#06 幸せな時間
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side.セナガキ
センゴクさんに呼び出されたので、いつもの黒スーツの男になってから部屋の扉をノックする。
「セナガキです」
「入れ」
「失礼します」
扉を開けると、中では机の上で手を組んで神妙な顔をしたセンゴクさん。
「なんでしょうか」
「うむ…実はだな…」
珍しく歯切れが悪い。
どうしたのだろう。
「長期任務なのだが…」
「そうですか…」
「…」
なんだ?
長期任務くらい今までだってやってきたのに、なぜそんなに言い渋ることがあるんだ?
「期間は?」
「…短くて7年だ」
それを聞いてなるほど、と納得した。
『短くて7年』というのは期間のことではなく『戻って来れる可能性が限りなく低い』『殉職する前提の任務』などを指す海軍本部の隠語だ。
センゴクさんはまだ難しい顔をしている。
「行き先はどこですか?」
私がそう言うと、センゴクさんの眉間のしわがさらに深くなり、少し間を置いて、重々しく口にした。
「…マリージョアだ」
「マリージョア?世界政府の誰を殺すのですか?」
「任務ではない」
「話が全く見えないのですが…」
センゴクさんは、しぶしぶと私に大きめのアルバムのようなものを差し出す。
開けると、知らない男の写真…。
「見合い写真…??」
「そうだ…そいつはフィガーランド聖の次男・フィガーランド=フィンガー聖という…どこで見たのかお前を気に入ったらしい」
「は…?」
「結婚の申し込みだ」
私は見合い写真をゴミ箱へ放り投げる。
「断ってください」
「それはできん」
「…」
「お前も知っているだろう。天竜人の言うことは絶対だ。特にこのフィガーランド聖は天竜人の中でもかなり位が高い…」
私は何も言えず、ただあいつの笑顔が思い出されて、頭から離れなかった。
「…辞退すれば海軍を潰されるとしたら…お前だったらどうする?」
「え…!?」
センゴクさんがとんでもなく思い雰囲気で、とんでもないことを口にした。
「向こうの条件だ。お前を差し出さなければマリンフォードにマザーフレイムを使うと言ってきた…血眼になってお前を探しているようだ」
「そんなめちゃくちゃな…」
「すまない…私にはどうすることもできない…」
センゴクさんは机の前に出ると、その場にひざまずいて、頭を打ち付けるようにして私に土下座した。
「やめてください、センゴクさん!」
「本当にすまない…!お前の親なのに…私はもうロシナンテに合わす顔がない…!どうしたらいいのか分からんのだ…!すまない………!」
「頭を上げてください…!」
センゴクさんは頭を打ち付けるのをやめて、そのままの体制で言う。
あのセンゴクさんが、私に土下座するなんて…。
「…9月1日の早朝、マリージョアの使いの人間がお前を迎えに来るそうだ」
「9月1日…」
「だから…それまでにお前は変装して逃げろ!」
「…!センゴクさん…!」
センゴクさんが私の両肩を掴む。
「私だって、大事な娘を何をするか分からんような奴にほいほいやりたくはない…!
今考えられる最善策だ…どこかに身を潜めることができれば、ここよりいい暮らしができるだろう…」
「………わかった…」
私はセンゴクさんの目をまっすぐ見た。
「結婚、受けるよ」
「な…何を…!?」
「そうしないとここがなくなっちまうんだろ…?」
「…」
「ここは俺の家だ。戦場で人殺して死体漁ってメシ食ってた俺に居場所をくれた…俺でも市民を守る海兵になれるんだって、誰かを助ける力があるんだって、この場所が希望をくれた…」
「俺、やっぱり人殺ししかしてないかもしれないけど…今は守るべき家族がたくさんいるから…守りたい人がいるから…みんなに正義を背負い続けてもらえるなら…なんだってやるよ」
「お前…!」
「センゴクさん…ここまで育ててくださって、ありがとうございました。
この御恩、一生忘れません…」
私はセンゴクさんに正座して頭を下げた。
センゴクさんの…あの頑固オヤジのすすり泣く声が聞こえてきた。