#04 エリスの赤い薔薇
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「あっ、キャプテーン!」
家に帰る途中、道の向こう側で、ペンギンとシャチが手を振っていた。
「ペンギンさんにシャチさん、奇遇ですね」
「どうしたんだお前ら…もうすぐ仕事じゃねえのか?」
「そうなんですけど…」
「スバルくん探してたんですよ!」
「え、僕…?」
ペンギンとシャチが手を合わせる。
「お願い!バレンタインまでうちの仕事手伝ってくれない!?」
「は…?」
スバルが答える前にメンチを切る。
「「怖いよキャプテン!」」
「お前らの職場、ガールズバーだろ」
「いいじゃないですか!」
「やきもち焼きすぎです!いてっ!」
問答無用でシャチを殴る。
「ボディーガードとしていただけねえ…客の男もキャストの女も信用ならねえだろ」
「じゃあキャプテンも一緒にバイトしてください」
「嫌だ」
「「わがまま!!」」
「うーん、ローさんがそう言うならアルバイトはお断りします」
スバルが言う。
そりゃあそうだ。そもそもバイトしないといけない生活ではない。
「それに読書の時間が減ってしまうし…」
「読書?」
「シャルル博士に借りた本を2月中に読んで及第点をもらいたいんですよ…難しいのでバイトなんてしていられません」
「そっかー…残念だなあ」
ペンギンが肩を落とすと、スバルは口元に指をあてて何か考えながらペンギンに質問した。
「ガールズバーって忙しいんですか?」
「バレンタインが近いからね、女の子と過ごしたい人がいっぱい来るよ」
「聖バレンタインデーに行くと何かあるんですか?」
「女の子からチョコレートがもらえるよ」
「ふうん…ガールズバーって、女の子とお酒を飲みながらお話するところですよね?」
「そうだね、お話したり、カラオケもあるし、パーティーみたいなことしてみんなで楽しく過ごしたり…あ、うちは女の子からはOKだけど客からのおさわりはダメだよ」
「なるほど…」
「なるほどって、なに?どうしたの?」
いきなり質問攻めにされてペンギンはちょっと驚いている。
俺も最初はもしや興味があるのかと驚いたが、少し考えてみると、スバルの思考回路が予想できるようになってきた。
「古代ワノ国の『廓』のようなものだと思って読んでいましたが、ペンギンさんのお話だと300年前のゴア王朝の貴族サロンの方が近い気がしてきました…どっちなんだろう」
「?ちょっと何言ってるか分かんないんだけど…?」
「文化圏によって違うんだろうな…バイトはできませんが、ガールズバーって『エリスの赤い薔薇』に出てきたのでどんな場所なのか興味があるんです」
そんなことだろうと思った…。
「エリスの赤い薔薇ってなに?」とペンギンがスバルに訊いたのを、スバルが好きな小説だと俺は頭を抱えながらスバルの代わりに答えたが、ペンギンはまだスバルの思考回路が分からないようで、頭の上に?がたくさん浮かんでいる。
「じゃあ一回遊びに来てよ!サービスするし♪」
何も考えていないであろうシャチが言う。
「そうですね、では行かせていただきます」
「なんでだよ!」
「一度行ってみたかったんですよ。ちゃんとボディーガードしてくださいね」
「ったく、しゃーねえな」
俺の返答を聞かずにスバルはどんな服を着て行けばいいのかとか、相場はどれくらいなのかとか、特殊なマナーはあるのか、女の子とした方がいい話やしてはいけない話などはあるか、あまり酒を飲めないのだが飲まなくても大丈夫か、などなど、またペンギンを質問攻めにしていた。
ペンギンが少し困った様子でスバルの質問攻めに答えている間、シャチが俺に耳打ちした。
「キャプテン…スバルくん純粋すぎませんか…?!ガールズバーでこんなにはしゃぐ人はじめて見たんですけど…」
「下心ねえから逆に接客難しいぞ」
「えっ…!?じゃあ何しに来るんですか?!」
「知識欲を満たしにだろ。行ったことねえし好きな小説のヒロインがガールズバーで働いていたからワクワクしてるだけだ」
「純粋すぎる…!ローさんと同年代とは思えない…!!」
「世間知らずなガキに色々教えてやってくれ」
「えええ…さすがにナニを教えるのはちょっと…」
「そういう意味じゃねえ!」
「えっ、ちょっと待って?!スバルくんってまさか童貞?!」
シャチが大声で訊きながら勢いよく飛び上がると、スバルがシャチを見上げて、首を傾げた。
「?童貞だとお店入れないですか?」
「えっ」
「いや、そんなことないけど………なんか、ごめん」
スバルの返答に俺も驚いた。
モテるし色気もあるから経験済みだと勝手に思っていたが…そういえばこいつ資産家のお坊ちゃんだった…。
じいちゃんしか知らねえがこいつの家は厳しそうだし、そういうことやそういう場所に全く縁がなかったとしてもおかしくない…。
「あれ?ガールズバーってそういうことすることもあるんですか??…だったらやっぱり僕の解釈で合ってるのか…」
「お前はもう黙れ」
「痛っ!叩くことないじゃないですか!」
「とにかく、店に行くのは今回だけだからな」
俺は釘を刺すようにそう言った。