけど…」
「本当は…一番の理由は…
キャプテンのこと、本気で好きになっちゃったからだよね?」
スバルくんは黙ったまま、ただキャプテンの寝顔を見つめる。
「ねえ、答えて?」
「………僕は、存在全てが嘘ですから」
たった一言、スバルくんはそう言った。
「スバルくんの笑顔も、言葉も、全部嘘だったとしてもさ…こんなに遅くなっちゃっても、仕事で疲れ切っていても、キャプテンに会いに来てくれたんだよね」
スバルくんは俯いて何も答えない。
でも俺は話し続けた。
「今日だってキャプテンの居場所を割り出して短時間で救助してくれた。
俺らのために財宝の在処まで教えてくれた」
「クビにする前は毎日ご飯作って毎日一緒の部屋で寝てたってきいたし、
クビにするときも、キャプテンだけじゃなくて俺たち全員が困らないように半月の給料以上のお金を出してくれた」
「ただのボディーガードに、しかも海賊にそこまですることないでしょ?
よっぽど愛していないとできないよ、そんなこと」
「…え………」
スバルくんが声を漏らす。
「俺はキャプテンのためにそこまでできるスバルくんの心は嘘じゃないと思う」
夜の静けさだけが漂う。
「そっか………」
長い沈黙の後、スバルくんがぽつりとこぼすように言った。
「……愛してるって…こういうことなんだ………」
誰に言うわけでもなく、ぽつっと、自然に漏れ出たように、確かにそう言って、静かに涙を流した。
「キャプテン、スバルくんにもらったシロクマのぬいぐるみ、気に入ってるみたいだよ」
「………」
「俺たち、29日の正午にこの島を出るからさ…それまでに伝えたいことは伝えないと、今までのこと、全部なかったことになっちゃうよ」
スバルくんは俺の言葉には答えず、ただただ涙を流しながら、キャプテンの寝顔を愛おしそうに眺めていた。