#04 雨
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side.コビー
「人を殺したのか?」
ズバッと聞かれて、震え上がってしまった。
おそるおそる小さく頷くけれど、事実を認めてしまうとさらに震えが止まらなくなって、不安とか恐怖とか罪悪感とか重苦しいものが一気に押し寄せてくる。
考えてみれば殺しを仕事にしている人の前で、人を殺して震えが止まらないなんて海兵が言うのは、情けなすぎるんじゃないだろうか…。
元帥のように呆れられるだろうか。
上司みたいに「甘ったれるな!」と叱責されるだろうか。
同僚のようにボコボコにされるだろうか。
部下のように冷たい目で見られるだろうか。
「それくらい慣れろ」とぶっきらぼうに言われるだけだろうか。
そんなことをぐるぐる考えていたら、恐る恐るといったように、不器用に髪をくしゃくしゃっと撫でられた。
「そうか…人を殺したのか…怖かったな…」
まさかそんな優しい言葉をかけてもらえるなんて予想外で、急に涙が込み上げてきて、我慢しようとしていたのに嗚咽を漏らして泣いてしまった。
「それが普通の反応だ…普通は慣れねえもんなんだよ…お前は慣れなくていい…」
『それくらい経験を積めば慣れる』
『そんなことを気にしていては身が持たないぞ、とにかく慣れろ』
元帥も大将も他の上司も、みんなそう言う。
実際敵はこっちを殺しにかかる。
やられる前にやらなければいけない。
慣れないとやってられないのは分かっている。
そう。慣れなきゃいけない。
なのに『慣れなくていい』と言ったのは、セナガキさんだけだ。
「周りにどう言われようが慣れちゃいけねえ…人の命を奪うことに慣れるな」
はっとした。
毎日毎日人を殺してきた人が言う言葉はすごく重かった。
「だってそうだろ?背中に『正義』背負ってるんだから…頼むから、慣れないでくれよ」
セナガキさんは本当にかっこいい。
海軍の『正義』のためとはいえ大量に人の命を奪ってきた人だし、たった一人でその重圧に耐えてきた人だ。きっと、僕が想像もできないような死線を超えてきている。
『海軍鉄の掟』に書かれてある通り、狂ったり自殺に追い込まれたり心が壊れていてもおかしくないのに、それでも繊細なまま、人に優しくできる人だ。
スーツのジャケットを羽織り、拳銃をさげ、サングラスをかけ、革靴を履く。
その一挙手一投足すらかっこいい。
僕もこんな大人になりたいとさえ思う。
見過ぎたかな。
セナガキさんがこちらを見てイタズラっぽく笑った。
「どうした?俺様がカッコ良すぎて惚れちゃったか?」
「な、何言ってるんですかっ!」
「冗談だよ…じゃあ、行ってくるな」
「はい…」
セナガキさんは明るい。
無口だったけど、意外とよく喋る。
冗談もよく言うし、僕のことをこんなに気遣ってくれる。
今から人を殺しに行くとは到底思えないほど明るくて、そう考えると、ぞっとしてしまう。
どうしよう。また震えが止まらなくなってきた。
「はっはっはっ、そんな顔すんなよ、俺は良いんだよ、それが仕事なんだから」
セナガキさんはそんな僕を見て、僕の頭をくしゃくしゃに撫でて、部屋を出た。
(愛おしい…離れたくないなあ…)
「…えっ」
バタンという扉の閉まる音と同時に、心の声が聞こえた。
心臓が大きく跳ねる音と、雨音だけが静かに響いた。
「人を殺したのか?」
ズバッと聞かれて、震え上がってしまった。
おそるおそる小さく頷くけれど、事実を認めてしまうとさらに震えが止まらなくなって、不安とか恐怖とか罪悪感とか重苦しいものが一気に押し寄せてくる。
考えてみれば殺しを仕事にしている人の前で、人を殺して震えが止まらないなんて海兵が言うのは、情けなすぎるんじゃないだろうか…。
元帥のように呆れられるだろうか。
上司みたいに「甘ったれるな!」と叱責されるだろうか。
同僚のようにボコボコにされるだろうか。
部下のように冷たい目で見られるだろうか。
「それくらい慣れろ」とぶっきらぼうに言われるだけだろうか。
そんなことをぐるぐる考えていたら、恐る恐るといったように、不器用に髪をくしゃくしゃっと撫でられた。
「そうか…人を殺したのか…怖かったな…」
まさかそんな優しい言葉をかけてもらえるなんて予想外で、急に涙が込み上げてきて、我慢しようとしていたのに嗚咽を漏らして泣いてしまった。
「それが普通の反応だ…普通は慣れねえもんなんだよ…お前は慣れなくていい…」
『それくらい経験を積めば慣れる』
『そんなことを気にしていては身が持たないぞ、とにかく慣れろ』
元帥も大将も他の上司も、みんなそう言う。
実際敵はこっちを殺しにかかる。
やられる前にやらなければいけない。
慣れないとやってられないのは分かっている。
そう。慣れなきゃいけない。
なのに『慣れなくていい』と言ったのは、セナガキさんだけだ。
「周りにどう言われようが慣れちゃいけねえ…人の命を奪うことに慣れるな」
はっとした。
毎日毎日人を殺してきた人が言う言葉はすごく重かった。
「だってそうだろ?背中に『正義』背負ってるんだから…頼むから、慣れないでくれよ」
セナガキさんは本当にかっこいい。
海軍の『正義』のためとはいえ大量に人の命を奪ってきた人だし、たった一人でその重圧に耐えてきた人だ。きっと、僕が想像もできないような死線を超えてきている。
『海軍鉄の掟』に書かれてある通り、狂ったり自殺に追い込まれたり心が壊れていてもおかしくないのに、それでも繊細なまま、人に優しくできる人だ。
スーツのジャケットを羽織り、拳銃をさげ、サングラスをかけ、革靴を履く。
その一挙手一投足すらかっこいい。
僕もこんな大人になりたいとさえ思う。
見過ぎたかな。
セナガキさんがこちらを見てイタズラっぽく笑った。
「どうした?俺様がカッコ良すぎて惚れちゃったか?」
「な、何言ってるんですかっ!」
「冗談だよ…じゃあ、行ってくるな」
「はい…」
セナガキさんは明るい。
無口だったけど、意外とよく喋る。
冗談もよく言うし、僕のことをこんなに気遣ってくれる。
今から人を殺しに行くとは到底思えないほど明るくて、そう考えると、ぞっとしてしまう。
どうしよう。また震えが止まらなくなってきた。
「はっはっはっ、そんな顔すんなよ、俺は良いんだよ、それが仕事なんだから」
セナガキさんはそんな僕を見て、僕の頭をくしゃくしゃに撫でて、部屋を出た。
(愛おしい…離れたくないなあ…)
「…えっ」
バタンという扉の閉まる音と同時に、心の声が聞こえた。
心臓が大きく跳ねる音と、雨音だけが静かに響いた。