#04 雨
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side.セナガキ
「お前、タバコを吸うようになったのか」
仕事が終わってセンゴクさんの部屋へ報告に上がった時にそう問われて、しまったと思った。
窓を開けて窓枠のところで吸うようにしていたが、匂いが残ったか。
「ロシーみたいでカッコいいでしょ?」
「やめておけ、匂いがうつる」
少しおどけてみるけど、センゴクさんの雰囲気は固い。
今から何を言われるのか、なんとなく想像がついてしまって、自嘲が浮かぶ。
「…お前、変わったな」
「…そうでしょうか?」
センゴクさんが机の上で手を組んだ。
「敵に拷問されようが知人を殺さねばならなくなろうが、何があっても淡々と仕事をこなすだけの人間だったのに、最近よく笑うようになった…明るくなった…冗談を言うし、雰囲気が優しくなった…人間らしくなったな…」
「私はもともと人間ですよ」
「…何がお前をそんなに変えた?」
「…いけませんか?」
「いいや…辛そうだと思ってな」
「………死ぬまで辞職はしませんから、安心してください」
決意表明するつもりが、自分に言い聞かせるようになってしまって、笑えてくる。
本当だ。
私、変わっちゃったみたい。
強くなくなっちゃったのかもしれない。
もう、人は殺せないのかもしれない。
海軍の役には立たないかもしれない。
立派な海兵には、なれないかもしれない。
私の中で『正義』の2文字が、ガラガラと崩れ落ちていく。
「…コビー少尉か」
「何言ってるんですか」
「気づいてないとでも思っていたか!?」
図星を突かれて、怒鳴り散らされて、押し黙るしかなくなってしまう。
昔からセンゴクさんは苦手だ。
センゴクさんは机を蹴飛ばし、私の胸倉をつかむ。
「私以外の人間とは話すなと…決して表には出るなとあれほど…あれほど言ったのに、どうして聞かなんだ!!?」
ガッシャーーーン!!!
壁に投げ飛ばされて、体を強打する。
棚の上の花びんが落ちてきて、頭に当たって割れた。
スーツについた血が花瓶の水でにじんで、少し色が薄くなる。
「決して傷つけていたわけではない!お前が任務を全うできるように、これ以上重荷を背負わせんように、俺はそう言ったんだ!なのになぜ…なぜ分からんのだ…!」
「よりにもよって海軍の未来に手を出しおって!!」
「『死神』よ!!私はお前をそんな人間に育てた覚えはない!!!」
「…!!!」
頭がぐらぐらする。
破片が刺さって痛い。
この程度、痛くもかゆくもないはずなのに。
どうして私はこんなに脆くなってしまったのだろう。
分かっている。
センゴクさんだって、親心で言ってくれている。
私が複雑な感情を持ってしまったら、任務に支障が出てしまうから。
それはつまり、海軍の崩壊につながってしまうから。
大切な人ができてしまったら、弱点になってしまうから。
全ては、誰よりも強い海兵になるため。
任務をこなし続ける『死神』であるため。
今までは、そう思っていた。
それが自分のためでもあるし、海軍全体のためでもあるんだって、そう信じて疑わなかった。
でも…コビーに出会ってしまったから。
憧れてしまったから。
あの光を見たいと願ってしまったから。
少しでも生きる希望を持ってしまったから。
あなたが、心をくれたから。
気が付いたら私は、センゴクさんの前で、涙をぼろぼろこぼしていた。
私は、もう、役には立てないかもしれない。
子供のころから夢見て憧れてやまなかった、かっこいい海兵さんには、なれないかもしれない。
それでも、言い返さなきゃ。
ここで黙ってしまったら、コビーが処罰されてしまうかもしれない…。
でも、怖くて言い返せない。
敵に囲まれたとき以上に、私は、センゴクさんが、怖い。
未だに足がすくむ。
それでも…少しでも抵抗しなきゃ…。
