#05 聖域
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side.ロー
隣でスバルが寝ていると思ったらなかなか寝付けずにずっと起きていたら、スバルが1階に降りて行ったが、それから全然帰って来ねえ。
寝るのを諦めて本でも読んでいるのか、だったら俺も起きていようかと思って1階に降りていく途中で、電伝虫のファックス音が聞こえた。
『今全部送ったが、何に使うんだ?ドンキホーテファミリーの資料なんて』
扉の奥で通信相手の男の声と紙を捲る音が聞こえて、立ち止まる。
ドンキホーテファミリー…?
音を立てずにそっと階段を降りて、扉のそばで聞き耳を立てる。
「いや、ちょっとな…」
スバルの声。
いつもの明るく丁寧な口調ではない。
くだけてはいるが落ち着いた話し方だ。
いつもここの扉は開けているのに、聞かれないようにしたいのか寝ている俺に気を遣ったからなのか、閉められているのも気になる。
なんだ…仕事か…?
妙に胸騒ぎがする…。
「!いた…!こいつだ…!!GL第5支部基地長・ヴェルゴ…」
「!!!」
ヴェルゴだと…?!
なんだ…?一体何を調べているんだ…!?
「お前知ってるか?」
『いや…』
「そうか…」
スバルは大きなため息をつきながら声を上げる。
「嘘だろ…もしかしてとは思ったけど……嘘だろ………!うわあ、こいつ経歴胡散臭すぎ…」
紙を捲る音と一緒に聞こえてくる声がどんどん緊迫感を増していく。
「ちょっと待て…こいつマジで相当危険人物じゃねえ…?…まずいぞこれ…どうしよう…」
『どうした…?上に報告するか?』
「いや…まだいい、証拠は何もないからな…」
『大丈夫か?』
「ああ…」
『頼むから無茶しないでくれよ』
「ああ、慎重にいかねえとまずいぞこれは………何はともあれありがとう…まだ推測の域を出ないが、おかげでかなり進んだ」
『そうか…』
まさかここでヴェルゴの名前を聞くとは…。
だがなんだ。さっきから妙に胸騒ぎがする。
俺ははやる気持ちを抑えながら、必死に声を拾った。
「ちなみに…お前はドンキホーテファミリーについては何か知っているか?」
『闇ブローカーだということ以外は何も』
「闇ブローカー?」
?!?!
『ああ、人造悪魔の実『SMILE』というのがあってな…それをドレスローザからワノ国に横流しして金儲けしているらしい…』
「人造悪魔の実…?」
『俺も詳しくは知らん。資料室に資料があるかもしれんが』
「そうか…ちょっとそのSMILEの資料を探して写真撮って送ってくれないか。暇な時でいい」
『さっきのといい…また大目玉くらうぞ』
「大丈夫だって。お前が上手くやってくれれば…「おい…!」…!!!」
思わず扉を開けて低い声で言うと、ソファーに座っていたスバルはビクッとして立ち上がり、後ろ手で通信を切った。
「誰と話していたんだ?」
「すみません、起こしてしまいましたか?」
「誰と話していたんだと聞いている…!!」
思ったより殺気の強い声が出て自分でも驚いたが、スバルも驚いている。
「同僚ですよ、じいちゃんの会社の」
俺はスバルに詰め寄る。
「お前…ドンキホーテファミリーと言ったな…?」
「聞き間違いでは…?」
「ヴェルゴを調べているのか…?」
「!仕事でちょっと…」
「なんの仕事だ?!」
「!」
壁際に追い詰め、スバルの顔のすぐ横の壁にドンと手をつき、震えているスバルを見下す。
「言え、奴について…ドフラミンゴについて…何を知っている…?」
「…聞いていた通りですよ。詳しくはありません」
俺は小さな顎首を右手でぐっと掴んだ。
「…俺にコソコソ隠れて、一体何を調べているんだ?!」
「…ごめんなさい…」
ふと、スバルの瞳から涙が一粒溢れた。
「…っ」
涙目で見つめられ、思わず怯む。
こいつが泣くなんて…予想外だ。
「ローさん、誰かに復讐するんでしょ…?」
「僕、ローさんの身に何かあったらと思ったら、心配になってしまって…」
すすり泣きながらスバルはぽつぽつ話す。
「っぐすっ…僕、じいちゃんの会社で貿易部門の手伝いやってて…っ海賊対策やマフィア対策の資料が会社にあるから…もしかしたらなにか力になれることがあるかもしれないと思って…」
「っごめんなさい、嫌でしたよね…でも僕…心配で………」
俺はどうしたら泣き止むのかわからなくて、ためらいながらスバルを抱きしめた。
「…泣くな…泣かれたら、困る………」
俺がそう言うと、スバルは遠慮がちに俺の背中に手を回した。
「ローさん…どうしても復讐するんですか…?」
「………ああ…」
「…あなたの恩人は…復讐してほしくてあなたを助けたんじゃありませんよ…」
「…?」
「あなたに自由に生きてほしいから、あなたを逃がしたんです…あなたを愛しているから…!それが、あの人の正義だから…!!」
「…お前…」
俺はスバルの顔を覗き込んだ。
どうしてスバルがそんなことを…?
「どれだけたくさん人を殺したって虚しいんですから…どれだけ憎い人を殺したって同じです…何も残りませんよ…」
俺は抱きしめる腕を解いてスバルを見ると、スバルも俺の目をまっすぐ見つめた。
俺は…こいつを置いていくのか…?
そりゃあそうだ、こいつとは船の修理が終わるまでなんだから………
なに考えてんだ………。
なんで俺の方が動揺しているんだ…。
こんなことでは、ドフラミンゴを討ち取れないぞ………しっかりしろ…。
「…スバル…ごめんな」
真夜中の沈黙の中、俺の声が部屋に響く。
「俺はあの人の無念を晴らしたい」
「お前になんと言われようと、あの人がやり残したことは俺がやる…俺が…ドフラミンゴを止めるんだ…」
「…だったら…」
スバルは俺の瞳の奥の奥を射抜くように見つめた。
「…僕…手伝います…復讐」
「え…」
「一緒に殺して、一緒に死んであげます…」
スバルは俺なんかより強い覚悟を秘めた声で美しく微笑むから、急に全身にゾクゾクと電流のような感覚が走った。
強くはないが、見たことないほど禍々しいオーラだ…。
人を殺すとはどういうことか見せつけられているような………
俺は見ていられなくてスバルの目を隠すように、手で頭をわしづかみにして向こうを向いた。
「…バカなことを言うな…寝るぞ…」
そのままわしゃわしゃとスバルの猫毛を撫でて2階へ上がった。
end.