#10 ブール邸にて
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side.スバル
『アンテノール=マリス』。
ドンキホーテファミリーと裏でつながっているアンテノールファミリーの令嬢。
彼女は見聞色の覇気が異常に優れており、未来を予知できる能力がある。アンテノールは娘のその能力を頼りにのし上がってきた。
ドンキホーテはマリスに目をつけ、当主であるマリスの父にうまく取り入ってアンテノールを傘下に収めマリスを手に入れようとしているが、マリスがそれを察知しているせいかなかなかうまくいかないらしい。
そこでドフラミンゴはマリスを僕に惚れさせてドンキホーテに引き込もうとしている。
だが僕は…今夜、アンテノール=マリスを殺害する。
アンテノールは実質マリスの力だけで成り立っていて、当主に力はない。僕が惚れさせなくとも、マリスがドンキホーテの手に渡ってしまうのは時間の問題だ。
無名のアンテノールをここまで引き上げる力があるんだ、ドンキホーテに入ってしまえば…世界の海の均衡が破れるだけでは済まないだろう。
「寒くありませんか?」
「ええ」
マリスはランタンがたくさん灯った庭を眺めた。
「素敵なお庭ですね」
「そうですね…」
マリスは俯いた。
「マリス様、どうなさいましたか?」
「ノエル様…わたくしをファミリーから連れ出してくださいませんか…?」
マリスが少し泣きそうな声でそう言った。
「…どうなさったんですか?」
「私…もうお仕事手伝うの嫌なんです…」
マリスはぽつぽつと話し出した。
「私は…小さいころから人の未来が見えるの…だから、パパは私の能力を使ってお仕事してるの…」
「マリス様は、お父様のお手伝いをしてらっしゃるんですね…」
「私の能力のせいで、パパは悪い人と手を組んでしまった…!すっごくお金持ちにはなれたけど…それがなければ…!私の能力がなければママは死ななかったのに…!今だってそう…また悪い人の口車に乗せられて………!」
マリスは涙をぽろぽろ流した。
「パパは私を愛していない…私の能力しか見ていないの…」
「きっとお父様はご家族に苦労させないように一生懸命になった結果、後に引けなくなってしまったのでしょうね…マリス様もおつらいでしょうに、よくお父様をお支えになって…お優しいですね」
「…ノエル様だけだわ、そう言ってくれるの…」
マリスは僕を見て、僕の頬に手を添えて涙を流した。
「…あなたのことも見えるわよ…私を殺すんでしょう…?」
大きな瞳で見つめられて、僕は一瞬怯んでしまった。
「あなた、素敵な人ね…届かないと分かっていても…ずっとずっと、何十年も、純粋一途に一人の人を想い続けてきたのね…」
また怯んでしまった。
心の奥底を見透かされている。
マリスはぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
「私を殺すのも、その人に追いつくため…いいえ、その人と一つになるため…どんな手を使ってでも成り変わりたい…強烈な憧れ…純粋すぎる恋心…その人に成ることができれば、彼が言ってくれた愛しているの意味が分かるかもしれないから…」
『愛してるぜ、ツバメ!』
あの人の声が聞こえた気がした。
「その恋、もうすぐ終わるわ…」
「え…」
「ううん、もう終わりかけているわ…これも違うわ…その恋は愛に変わっていく…そしてあなたはまた恋をして…そう、さっきすれ違った人…今度はずっとずっと、永遠に続く恋だわ…」
「なんて可憐で…強くて…情熱的で…美しい人なの…」
「私…あなたに殺されたい………」
「マリス様…」
「私、あなたがいい…お願い…私を殺して………」
マリスは僕に縋った。
僕はマリスの背中に腕を回す。
「…マリス様…一つだけ、教えてください」
僕は口を開いた。
「僕にもいつか…人を愛せるようになる日が来ますか…?」
「…あなたはもうすでに十分すぎるほど愛しているわ…」
僕は何も言えなかった。
「最期に会うのがあなたでよかった…」
マリスはほほ笑んで背伸びをすると、ちゅっと僕の口の端にキスをした。
「ノエル様、愛してるわ…」
「愛してるよ、マリス…」
僕も少しほほ笑んでマリスを抱きしめると、音もなくマリスはがくっと腕の中で崩れ落ちた。