コビーを、守らなきゃ…。
「センゴクさん…」
頭が真っ白になりながら、涙と鼻水を拭いながら、私はフラフラと立ち上がった。
「闇の中で育った植物は、急に強い日光にさらされると、まるで太陽に灼かれたように、からからに干からびてしまうんです」
意識が朦朧として、自分でも何を言っているのか、よく分からない。
でも、何か言わなきゃ…。
その一心で、言葉を紡いだ。
「闇の中で育てようが、太陽の当たるところで育てようが、いつかは枯れます」
「いずれにせよ枯れてしまうのならば…光など知らずに闇の中に閉じ込められたまま生を終えた方が幸せだったろうにと…あなたは思いますか…?」
「…!」
「光の中で飲む水の尊さを知らない方が良かったのにと…空気のおいしさや蝶の愛らしさ花の美しさを知らない方が植物の身のためだと…嵐の壮絶さや人の優しさを教えないことが大切にすることなのだと…あなたはそう思うのですか?!」
私は花瓶の大きな破片を手当たり次第にセンゴクさんに投げていた。
「植物が枯れたのは、太陽のせいなのですか…?ずっと闇のなかに棲んでいて、光を知らなかったからではないですか…?!」
「…何が言いたい!?」
センゴクさんが私の頬を殴る。
私もセンゴクさんを殴り返す。
「私は!!コビー少佐に出会うまでは…何も知りませんでした…いいえ、思い出せませんでした…!
自分が何者なのかも…心があることも…人間だったことすら忘れていた…!!
そんなことも知らずに…私は…立派な海兵になれるの…!?」
そう言った瞬間、はっとした。
そうだった…私は…
「私は…コビーのような海軍将校になりたかった…!!」
倒れていたセンゴクさんの胸倉を掴んで訴える。
「強くてかっこよくて優しい海兵さんになりたかった…ずっとずっと…子供のころから…あの『正義』を背負ってみたかった…だから…コビーには背負わせてやりたいんだよ…!私…頑張るから…『正義』背負ってもらえるように頑張るから…!!」
センゴクさんはそれ以上何も言わず、私はただただ声を上げて号泣した。
「お前、タバコを吸うようになったのか」
仕事が終わってセンゴクさんの部屋へ報告に上がった時にそう問われて、しまったと思った。
窓を開けて窓枠のところで吸うようにしていたが、匂いが残ったか。
「ロシーみたいでカッコいいでしょ?」
「やめておけ、匂いがうつる」
少しおどけてみるけど、センゴクさんの雰囲気は固い。
今から何を言われるのか、なんとなく想像がついてしまって、自嘲が浮かぶ。
「…お前、変わったな」
「…そうでしょうか?」
センゴクさんが机の上で手を組んだ。
「敵に拷問されようが知人を殺さねばならなくなろうが、何があっても淡々と仕事をこなすだけの人間だったのに、最近よく笑うようになった…明るくなった…冗談を言うし、雰囲気が優しくなった…人間らしくなったな…」
「私はもともと人間ですよ」
「…何がお前をそんなに変えた?」
「…いけませんか?」
「いいや…辛そうだと思ってな」
「………死ぬまで辞職はしませんから、安心してください」
決意表明するつもりが、自分に言い聞かせるようになってしまって、笑えてくる。
本当だ。
私、変わっちゃったみたい。
強くなくなっちゃったのかもしれない。
もう、人は殺せないのかもしれない。
海軍の役には立たないかもしれない。
立派な海兵には、なれないかもしれない。
私の中で『正義』の2文字が、ガラガラと崩れ落ちていく。
「…コビー少尉か」
「何言ってるんですか」
「気づいてないとでも思っていたか!?」
図星を突かれて、怒鳴り散らされて、押し黙るしかなくなってしまう。
昔からセンゴクさんは苦手だ。
センゴクさんは机を蹴飛ばし、私の胸倉をつかむ。
「私以外の人間とは話すなと…決して表には出るなとあれほど…あれほど言ったのに、どうして聞かなんだ!!?」
ガッシャーーーン!!!
