#11 愛し抜く正義
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
side.ペンギン
キャプテンがいなくなった。
午前中に部屋を出て行って、それっきり。
昼からバイトまでの間にこれからの進路会議をする予定だったのに。
島自体がそこまで大きくなくてほぼほぼ見て回ったからなのか、スバルくんと生活していた時の規則正しさが身に着いたからなのか、放浪癖はあっても寝る時間には帰ってきていたのに、バイトが終わる深夜になっても帰ってこない。
心配になってシャチと一緒に心当たりを探したけど、スバルくんの家は留守だったし、ステラさんのところにもアンリちゃんのところにもいなかった。
まさかこの間のブール邸のことでなにか調べているのかと思って馬車で行ってみたけど、それらしい人はいなかったし、帰ったらもういるんじゃないかと一旦帰ったけど誰もいなかった。
気が付いたらもう向こうの方から朝日が昇ろうとしているところで、途方に暮れながらまた寮を出て、造船所から港のあたりをうろうろしながら考えていた時だった。
「あれっ、スバルくん?」
シャチが見ている方を見ると、朝イチの船から黒スーツに黒コートを羽織って黒のスーツケースを引いてスバルくんが出てきておどろいた。
「おや、ペンさんにシャチさん、おはようございます」
「おはよう…任務だったの?」
「まあ、そんなところです」
「そっか、じゃあ知らないかなあ」
「どうしたんですか?」
「いや、キャプテン帰ってきてなくてさ」
「えっ」
「昨日の午前中に出て行ったっきり帰ってきてないんだ」
「昨日の午前中ですか…」
スバルくんは何やら考え込む。
そうだ。スバルくんは探し物が得意だった。
スバルくんに話せば手がかりが掴めるかもしれない。
「昨日は昼からミーティングの予定だったし、シフトも入ってたのに」
「シフト…?」
「ああ、スバルくん知らないよね。キャプテン、今ビアードで働いてるんだ」
「そうでしたか」
「あの人放浪癖はあるけど、予定があったら絶対帰ってくるんだよ?」
「電伝虫で連絡はしましたか?」
「したけど、繋がらなかったんだ」
「繋がらなかった?」
「うん…」
スバルくんは眉をひそめた。
「…ちょっと、うちに来てもらっていいですか?」
「え、いいの、帰ってきてすぐなのに」
「大丈夫です、それよりローさんが心配です」
「忙しいのに悪いね、お邪魔します」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「かけていてください」
スバルくんはソファーを勧めてからお湯を沸かして2階に行って、すぐに地図やら地図帳やらコンパスやらメモやらを持ってきてローテーブルに置いた。
俺らの気持ちを汲んだのか、今日はハンドドリップのコーヒーではなくて即席であったかいお茶が出てきた。
「繋がらなかったってことは見聞色を使うと危ない可能性があるので…一旦電伝虫に頼みますね」
スバルくんはコートのポケットから電伝虫を取り出すと、通信をはじめた。
『うーん、繋げないんだけどどうする、子猫ちゃん?』
「誰が子猫ちゃんだ」
なんだこの電伝虫。癖強いな。
「繋げないってどういうことだ?」
『まず電波が届かない。あと状況的にまずい』
「え?!電伝虫が会話した?!」
シャチも俺も驚いた。
「まずいというと…」
『飼い主もまずいし、子猫ちゃんもまずい…』
「なるほど?ローさんは今僕の素性がバレたらまずい相手と一緒にいる上に、通信が来るとローさんが危険な可能性があると、そういうことだな?」
『そういうこと』
「こいつはビンゴかもしれねえな…」
スバルくんが独り言のようにつぶやいた。
なにがビンゴなのか分からないけど、口調が変わってるのはこれが素なのかな、それとも仕事モードかな、いつもかわいいけどなんかかっこいいな、なんて少し考える。
「ちょっと待ってろ」
スバルくんはそう言って地図に印を入れた場所から何やら半径を測ったコンパスで地図に円を描いていく。
「待たせたな…電波が届かないっつったな?」
『うん…』
「俺のいるところからお前のいる場所までの方角と距離は?」
『南西に96kmだよ』
「南西に96kmだな…」
「電伝虫ってそんなことも分かるの…?」
「ちゃんと教えたら色々使えますよ」
スバルくんはシャチにそう返しながらメモに情報を書いて、定規で線を引いたところに×印をつけて、ページを捲って近くを拡大した地図を見た。
「おい、本当にこっちからお前のとこまで南西96kmか?」
『うん』
「この辺りだと電波は通るはずだぞ?地下なのか?」
『いいや、そうじゃねくて…特殊な加工がされてあるみたいなんだ…』
「特殊加工か…確かに声が少し反響してるな…なるほど、アジトか…?」
一瞬後ろの方で僅かに電波が入って、汽車が走る音と煙を吹く音とドアの閉まるが聞こえた。
「…南西96km先にある蒸気機関車の停車駅…ってことは、セントルイボス駅周辺…かつ地下ではなく特殊加工で電波を遮断されている建物で、かつそれでもお前が音を拾える距離にある建物だな…」
またメモに情報をまとめていく。
「この辺りだ…絞れてきたぞ」
スバルくんはまた地図帳のページを捲る。
「この辺りで声が反響するような建物ってことは…ここだ…聖ルイボス学院跡地の体育館…体育館なら声は反響するがルブニールでは半径5km圏内に住宅地がある学校は防音加工をする義務がある…間違いない、これはキたぞ…」
すごい、10分かからず割り当てたぞ。
「僕が会うとまずいってことは、ロビンソンの残党か…何人いる?」
『ざっと200人ってところだね』
「分かった…ありがとう」
『大丈夫かい、子猫ちゃん』
「上から許可は出ているから問題ない」
『そうかい…ちょっと怖いから切っていいかい?また穏やかな時に相手してよ』
「ああ、ご苦労だったな、ありがとう」
がちゃっ、と通信を切ってから、また別のところに通信をかけた。
『おしるこ!』
「『ぜんざい!』…俺だ。じいちゃん、今からロビンソンの残党200人ほどぶっ殺してくる」
『殺すな、幹部は生かして投獄しろ』
「その場で吐かせたら殺していいか?」
『幹部は生かしておけ』
「了解…!」
『気をつけろよ』
「ああ…」
それだけ言ってがちゃっ、と切ると、コートを着直してタバコに火をつけた。
「ペンさんシャチさん、ありがとうございます。おかげでロビンソン大船団の残党の居場所を特定できました」
「た、楽しそうだね?」
「ええ、幹部以外は殺してOKなので…手錠は10個あればいけるかなあ…」
スバルくん、怖っ…。
瞳孔開いて目をキラキラさせながら、スバルくんは家を出て、俺たちも続いて家を出た。