#08 契約解消
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1階に降りたが、ペンギンとシャチは昨日のうちに寮へ帰ったらしい。
「おはようございます」
何事もなかったかのように朝食を作っている途中のスバルが振り向く。
そう。いつも起きたらこの光景が目に入る。
こいつがゴーストマリーンとは到底思えないような平和な朝の風景。
器におむすびやら味噌汁やら焼き魚を盛って、テーブルに並べて、二人で「いただきます」と手を合わせる。
いつもはここでスバルの蘊蓄がはじまるが、今日は黙々と飯を食う。
おにぎりと味噌汁と焼き魚とおひたしと卵焼き。
そう、こいつが作る飯はうまいんだ。
泣きそうになる。
ふと、さっき頬にキスされたのを思い出して、スバルを見たら、目が合った。
「「あ…」」
思わず出た声が重なる。
スバルは目を伏せて、ごまかすように味噌汁をすすった。
「…船の修理はいつ終わるんですか」
「29日だそうだ」
「そうですか…」
「怪我、大丈夫か」
「ええ、治りました」
「………」
「………」
それ以上会話が続かない。
コラさんのこと、ドンキホーテファミリーのこと、こいつの好きな人のこと…さっき、キスしたこと…。
聞きたいことは色々あるのに、聞くに聞けなかった。
あんなに毎日たくさん言葉を重ねていたのに。
終わる時は一瞬で崩れ去るもんなんだな…と寂しさを覚えながら、俺も味噌汁をすすった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
飯を食って片付けをしてから、スバルは収納の奥から小さめのスーツケースを出してきて俺の前で開けた。
札束がびっちり入っていて、3分の1近くは茶封筒に入れられている。
「ひと月の契約のところを半月ですから1億は渡せませんが、半額の5000万から前払い分の1200万を引いて3800万と、手切れ金200万で4000万です。
封筒に入っているのは退職金と失業保険と思って受け取ってください」
言葉が何も出ない。
分かってる…こいつなりに考えた答えだ。
俺がこの街にいる間、いや街を出てからもある程度困らないように考えてくれている。
他意は無いことは分かっているのに『手切れ金』という言葉がずしっと重くのしかかった。
スバルはいつも通り綺麗に笑顔を作って、淡々とした口調で話した。
「短い間でしたが、楽しかったです…ありがとうございました」
少ない荷物をまとめて、俺は足早にスバルの家を出て行った。
…やるせないのは俺だけか。