#07 聖バレンタインデー
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
side.ロー
翌日には熱が下がっていたが、大事を取って今日は家に居ておくと言って、書店へ取り寄せた本をもらいに行くのとステラ屋のところでコーヒー豆を買うお使いを頼まれた。
書店の扉を開けると、アンリが出迎えてくれる。
「いらっしゃいませ…スバルさんは…」
「熱は下がったが今日は家で休むというから代わりに来た」
「そうですか…」
少し残念そうな顔で、カウンターから取り寄せていた本を出す。
「3冊で4550ベリーです」
会計を済ませて本を手に取ると、「あの…」とアンリが俺を呼び止めた。
「これ…」
白いレースにピンクの花柄のようなかわいらしいデザインの封筒を渡された。
「スバルさんに渡していただけませんか…?」
真っ赤なハートのシーリング。
今日は2月14日…内容はなんとなく分かった。
「…わかった」
「ありがとうございます…!そうだ、裏の人に林檎をたくさんいただいたので、スバルさんと食べてください」
また林檎か…。
頬を染めて少しほほ笑みながら林檎を袋に詰めるのを見て、チリチリと焼けつくようなものを感じた。
~~~~~~~~~~~~~~
次は珈琲屋。
バレンタインだからか人が多く、俺が入るとコーヒーを飲んでいた女性客が3人ほど、ちらっとこちらを見ながら何やら話している。
「スバルくん大丈夫?」
後ろからステラさんが俺に声をかけてくれる。
「ああ、熱は下がったが今日は家で休むらしい。買い物を頼まれて来た」
「そう…うまく逃げるわね、あの子も」
豆を麻の袋からパックに詰めながら話す。
「なんのことだ?」
「今日バレンタインデーだから。外に出たら危ないって分かってるんじゃない?」
「あいつってそんなにモテるのか…?」
「そりゃああの見た目で、お金持ちで、丁寧で、紳士的で、賢くて、ミステリアスだもの。お近づきになりたいと思っている女の子はたくさんいるわよ?あなたが怖いから近づく人は少ないけど」
「悪かったな」
「あはは、冗談よ、怒らないで。チョコ作ったんだけど、コーヒーと食べていかない?」
「豆買う金しか持ってねえ」
「サービスしてあげる。私からバレンタイン」
「ありがとう」
俺はカウンターに座った。
「長い間滞在してるのね?」
「まあな、あと半月ほどしたらここを出る」
「そう…どう?スバルくんとの生活は」
「悪くねえよ」
「ふうん?」
ステラがコーヒーをカップに注いでカウンターから出すと、自分の分もカップに注いで飲んだ。
「あの子家ではどんな感じなの?全然想像つかないわ」
「普通だぞ、本読んだり、勉強したり、掃除したり飯作ったり」
「へえ、あの子料理できるの?」
「うまいぞ、あいつ」
「…胃袋掴まれちゃってるわね」
「うちのクルーの方がうまい」
「ふふっ、そう?」
「なんだ」
「なんか…惚れちゃってるように見えるけど?」
ステラ屋はカウンターに肘をついてふふっと笑った。
「んなわけねえだろ、男だぞ」
「あら、このご時世分かんないわよ?『恋はいつもハリケーン』って言うことわざがあるらしいし」
またそれか。
「そうそう…この街のバレンタインはね、クリスマス以上に聖夜よ?」
「?どういうことだ?」
「世界的には好きな相手にチョコを贈る日だけど、この街では夜のお誘いの手紙を送るの」
「えっ…」
夜のお誘い…!?
じゃあさっきの手紙は…
「だから、バレンタインに結ばれるカップルが超多いの。スバルくん、誰かに盗られなきゃいいけどね…」
ステラ屋は意味深に言って、俺は慌ててアンリの封筒のシーリングを剥がして、中身を読んだ。
『スバルさん
いつもお店に来てくださってありがとうございます。
あなたがはじめて来店された日から、ずっとあなたを見ていました。
勉強熱心なお姿、本のページを捲る指先、活字を追う瞳…。
たくさん見ているうちに、私の心はあなたに奪われてしまいました。
愛しています。
叶うなら、私をあなたの恋人にしていただけませんか。叶わぬなら、せめて一晩だけでもあなたと共に居させてください。
今晩、書店の2階でお待ちしています。
アンリ』
あんな地味な感じの女子でもこんなに熱烈に誘えるのか…と思うと、突き刺さるものを感じる。
「大丈夫?顔色わるいわよ?」
「…大丈夫だ…」
俺は少し冷めた苦いコーヒーを飲んで、足早に店を去った。