#09 ツバメが旅立つ頃に
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こんなところにまで厳戒態勢を張る意味はあるのかと思うくらい、マリージョアからかなり離れた、とある田舎の島。
それらしい情報は未だ見つかっていない。
捜査していると、急にバケツをひっくり返したような大雨にふられて、近くのカフェで雨宿りをさせてもらうことにした。
雨音をバックに蓄音機から気だるげなスイングが流れる、狭い店内。
カウンターでカフェオレを飲みながら手配書と新聞を眺めている僕と、1階と2階を往復して掃除をしている店員さん以外は誰もいない。
ふと、木製のドアが開き、チリンチリンとドアベルの音がして、そちらを見たとき、僕は息をのんだ。
「ツバメさん………!?」
見覚えのある麦わら帽子の奥の青い瞳と目が合った瞬間、彼女ははっとして、走って店を出た。
「待ってください、ツバメさん!!」
僕は土砂降りの中を追いかける。
白いワンピースにサンダルなんてお嬢様みたいな恰好をするタイプじゃないけど、あの青い瞳は見間違えるはずがない。
それにしても逃げ足が速い。
さっき角を曲がったところなのに、僕がそこまで行くと、もう向こうの方に消えそうになっている。
僕は全速力で路地を曲がったけど、もういない。
どこに行ったんだ…?
…落ち着け。
こういう時、ツバメさんなら…隠れるんじゃないか?
そう、例えば…ゴミ箱の中!
蓋を開けると、当たり。
中から蹴りが飛んできたのを間一髪でかわして、ギリギリのところで手首を掴んだ。
「待って、ツバメさん…!」
そのまま僕の方に引き寄せて、もう片方の手で麦わら帽子で顔を隠すようにして、強く抱きしめた。
「離して…っ!」
「僕はあなたを捕まえる気はありません」
大雨に消えないように、でもできるだけ凛とした口調で言った。
「今捕まえたら、あなたは死刑になるんでしょう…?」
そう言うと、ツバメさんは抵抗をやめた。
「会いたかったです、ツバメさん…生きてて良かった…」
ちゅっ、と、触れるだけのキス。
唇を離すと、僕の大好きな青い瞳と目が合う。
「お元気でしたか」
「うん」
「よかった…」
また僕は彼女を抱きしめる。
「ずっと…待ってましたから、僕…」
「うん」
「僕、大佐になったんですよ」
「うん」
「約束、絶対守りますからね」
「うん」
「ツバメさん…」
「ごめんね…私、もう海軍には戻らないよ…」
「分かっています…」
ツバメさんがいなくなったあの日から、いろんなことが変わってしまった。
「ルフィさんのところにいるんですよね」
「どうしてそれを?」
「この麦わら帽子…ルフィさんのです。
安心しました…ルフィさんと一緒ならきっと大丈夫だから」
ツバメさんは僕の言葉を聞いて驚いた。
ルフィさんの話はよくしていた気がするけど、いつかルフィさんを捕まえるんだ!って言ったことが、そういえば何度かあったっけ。
「ツバメさんとは敵同士になっちゃいますけど…あなたが生きてくれるなら、僕はもうなんだっていいです」
「…うん」
僕はツバメさんを抱きしめている手を緩めて、最後にもう一度、キスをした。
このまま抱きしめていては、いずれ傷つけあう関係になってしまう。
今ここで、終わらせなければ。
「ツバメさん…本当に、ありがとうございました。
どうか、お元気で………」
ツバメさんに麦わら帽子をかぶせ直して、ピシッと敬礼をした。
「コビー」
久しぶりに名前を呼ばれた。
「好きだったよ」
最後に、素直じゃない彼女が、まっすぐに、僕の目を見てそう言った。
泣きそうになった。
「僕も…愛していました」
「…ごめんね」
「謝らないでください…僕は…あなたに会えて、幸せでした」
「…私も」
もう、お互い、それ以上言葉にできなかった。
彼女は僕を見て、ピシッと敬礼を返すと、麦わら帽子を目深にかぶった。
「またね、コビー」
「ええ、また………」
彼女は路地裏を飛び出して、土砂降りの中、向こうのひまわり畑の方へ走っていく。
世界の中でもマリンフォードにだけ一年中生息している鳥が、飛び立っていく。
僕は路地裏を出て、その背中を、見えなくなるまで見送った。
『正義』のコートのポケットに入れた指輪を握りながら。
end.
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