#02 ロシー
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ガシャーーーーーン!!!
ガラス窓を突き破って、センゴク元帥の執務室に侵入してしまった。
「くおぉらあああああ!何をやっとるんじゃお前はあああああ!!!」
「ひいいいいい!ごめんなさいいいいいいいい!!!」
僕は一生懸命床を舐める勢いで土下座した。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめ「もういいわあああああああ!!!」ひいいいいいいいいい!!!」
センゴク元帥の怒号に、僕は縮こまるしかない。
一通り息を吐ききったセンゴク元帥が、気を取り直して威厳を持って言った。
「顔を上げて立ちあがれ、そんな簡単に土下座などしてみっともない」
「は!も、申し訳ありません!」
僕は言うとおりに立ち上がる。
ガラスの破片が刺さっていることに気が付いて、今更痛くなってきた。
「お前はあれか、さっきガープが電伝虫で言ってた少尉か」
「は、はい!コビーと申します!」
元帥の前で痛いとも言えないので、必死に敬礼した。
「そうか、君がコビー少尉か…ガープから君のことはよく聞いている。あいつの世話は大変だろう」
「そ、そんな、世話だなんて…」
「苦労が多くてすまないがこれに懲りずよろしく頼む…窓ガラスのことは気にするな。修繕費はあいつの給料からさっ引いておく…」
「はあ…」
コン、コン、とノックの音がした。
「入れ」
扉を開けたのは、海軍将校の制服を着た、背の高い黒髪黒目の褐色肌の女性だった。
「あ………!!」
僕は思わず声を上げる。
ロシーさんだ。
背丈も見た目も全然違うけど、やっぱり、声が一緒だ。
ロシナンテ中佐は殉職している。
おそらく『ロシー』は『ロシナンテ』から取った偽名だろう。
じゃあ、あの黙祷会で出会った女の人は誰なんだ…?
どうして会うたびにここまで見た目が違うんだろう。
もうわけがわからなくなってきた。
ロシーさんはそのまま部屋を出て行こうとした。
「ロシーさん!待ってください!!」
呼び止めたけれど、ロシーさんは無視してそのまま走って出ていく。
バタンと大きく扉が閉まる音がした。
「知っているのか…?」
センゴク元帥の声にはっとして、また向き直る。
「少しお会いしたことがあって…」
「どこで?」
なぜか元帥が神妙な顔つきになって、空気がぴりついた。
「エトワール島の火事の時に助けてくださって…あと、この間の黙祷会で…」
僕がそう言うと、元帥は目玉が飛び出しそうなほど驚いた。
「あの、何か…」
「…コビー少尉」
「はい」
「どこまで知っている?」
「え」
元帥が机をバンと叩いて急に立ち上がった。
「『あいつ』について、どこまで知っている?!」
僕は気迫に圧されて声が出なくなってしまいそうになるけど、なんとか絞り出すように言った。
「…ロシーさん…殉職した海兵さんにお世話になったからパーティーに参加されていたと…それ以外のことは何も…」
「本当にそれだけか…?」
「はい…」
「そうか…」
「ですが、黙祷会でお会いした時はもっと小柄な女の人でしたし…火事の時は男の人でした…どうしてなんでしょう…悪魔の実の能力者なんですか?」
僕が訊くと、元帥はまた驚き、唸り、頭を抱えて、こう言った。
「コビー少尉…あいつについてはもう調べるな」
「えっ、どうしてですか?」
元帥は急須から湯のみに緑茶を注ぎ、一気に飲み干すと、ふーっと一度深呼吸をしてから、こう言った。
「あいつは死んだことになっている」
「どういうことですか…?」
僕はごくっと唾を飲んで、恐る恐る訊く。
元帥も恐る恐る、声のトーンを低くして口にした。
「…あいつはうちの裏仕事を全て請け負ってくれている…海軍の死神じゃ」
「!」
『死神』
…ヘルメッポさんから聞いたことがある。
海軍には、諜報や潜入捜査などの人目につかない仕事も多くあるが、それ以外に、暗殺、拷問、処刑、検死など、いわゆる『人殺し』専門の人間がたった一人存在して、その一人の人間が裏仕事を全て請け負っているという噂話。
海軍の闇を増やさないために、必ず一人の人間のみが徹底して仕事を行うことが義務付けられており、また、海軍の中でも最も多く機密情報を扱うので、情報漏洩防止のため唯一辞表提出が認められず、逃げたら即刻死刑。
殉職した場合のみ元帥が後継を任命するが、秘匿性を保持するため海軍の中でも優秀かつまだ世間に名の知られていない、階級の低い者かつ元帥の信用の置ける者が任命される。
スパイも多い反面、気が狂って自殺に追い込まれたり再起不能になる人間も多いらしい。
一昔前の『海軍鉄の掟』に書かれてあるらしいが、こんなめちゃくちゃな役職があるとは誰も思わない。
僕も今の今まで都市伝説だと思っていた。
「その存在は誰にも知られてはならん。もちろん味方にもだ…。
故に名簿にもリストにも載らない、マリンコードもない、功績も残らない、医療機関も海軍の医務室も受け入れん…世間では死んだ人間と同じ扱いじゃ。
お前が近づいていい人間ではない…」
「でも…」
会いたい。
会って話がしてみたい。
でも、個人的な都合を言うわけにもいかず、黙るしかなかった。
そんな僕を見て、センゴク元帥が釘を刺す。
「ガープからお前の功績は聞いている…ロッキーポートでの活躍、見事だった。
お前は海軍の未来…故に闇から一番遠いところにおらねばならん…悪いことは言わん、あいつのことはもう忘れろ」