#07 短くて7年…
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side.セナガキ
あのまま任務先へ向かって仕事を終えて、夜明け前に本部に戻ったけど、コビーが待っているかもと思うと部屋に帰るに帰れなくて、煙草を吸いながら中庭をうろうろしている。
8月だから向こうの方が少しずつ明るくなりはじめていてそこまで暗くはない。
風が吹いて、どこかの部屋の風鈴の音が聞こえた。
いい涼しさだ。
小さいころはここでロシーに遊んでもらった。
虫取りもしたし、木登りもしたし、かくれんぼもした。
野球バットで撃った球がセンゴクさんの部屋の窓ガラスを割って大事な会議中だったセンゴクさんの後頭部に直撃して、2人でめちゃくちゃ怒られた。
秋には焼き芋を作ったし、
冬には雪だるまを作った。
春にはお花見をしたし、
今くらいの時期には花火もした。
ロシーの煙草で肩が燃えてボヤ騒ぎになったのもしょっちゅうだった。
一緒に昼寝もした。
眠れない日は夜も一緒に寝てもらってた。
ロシーに教えてもらって狙撃の練習もした。体術も変装も教えてもらった。
雑用で草抜きも花の水やりも頑張った。
ここで読書をするのが好きだった。
ロシーが亡くなってからはいろいろ思い出してしまうから来なくなってたけど
今になって、ここで過ごした17年間が鮮明によみがえる。
「…これでよかったんだよな…」
あの人と同じ煙草の煙を吐きながら、一人呟いた。
『愛してるぜ!』
そう笑ったロシーのことを思い出す。
私はコビーに『愛してる』の一言も言えなかったな…。
コビーは…名前も素性も分からない私に、毎日会いに来てくれたのに。
大将になるんだって毎日笑顔で『正義』を背負う君は、誰よりも輝いて見えた。
精悍な君を、ずっと見ていたかった。
「あーらら、珍しいのがいるじゃないの」
知った声がして振り返る。
「クザン」
「よっ、色男、久しぶり」
スーツの袖でごしごしと涙を拭う。
「あらら、未成年が煙草なんか吸っちゃって」
「未成年じゃねえよ、もうハタチだ」
「あら、そうだっけ?じゃあほんと久しぶりだねえ…最後に会ったのいつだっけ?」
「…何か用かよ」
「いーや?見ない間にずいぶんな男前になってたら、声かけたくもなっちゃうでしょ。ま、スーパーボインじゃなくて残念だけど」
「相変わらずだな」
俺は携帯灰皿に吸殻を入れて、また新しく煙草をつける。
16で少尉になって『死神』に任命されてから数回会ったことがあるだけの仲だが、どういうわけか覚えてくれていて、たまに会っては会話している。
「最近どうよ?相変わらず『死神』やってんの?」
「まあな…それももうお役御免になりそうだけどよ」
「ふうん?」
「…短くて7年だそうだ」
そう言うと、クザンは驚いたようだ。
「そうか…これまたタイミングよく会えたもんだ」
「…世話になったな」
「お前とはもうちょっと仲良くなりたかったよ」
「ありがとよ」
「あら、素直」
「不思議だよな…今まで言えなかったことがするする出てくるんだ…もう言えねえこともあるがな…」
夜が明けていく。
そろそろコビーが起きる時間だ。
「あんたに会えてよかったよ」
「嬉しいこと言ってくれるじゃねえの」
「…じゃあな」
そう言って立ち去ろうとした俺の背中に、クザンが言った。
「また会おうぜ、セナガキ」
「…ああ、元気でな」
花壇のひまわりが風に揺れていた。