#07 聖バレンタインデー
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この街の夜は長い。
少しの沈黙のあと、スバルが口を開いた。
「………僕の方こそ、ごめんなさい…あなたにひどいことを言ってしまいました」
「これだけは言わせてくれ…
…お前が好きだ」
まっすぐ見つめると、スバルの青い瞳が揺れた。
「…俺だって分かんねえよ…でも、お前がいい…お前に隣にいてほしい」
「…」
「傷つけたかったわけじゃねえ…だが、先に言うべきだった…悪かった」
「…もう謝り合うのはやめましょう…」
「…今日はもう寝ましょうよ」
「ああ、そうだな…」
寝よう、と言いながら、一瞬だけ、名残惜しそうにスバルは細く小さな手できゅっと俺の手を握り返した。
「ローさん…もう寝ましたか…?」
20分ほど経って、真っ暗な部屋の中で、背中越しにスバルが俺に話しかけた。
「いや」
「…ローさん…」
「なんだ?」
暗闇の中に、声が溶けていく。
「もし…今ボディーガードを辞めても…船の修理代と向こう1~2ヵ月先の旅に必要な費用が手に入れば、ローさんとしてもハートの海賊団としても問題ありませんか?」
「…どういうことだ?」
「そのままの意味です」
「…クビにするのか?」
「僕は…海兵ですから…」
スバルは力なくそう言った。
「だったらなぜ俺を雇った…?」
「…こうなると思ってなかったんです」
俺は暗闇の中で背中越しにスバルの透き通るような声を聞いていた。
「僕、2月いっぱいまでここで謹慎なんです」
スバルがぽつぽつ話し出す。
「ロビンソン大船団の大型船を単独で117隻撃破、海賊5832人死亡、海軍の軍艦8隻を破壊して味方を150人殺傷させた大量殺人鬼『ゴーストマリーン』…」
「始末書では済まされないし上官にもかなり責められましたが、じいちゃん…元帥が庇ってくれて3ヵ月謹慎処分で済むことになり、その間この街に住むことになりました…」
「ただし『3ヵ月騒ぎを起こさずにいられたら本部復帰、できなかったら降格して左遷』という条件付きです…この通り僕は特殊なので騒ぎを起こさないなんて無理です。少なくても3日に1回は変な奴に絡まれますから、できるだけ出歩かないようにしつつ、なんとかする方法を考えていました」
「そうしたら、もうすぐ3か月目に入る頃にあなたが現れて、暴漢に襲われている僕を助けてくれた…そこで閃いたんです。そうだ、こいつをボディーガードに雇おうと」
「おい」
「強いですし、有名な海賊ですがそこを逆手に取れば誰も近づきません。なにより見ず知らずの僕を助けてくれた…僕の正体さえあなたにバレなければ適任だと思ったんです」
「なのに海兵だとバレた上にこの姿まで見られてしまった…最悪の事態です。クビにするのが一番いいのは確かなんです…だからどう転んでもあなたが困らないように訊いています…」
俺をクビにしたら、絡まれても誰も助けられねえぞ。
そう言おうとして、やめた。
あんなことをしてしまった立場でその言い方は、脅迫めいている気がした。
「明日、朝食を食べてから半月分の給料を支払います。そこで契約解消です。明日中に荷物をまとめて出て行ってください」
「わかった…」
何も言えずにいると、淡々と話を進められ、俺は同意するしかなかった。
end.