壁に投げ飛ばされて、体を強打する。
棚の上の花びんが落ちてきて、頭に当たって割れた。
スーツについた血が花瓶の水でにじんで、少し色が薄くなる。
「決して傷つけていたわけではない!お前が任務を全うできるように、これ以上重荷を背負わせんように、俺はそう言ったんだ!なのになぜ…なぜ分からんのだ…!」
「よりにもよって海軍の未来に手を出しおって!!」
「『死神』よ!!私はお前をそんな人間に育てた覚えはない!!!」
「…!!!」
頭がぐらぐらする。
破片が刺さって痛い。
この程度、痛くもかゆくもないはずなのに。
どうして私はこんなに脆くなってしまったのだろう。
分かっている。
センゴクさんだって、親心で言ってくれている。
私が複雑な感情を持ってしまったら、任務に支障が出てしまうから。
それはつまり、海軍の崩壊につながってしまうから。
大切な人ができてしまったら、弱点になってしまうから。
全ては、誰よりも強い海兵になるため。
任務をこなし続ける『死神』であるため。
今までは、そう思っていた。
それが自分のためでもあるし、海軍全体のためでもあるんだって、そう信じて疑わなかった。
でも…コビーに出会ってしまったから。
憧れてしまったから。
あの光を見たいと願ってしまったから。
少しでも生きる希望を持ってしまったから。
あなたが、心をくれたから。
気が付いたら私は、センゴクさんの前で、涙をぼろぼろこぼしていた。
私は、もう、役には立てないかもしれない。
子供のころから夢見て憧れてやまなかった、かっこいい海兵さんには、なれないかもしれない。
それでも、言い返さなきゃ。
ここで黙ってしまったら、コビーが処罰されてしまうかもしれない…。
でも、怖くて言い返せない。
敵に囲まれたとき以上に、私は、センゴクさんが、怖い。
未だに足がすくむ。
それでも…少しでも抵抗しなきゃ…。
コビーを、守らなきゃ…。
「センゴクさん…」
頭が真っ白になりながら、涙と鼻水を拭いながら、私はフラフラと立ち上がった。
「闇の中で育った植物は、急に強い日光にさらされると、まるで太陽に灼かれたように、からからに干からびてしまうんです」
意識が朦朧として、自分でも何を言っているのか、よく分からない。
でも、何か言わなきゃ…。
その一心で、言葉を紡いだ。
「闇の中で育てようが、太陽の当たるところで育てようが、いつかは枯れます」
「いずれにせよ枯れてしまうのならば…光など知らずに闇の中に閉じ込められたまま生を終えた方が幸せだったろうにと…あなたは思いますか…?」
「…!」
「光の中で飲む水の尊さを知らない方が良かったのにと…空気のおいしさや蝶の愛らしさ花の美しさを知らない方が植物の身のためだと…嵐の壮絶さや人の優しさを教えないことが大切にすることなのだと…あなたはそう思うのですか?!」
私は花瓶の大きな破片を手当たり次第にセンゴクさんに投げていた。
「植物が枯れたのは、太陽のせいなのですか…?ずっと闇のなかに棲んでいて、光を知らなかったからではないですか…?!」
「…何が言いたい!?」
センゴクさんが私の頬を殴る。
私もセンゴクさんを殴り返す。
「私は!!コビー少佐に出会うまでは…何も知りませんでした…いいえ、思い出せませんでした…!
自分が何者なのかも…心があることも…人間だったことすら忘れていた…!!
そんなことも知らずに…私は…立派な海兵になれるの…!?」
そう言った瞬間、はっとした。
そうだった…私は…
「私は…コビーのような海軍将校になりたかった…!!」
倒れていたセンゴクさんの胸倉を掴んで訴える。
「強くてかっこよくて優しい海兵さんになりたかった…ずっとずっと…子供のころから…あの『正義』を背負ってみたかった…だから…コビーには背負わせてやりたいんだよ…!私…頑張るから…『正義』背負ってもらえるように頑張るから…!!」
センゴクさんはそれ以上何も言わず、私はただただ声を上げて号泣した。