#04 雨
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side.セナガキ
18時。
バケツをひっくり返したような大雨の音で目が覚める。
予報では明日の明け方まで降るらしい。
さすがに今日は来ないかと思いながら支度をしていたら、窓からずぶ濡れになって入ってきた。
「セナガキさん…」
この時間に来るなんて珍しい。
いつもの元気がないし、何かあったのだろうか。
「風邪引くぞ」
上着をハンガーにかけて、バスタオルを渡すけど、髪を拭く手が弱々しい。
やっぱり何かあったんだな、と思って、着替えを持たせて風呂に入ってくるように言うと、フラフラした足取りで脱衣所に入っていった。
~~~~~~~~~~~~~~~
「温まったか?」と訊くと、こくりとうなずいたので「そこに座れよ」とソファーを勧めると、ちょこんと端の方に座った。
「麦茶かミルクかカフェオレ、どれがいい?」
「…コーヒーで」
「お前ブラック飲めるのか?」
「…カフェオレで」
「悪いが砂糖はねえぞ、無理すんなよ」
「大丈夫です、ありがとうございます」
らしくないコビーを横目で見ながら、小鍋でミルクを多めに温めてコーヒーを淹れて一緒に混ぜる。
今度から砂糖も買っておこうか。
備品が変わったらセンゴクさんに怪しまれるだろうか。
「熱いから気をつけろよ」
「ありがとうございます…」
ふーっと冷まして、一口飲むと、コビーの表情が少し柔らかくなる。
よかった。
それを見届けてから、自分の分を少し濃いめにハンドドリップする。
「大丈夫か?」
「おいしいです…僕、苦いのダメって言いましたっけ?」
「見るからに飲めなそうだから。ホットミルクでも良かったのに」
「いいんです、コーヒー、飲めるようになりたいので」
「無理すんなって」
自分の分のコーヒーをマグカップに淹れて、コビーの隣に座ると、マグカップを持つコビーの手が震えていることに気がつく。
「どうした?」
「セナガキさんは…人を殺すことに、躊躇いはないですか?」
細く震える声でそう問われた。
「…もう慣れたな」
「そうですか…」
「迷ったら殺されるだろ」
「そう、ですよね…」
隣り合う腕から体温が伝わる。
「人を殺したのか?」
そう訊くと、コビーはびくっとして俯き、小さく頷いた。
頷いてしまったことでまた怖くなって震えている。
「そうか」
普通の人間は人を殺したときにこうなるのか、となんとなく無機質に思いながら、コビーの頭をくしゃくしゃっと撫でる。
撫でてから、自分がコビーの頭を撫でていることに気がついて驚いてしまった。
…なんで私は、人殺しなのに、人を殺すためだけの手で、こいつを撫でてるんだろう。
無意識だった。
人を殺した罪悪感で死にそうになってるこいつを、どうして人殺しの俺が励ませると思ったんだろう。
「そうか…人、殺したのか…怖かったな…」
そう思うのとは裏腹に不思議なほど自然に言葉が出てきて、コビーの啜り泣く声が聞こえてきた。
「それが普通の反応だ…普通は慣れねえもんなんだよ…だから、お前は慣れなくていい…周りにどう言われようが慣れちゃいけねえ…人の命を奪うことに慣れるな」
私は自然に出てくる言葉を一つ一つ確かめるように言葉にしていく。
「だってそうだろ?背中に『正義』背負ってるんだから…頼むから、慣れないでくれよ」
お前はこっちに来てはいけないから。
海軍の未来なんだからさ。
死神は一人でいいんだよ。
お前は、日の当たる、温かいところにいてくれ。
「みんな…僕のせいで…死んでしまって…」
「うん」
「僕が、迷わずに敵を殺せたら…こんなことには、ならなかったのに…」
「うん」
「っううっ…僕が、未熟だから………っ」
「うん」
私はただコビーの頭を撫でていた。
だんだん、私も一緒に泣きそうになる。
自分にこんな感情があるなんて思わなかった。
雨の音が心地よく響いていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「すみませんでした」
19時40分。
ひとしきり泣いたところで、コビーがぺこぺこと頭を下げる。
「いいっていいって…落ち着いたか?」
「はい…ありがとうございます」
少し微笑んだコビーを見て、ソファーから立ち上がる。
さて、俺はこれから仕事だ。
スーツのジャケットを羽織り、拳銃をさげ、サングラスをかけ、革靴を履く。
コビーはその様子をじーっと眺めていたから、サングラスを少し下げて、視線を返した。
「どうした?俺様がカッコ良すぎて惚れちゃったか?」
「な、何言ってるんですかっ!」
冗談っぽく言うと、コビーは顔を真っ赤にした。
よかった、いつものコビーだ。
こいつにはずっとそのままでいてほしい。
「冗談だよ…じゃあ、行ってくるな」
「はい…」
ただ、真っ赤になったのは一瞬で、これから俺が何をしに行くのか分かっているからか、不安げな顔で見つめられた。
「はっはっはっ、そんな顔すんなよ、俺は良いんだよ、仕事なんだから」
