#07 聖バレンタインデー
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side.ステラ
片づけがあらかた終わってカウンターで休憩していると、店のガラスのドアをコンコンとノックする音が聞こえた。
ローさんだ。
ペンギンくんとシャチくんも一緒。
どうしたのかしら…。
「スバルは来なかったか?」
ドアを開けた瞬間にローさんが慌てて訊いた。
「来てないわよ」
「そうか…」
ローさんは眉間に皺を寄せて、悲痛な顔をしている。
なにかあったみたいね…。
「帰ったらいなくなってたんだ…来たら教えてくれ」
「わかったわ、コーヒー飲む?」
「いや、いい…それどころじゃねえ…」
かなり焦ってる。
本気で心配してるんだ…そりゃそうか、ボディガードだものね…。
でも、本当にそれだけかしら…?
「心当たりないのなら、女の子の家じゃない?それかホテルとか」
「「ホテル!?」」
ペンギンくんとシャチくんが素っ頓狂な声を上げる。
「だって今日は聖バレンタインデーよ?スバルくん女の子にモテモテだし?夜のお誘い、OKしたのかも?」
「んなわけねえだろ…」
ローさんがぽつりと言う。
「珍しく弱気ね」
「…あいつは…行かねえって言ってた…気がないのは確かだ…」
「夜這いする予定なんて普通ボディガードに言わないんじゃない?」
私がそう言うと、ローさんは黙り込んだ。
やっぱり、喧嘩したのよね…?
大方スバルくんがローさんを振った、とかでしょうけど。
だってローさんがこんなに落ち込むってそれくらいしか考えられない。
「海賊のくせに情けないわね、好きなら女の子から奪い取るくらいのことしなさいよ」
そう言ってもローさんは俯いたまま。
鈍すぎじゃないかしら…たまに心配になるわこの人…。
…仕方ないわね。
「あなたがこの街に来る前のスバルくんって、本当に陰気な子だったのよ」
「え…」
私が話しはじめると、ローさんはやっと私の顔を見た。
「いつも俯いて、仏頂面で、無口で、何かに怯えてるように見えた…ここに来た時も、店でのんびりせずに週に1回くらいコーヒー豆買っていくだけだったわ…」
「常連になって、ある程度仲良くなってきた頃に訊いてみたの。クリスマスイブも近いしバレンタインもあるけど、彼女作ったりしないのかって。そしたら彼、何て言ったと思う?」
「僕は人を傷つけることしかできませんから、って…深くは訊けなかったけど、寂しそうだった…今思えば資産家の一人息子だし、小さいころにご両親亡くなってるし、代わりに育てたおじいさんが相当厳しいらしいし、お父さんが亡くなってからこの街に来るまで仕事以外で家から出たことなかったみたいだし、本当に孤独だったんだと思うわ」
「そうだったのか…」
「でもそんなあの子が、あなたに出会ってから人が変わったみたいに急に明るくなったの。
あのスバルくんが自分の家に同年代の男を住まわせるなんてありえないことよ?しかも賞金首の海賊。襲われても殺されても文句言えないでしょそんなの…」
「…」
「正直かなり心配だったわよ。本当に世間知らずのお坊ちゃんなんだなと思ってた…でもあの子、あなたといる時とそうじゃない時で全然表情が違うもの…気を許せる人ができたんだなと思って、嬉しかったわ」
「あなた、スバルくんに相当好かれてるわよ?ちゃんと謝ったら許してくれるわ」
「…そう思うか?」
「ええ、きっと大丈夫よ」
「…ありがとう」
ぷるぷるぷる…
ローさんがポケットから電伝虫を取り出す。
「スバルだ…」
ひとつ深呼吸をしてから受話器を取った。
「スバルか?今どこに『ローさん助けて!!!』
頭を刺されるようなアンリの叫び声。
「アンリ?!どうした?!」
『スバルさんが…スバルさんが、どうしよう…!?』
受話器の奥で、涙声で、さっきのローさん以上に焦っている。
「落ち着け、何があったんだ!?」
『スバルさんが、海賊に襲われてて…!』
「なんだと!?」
『書店にいきなり大勢押しかけてきて…!大変なの!』
「お前は大丈夫なのか?!」
『私は2階に避難してるから…』
ガッシャーン!とガラスが割れる音や、銃を乱射する音、男が大声で何か叫んでいるのがアンリの後ろから聞こえてくる。
『お願い、早く来て!!』
「分かった!」
「気をつけてよ!」
「ああ」
ローさんはペンギンくんとシャチくんと一緒に店を出ていった。