#10 ブール邸にて
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side.ロー
スバルの家の2階に着地した瞬間、ぷるぷるぷる…と電伝虫の着信音が鳴る。
スバルはしーっ、と俺たち3人を制すと、一気に緊張感を纏い、受話器を取った。
がちゃっ
「…僕です」
『オフィーリオか』
「二人目はアンテノール=マリス、三人目はブール=ミッシュです…取り急ぎ写真を送りました…」
ドンキホーテの任務だったのか…。
『ンフフフフ…いい…すごくいいぞ、オフィーリオ…明日でもメシを食いに来い…シルベーヌもお前に会いたがっている…』
「お褒めに預かり光栄です…承知しました…明日伺いますね」
『ンフフフフ…待っているぞ』
がちゃっ
「…ありがとうございます。あとは首を冷凍して、今日中に支部に報告と調書を持って行って、本部に報告して、任務一つ完了です」
スバルがふう、やっと一個クリア…と大きくため息をついてそう言う。
「なぜドンキホーテの任務を海軍に報告す「ところで…どうして窓ガラスを割ったんですか?」
「あ?」
スバルが俺の話を聞かずに少し低い声で俺に訊いた。
「バルコニーから部屋に入るときですよ。どうしてあんなことしたんですか?」
ああ、あの時か…。
「別に…なんでもいいだろ」
「なんでもよくないから訊いています」
「スバルくんがブールに襲われると思ったら、キャプテン気が気じゃなかったんだよ」
「ペンギン」
少し眼光が鋭くなったスバルを宥めようとしたペンギンを俺が制すと、スバルはまた大きくため息をつきながら言った。
「バカじゃないですか?」
「あぁ?」
癪に障る言い方だ。
「人がたくさん集まっていたのにあんなに派手な音を出して、見つかったらどうするつもりだったんですか」
「お前の身の安全の方が優先されるべきだろう」
「僕が偽名を使っている時点で仕事中だってなんで分からないんですかって聞いてるんですよ」
スバルがキレてる。
俺もペンギンもシャチもびくっとした。
バレンタインデーでキスしちまった時とは比べ物になんねえ。
「あんな大きな音を出して、すぐに階下は騒がしくなったでしょう。
僕がすぐにブール=ミッシュを殺したからよかったものの、あの状況で生きていたら、海賊が窓ガラス割って何しようとしたんだって話になっちゃいますよ。屋敷の人間に見つかったら現場は大混乱。僕も殺すタイミングを失って任務失敗するところだったんです!
おまけに船はまだ修理中なんでしょう?警察や海軍に通報でもされれば、こんな狭い島の中を1週間は逃げ延びなければいけなくなりますよ、仲間と一緒に。そこは考えたんですか?」
「ガタガタうるせえな、任務成功したんだからいいじゃねえか」
スバルはさらに眼光を鋭くして俺を睨んだ。
「テメエ仕事なめてんのか…!?」
スバルの口調が変わる。
「あぁ?お前こそ、自分の身体ないがしろにしすぎじゃねえのか?」
「なんだと…?!」
「この際だから言わせてもらうが、お前のそのやり方が気に食わねえ!誰彼構わず挑発して色目使いやがって!!あんなクソジジイに肩から腰から尻からベタベタ触らせてんじゃねーよ!!!」
「はああぁ!?あんなの演技に決まってんだろ!?本気だと思ってたのかよバカじゃねえの?!勝手に鼻の下伸ばして勝手な妄想して!!ふざけんじゃねーよこのドスケベ野郎!!!」
「なんだとコラア!!!」
「二人とも落ち着いて!!」
「あんたら殴り合いしたら家潰れるから!!」
俺がつかみかかろうとするとペンギンが俺を羽交い絞めにして、シャチも間に入ってなんとかスバルを宥める。
みんなぜえぜえと肩で息をしながら、ようやっと落ち着いた時に、スバルが口を開いた。
「ローさんの言いたいことは分かりました…心配してくださるのはありがたいですが、僕は犯罪者相手にそんなヘマしませんよ」
「犯罪者だと…?」
スバルはデスクの一番下の引き出しのカギを開けて分厚い黒いファイルを出して、ブール=ミッシュのページを俺たちに見せた。
「ブール=ミッシュ…表向きはノースブルー1の大富豪。ブール財閥の代表取締役。
その莫大な財産を使って世界中に学校を建てたり、子供の保護施設を建てたりして世界中の子供の教育育成のために活動している慈善事業家ですが、実際は海軍本部のブラックリストに載るレベルの連続少年強姦犯です」
「強姦…!?」
「ブール財閥は15歳前後の男の子を誘拐して地下室に監禁し、特殊な薬を使って強姦しまくってその子が20歳になったら天竜人に売り飛ばすビジネスで成り立っている財閥ですよ」
えげつな…とペンギンとシャチが横から資料をのぞき込みながら吐きそうな顔で言う。
「お前…そんな危ねえ奴を相手にあんな取り入り方…!」
「一番手っ取り早いでしょう。首に手を回すことができればこっちのもんです」
「なにかあったらどうするつもりだったんだよ…」
「だから僕は「監禁されてたかもしんねえんだろ…?!」…」
大きな声が出てしまって、スバルが驚いた。
「お前に何かあったら、俺はどうしたらいいんだよ…」
俺がスバルの目をまっすぐ見ると、スバルの瞳が一瞬ぐらりと揺れた。
「もうボディーガードは結構で…」
気が付いたら俺はスバルを抱きしめていた。
「…痛いです、離してください」
「この前みたいに振りほどけばいいだろ」
「………」
少しの間の後、スバルは黙って俺の腕を解いた。
「………ごめんなさい」
スバルは一言だけ言って、階下へ降りていった。
スバルの表情は見えなかった。
end.