#11 愛し抜く正義
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side.ロー
目が覚めると朝で、ベッドの脇にはスバルが肩に毛布をかけられて俺の手を握りながら眠っている。
いつもより顔が蒼白いし、目の下にクマができている。
さすがに血まみれのスーツは着替えたようだが、おそらく後の処理が大変だったのだろう。疲れ切った顔をしている。
「気が付きましたか?」
ペンギンが入ってきた。
「具合、どうですか?」
「ぼちぼちだ」
「そうですか」
「シャチは…?」
「シフトです」
「そうだったな…」
ペンギンはタオルと桶に入れた水を脇に置いて、スバルの寝顔をのぞき込んだ。
「契約解消してからずっと働き詰めだったみたいです。ここに来たのが夜の0時まわるくらいで、ずっと夜通し看病してたんですよ」
「そうか…」
「大丈夫ですか、ローさん死なないですよね?って…いやさすがにこの程度で死なないよって言ったんだけど、すごく心配してた…手が震えてたくらい」
「…」
「なんだかんだ言ってスバルくんってキャプテン大好きですよね」
ペンギンはほほえましげにスバルを見た。
「ご飯食べますか?」
「ああ…悪いな」
ペンギンは台所に朝食の準備をしに行った。
久しぶりに見たな、寝顔…。
俺はスバルの柔らかい猫毛を優しく撫でると、んん…とスバルが目を開ける。
「…ローさん…」
「おはよう、スバル」
スバルはぼーっとしたまま起き上がって、俺を見つめる。
「具合はどうですか?」
「ああ、問題ない」
「…良かった」
俺はなんだかたまらなくなって、またスバルの頭を撫でると、スバルはぼたぼたと涙をこぼしはじめた。
「どうした?」
「っローさ、っうぐっ、えぐっ…っううっ…」
いきなり号泣しはじめるから驚いた。
「なに泣いてんだよ」
「っだって…っぐすっ…っううっ…」
「ありがとうな、心配してくれて」
「…っうわああああ!!!」
スバルは俺の首に抱き着いてわんわん泣いた。
俺はよく分からずにスバルを抱きしめた。
~~~~~~~~~~~~~~
ひとしきり泣いた後でペンギンが持ってきた濡れタオルで腫れた瞼を冷やしている。
「大丈夫か?」
「ええ…すみません…」
「…何かあったのか?」
俺がそう訊くと、スバルは何度か深呼吸をして呼吸を整え、俺の目を見て言った。
「ローさんに…いえ、ハートの海賊団にお話があります」
「なんだ」
スバルはまた呼吸を整えてから、つとめて冷静に言った。
「トラファルガー=ローの暗殺命令が降りました」
「ええっ?!」
横にいたペンギンが声を出す。
「命令ってのは…ドンキホーテファミリーのか?」
「いえ…海軍本部です」
「…そうか」
「ハートの海賊団は…1~2年ほど前に『死の外科医』の手配書が出回るようになってから一気に頭角を表してきました…今やノースブルーの海賊と言えばトラファルガー=ロー…ノースブルーであなたを知らない人間はいません…早く芽を摘んでおかないと大変なことになると上は考えているのでしょう…」
だからここに来る前に海軍の軍艦に頻繁に狙われていたのか…と妙に納得した。
「ですので、時間は稼ぎますから、出航準備ができたらすぐにノースブルーを出てグランドラインに入ってください…あなたほどの海賊なら、生き残っていけるはずです」
「…わかった」
「キャプテン…!」
「だが一つ訊きたい…お前はなぜ俺を殺さないんだ…?」
俺がスバルの目をまっすぐ見た。
「ただの海軍少尉が、命令に背いて俺を殺さずに逃がしたなんてバレたら、懲戒免職どころでは済まねえぞ…場合によっては死刑もありうる」
「死刑!?」
ペンギンがびくっと震えた。
「………あなたと違って、僕はまだ未熟なんです…」
スバルがぽつぽつ、呟くように話しはじめた。
「大型船と軍艦を125隻沈めた…敵味方問わず6000人の命を奪った…昨日だって、200人を2時間かけずに捕縛した…なのに…」
「なのに…命令が降って10日を過ぎても、たった一人が撃ち落とせない…!」
「あなたはずっと一人だった僕に心をくれた…あなたを殺すなんて…僕には考えられない…!」
スバルの黒い瞳がたまった涙で光っていた。
「僕、もうどうしていいか分からないんです…!でもきっと、ロシーなら…ロシナンテ中佐なら、あなたを殺すなんて絶対にしない…!」
「!!!」
「今はまだ人殺しかもしれないけど…僕はロシーのような…父さんのような優しい海兵になるから…!
だから…とにかくあなたは僕から逃げてください…!」
すみません、朝早くからお騒がせしました、と言って立ち上がって帰ろうとするスバルの腕を引っ張って抱き寄せた。
「…!」
「スバル…左手を出せ」
俺がそう言うと、スバルは左手を俺の前に出す。
俺はその細く長い薬指に、ずっとポケットに入れていた指輪を嵌めた。
「愛してる」
その左手の指を両手で包むように握って言うと、スバルはしばらく固まった。
戸惑っている。
「……あなた、給料で何買ってるんですか」
やっとのことで彼は震えながら言った。
「旅に必要なものを買ってくださいよ、家具も何もかも海水でほとんどダメになったんでしょ?」
「俺の旅にはお前も必要なんだ」
「!」
「金のことは世話になった…だがロビンソンの財宝のおかげで10億手に入ったからもう気にすんな…ありがとうな」
スバルは指輪に目を落とした。
「スバル…もう一度言うぞ。
愛してる…俺と一緒にグランドラインへ来い」
「…ごめんなさい」
少しの間の後に、顔を上げて、俺の目を見てきっぱりと言った。
「僕は、あなたのために志を捨てられません」
スバルは指輪を外し、俺の手のひらに指輪を返した。
「知ってる」
俺はまた、指輪を返すスバルの手指を掴んで言った。
「それでも俺はお前がいい」
スバルの肩がぴくっと震えた。
「これはお前に選んだものだ…一緒に来れなくても、受け取ってくれ」
俺はスバルの指に指輪を嵌め直し、指先にキスを落とした。
「………ありがとう」
そう言いながらスバルは涙を堪えながら、幸せそうに笑った。