#04 エリスの赤い薔薇
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side.ロー
朝起きて1階に降りると、みそ汁のいい匂いがする。
いつも通り、スバルが朝食を用意してくれているのだ。
「おはようございます」
そう言っていつものシャツとカーディガンと黒い細身のパンツの上にエプロンを着けたスバルが振り向くと、俺もおはよう、と返してスバルの隣でだし巻き卵ができる様子を眺める。
朝のこの光景が好きだ。
スバルが隣のコンロの火を止めると、お椀にすくって並べる。
漬物の隣に切っただし巻きを並べたお皿と、おにぎりのお皿を食卓に並べる。
「「いただきます」」
そう、これがいつも通りになりつつある。
「今日はどうするんだ?」
「本屋に行ってから買い物をして帰りましょうか」
「…お前、毎日本屋に行くんだな」
「今日はアンリさんの大学の課題を見る約束をしているので」
いつの間にそんな約束をしていたんだ…。
「…お前って、アンリが好きなのか?」
「心配しなくても、あなたからアンリさんを取ったりしませんよ」
「なんでそうなるんだ」
前から気になっていたことをそれとなく訊いてみたら、とんちんかんな返答が返ってくる。
「アンリさんのことを気にしているように見えましたが、違ったんですか?」
「どこをどう見たらそう取れるんだ」
「そうでしたか、それは失礼しました」
それからはまたスバルの蘊蓄を聞きながら朝飯を食った。
~~~~~~~~~~~~~~
アンリ古書堂を訪れると、アンリがカウンターで問題集を読んでいた。
「おはようございます」
「スバルさん、お待ちしておりました!」
アンリは立ち上がって嬉しそうにスバルに駆け寄り、俺に軽く会釈した。
「今日はシャルル博士は?」
「父は昨日から学会で、帰ってくるのは明後日になります」
「そうなんですか」
「コーヒーでも飲みませんか?ステラさんのところのなので、よく飲まれているかもしれませんが…」
「僕ステラさんのところの珈琲好きですよ」
「よかった!クッキーも焼いたんです」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきます」
スバルは少し笑って、アンリの後ろについてカウンターの隣の階段から2階へ上がっていく。
俺もなぜかすごくもやもやしながらついて行った。
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2階は少し広めの部屋になっていて、そこにも本がたくさんあった。
部屋の真ん中に木製の円いテーブルと椅子が3脚。
えんじ色のカーテンに、同じ色調の複雑な模様の入ったカーペット。
アンティークだが高級感がある部屋で、スバルとアンリが椅子に座ってクッキーをかじりながらコーヒーを飲む様子は童話の挿絵のようにとても絵になっていた。
「お味はいかがですか?」
「おいしいです」
「よかった!」
「コーヒーにとても合いますね」
スバルが俺に言うので、ああ、とだけ返事をする。
俺もコーヒーを飲んだが、スバルが淹れた方がうまい。
きっとスバルもそう思っているだろうに、よくそんな笑顔でいられるな…そういうおべっかを簡単にやってのけるこいつが腹立たしい。
…ああ、だめだ。
なんでこんなに愚痴っぽくなっているんだ。
「アンリさんはいい奥さんになるでしょうね」
「そ、そんな、奥さんだなんて…」
スバルが何気なく言った言葉に、アンリが頬を赤らめ、俺は湧き上がる怒りをなんとか抑える。
「ところで、なんの教科を見ればいいですか?」
「ワノ国語と北海語です」
「ああ、よかった、得意分野です。どれからやりますか?」
「じゃあ…ワノ国語からいいですか」
「分かりました」
「これなんですけど…」
アンリが脇に積んであった問題集のページをめくってスバルに見せた。
「なるほど、膨大ですね…読むのでちょっと待ってくださいね」
コーヒーを一口飲むと、スバルはスイッチが入ったように真剣に文章を読みはじめた。
そう、こいつは黙っていれば美人だ。
本を読んでいる時なんかは本当に絵画みたいだ。
アンリはぼーっとスバルの横顔を眺めていた。
「…文章で意味が分からないところはありますか?」
5分ほど経ってから、スバルはアンリに訊いた。
「全体的にふわっとしか理解できていないかもしれません…」
「そうですか。では一つずつ読んでいきましょうか…ローさんも一緒に…」
「俺はいい」
「そうですか?ワノ国語は古代語に通じるものが多いので面白いですよ」
「何時ごろに終わる?」
俺がそう訊くと、スバルは何かを感じ取ったのか、少しぶっきらぼうに言った。
「昼過ぎには終わるかと思いますが」
「あの、私お昼ご飯作っているので、よければ召し上がって帰ってください」
「お気遣いありがとうございます」
アンリの言葉にまた怒りそうになるが、スバルがアンリに優しく話しかける様子は本当に仲睦まじく見えて、俺は居た堪れなくなって部屋を出た。