こいつの不安を少しでも和らげたくて、私はまたコビーの頭をくしゃくしゃに撫でた。
18時。
バケツをひっくり返したような大雨の音で目が覚める。
予報では明日の明け方まで降るらしい。
さすがに今日は来ないかと思いながら支度をしていたら、窓からずぶ濡れになって入ってきた。
「セナガキさん…」
この時間に来るなんて珍しい。
いつもの元気がないし、何かあったのだろうか。
「風邪引くぞ」
上着をハンガーにかけて、バスタオルを渡すけど、髪を拭く手が弱々しい。
やっぱり何かあったんだな、と思って、着替えを持たせて風呂に入ってくるように言うと、フラフラした足取りで脱衣所に入っていった。
~~~~~~~~~~~~~~~
「温まったか?」と訊くと、こくりとうなずいたので「そこに座れよ」とソファーを勧めると、ちょこんと端の方に座った。
「麦茶かミルクかカフェオレ、どれがいい?」
「…コーヒーで」
「お前ブラック飲めるのか?」
「…カフェオレで」
「悪いが砂糖はねえぞ、無理すんなよ」
「大丈夫です、ありがとうございます」
らしくないコビーを横目で見ながら、小鍋でミルクを多めに温めてコーヒーを淹れて一緒に混ぜる。
今度から砂糖も買っておこうか。
備品が変わったらセンゴクさんに怪しまれるだろうか。
「熱いから気をつけろよ」
「ありがとうございます…」
ふーっと冷まして、一口飲むと、コビーの表情が少し柔らかくなる。
よかった。
それを見届けてから、自分の分を少し濃いめにハンドドリップする。
「大丈夫か?」
「おいしいです…僕、苦いのダメって言いましたっけ?」
「見るからに飲めなそうだから。ホットミルクでも良かったのに」
「いいんです、コーヒー、飲めるようになりたいので」
「無理すんなって」
自分の分のコーヒーをマグカップに淹れて、コビーの隣に座ると、マグカップを持つコビーの手が震えていることに気がつく。
「どうした?」
「セナガキさんは…人を殺すことに、躊躇いはないですか?」
細く震える声でそう問われた。
「…もう慣れたな」
「そうですか…」
「迷ったら殺されるだろ」
「そう、ですよね…」
隣り合う腕から体温が伝わる。
「人を殺したのか?」
そう訊くと、コビーはびくっとして俯き、小さく頷いた。
頷いてしまったことでまた怖くなって震えている。
「そうか」
普通の人間は人を殺したときにこうなるのか、となんとなく無機質に思いながら、コビーの頭をくしゃくしゃっと撫でる。
撫でてから、自分がコビーの頭を撫でていることに気がついて驚いてしまった。
…なんで私は、人殺しなのに、人を殺すためだけの手で、こいつを撫でてるんだろう。
無意識だった。
人を殺した罪悪感で死にそうになってるこいつを、どうして人殺しの俺が励ませると思ったんだろう。
「そうか…人、殺したのか…怖かったな…」
そう思うのとは裏腹に不思議なほど自然に言葉が出てきて、コビーの啜り泣く声が聞こえてきた。
「それが普通の反応だ…普通は慣れねえもんなんだよ…だから、お前は慣れなくていい…周りにどう言われようが慣れちゃいけねえ…人の命を奪うことに慣れるな」
私は自然に出てくる言葉を一つ一つ確かめるように言葉にしていく。
「だってそうだろ?背中に『正義』背負ってるんだから…頼むから、慣れないでくれよ」
お前はこっちに来てはいけないから。
海軍の未来なんだからさ。
死神は一人でいいんだよ。
お前は、日の当たる、温かいところにいてくれ。
「みんな…僕のせいで…死んでしまって…」
「うん」
「僕が、迷わずに敵を殺せたら…こんなことには、ならなかったのに…」
「うん」
「っううっ…僕が、未熟だから………っ」
「うん」
私はただコビーの頭を撫でていた。
だんだん、私も一緒に泣きそうになる。
自分にこんな感情があるなんて思わなかった。
雨の音が心地よく響いていた。
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「すみませんでした」
19時40分。
ひとしきり泣いたところで、コビーがぺこぺこと頭を下げる。
「いいっていいって…落ち着いたか?」
「はい…ありがとうございます」
少し微笑んだコビーを見て、ソファーから立ち上がる。
さて、俺はこれから仕事だ。
スーツのジャケットを羽織り、拳銃をさげ、サングラスをかけ、革靴を履く。
コビーはその様子をじーっと眺めていたから、サングラスを少し下げて、視線を返した。
「どうした?俺様がカッコ良すぎて惚れちゃったか?」
「な、何言ってるんですかっ!」
冗談っぽく言うと、コビーは顔を真っ赤にした。
よかった、いつものコビーだ。
こいつにはずっとそのままでいてほしい。
「冗談だよ…じゃあ、行ってくるな」
「はい…」
ただ、真っ赤になったのは一瞬で、これから俺が何をしに行くのか分かっているからか、不安げな顔で見つめられた。
「はっはっはっ、そんな顔すんなよ、俺は良いんだよ、仕事なんだから」
こいつの不安を少しでも和らげたくて、私はまたコビーの頭をくしゃくしゃに撫でた。