#01 黙祷会
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side.コビー
年に一度、マリンフォードの裏手にある街の大きな城跡で盆に行われる海軍主催の黙祷会。
殉職した海兵の家族や親類縁者を呼んで供養する会だ。
僕は毎年黙祷のために参加しているけど、その後の親睦会がどうも苦手だ。
酒の入ったガープさんについて回って挨拶しているうちに疲れてしまって、風に当たろうかとバルコニーに出ると、女の人が夕日を眺めていた。
ため息が出るほど美しい人だった。
色素の薄い亜麻色の髪が夕日を受けて光っている。
木の陰になじむ黒い長そでのワンピース。洋風の小さな帽子に、顔を覆う黒いヴェール。
その奥から覗く白い肌。大きな瞳。
まるで絵画を観ているみたいだった。
ふと彼女が僕に気づいて、こちらを見る。
どきっとして、思わず見惚れてしまっていたことに気づいて、さらにドキドキしてしまう。
ヴェールの奥の瞳から、目が離せない。
時間が止まったみたいだった。
「綺麗だなあ」「綺麗ですね」
「「…えっ?」」
風の音と、中で歓談の声がかすかに聞こえるだけの静かなバルコニーで、彼女がため息交じりに言った言葉と、思わずあふれた僕の言葉が同時に響く。
彼女がまたこちらを見て、目が合って、ほんの少し妖艶にほほ笑んだ。
…今きっと僕、顔が真っ赤だ。
ドキドキするのが止まらない…どうしよう…。
「かぶっちゃいましたね」
「あはは…」
「こんなに燃えるように綺麗な夕日を見たのは久しぶりで、つい」
「あ…あ、ああ、そう、そうですよね!夕日、綺麗ですよね!」
びっくりした。夕日のことか…。
確かにとても綺麗だ。
「…僕、少尉のコビーと申します」
「コビーさん…お若いですね」
「17です」
「そうですか…」
「お名前をお伺いしても?」
「…ロシーと申します」
「ロシーさん…」
「殉職した海兵さんにお世話になりましたので、毎年お礼を言いに来ているんです」
彼女はそう言うけど…
なんだろう、違和感を感じる。
もしかして、と思って、訊いてみた。
「あの…先日のエトワール島の大火事の時に助けてくださった方ですよね…?」
つい1週間ほど前。
任務でエトワール島という小さな島に行ったのだが、そこの城を通して海賊に武器や麻薬を密輸していたファミリーを検挙する寸前で、密輸物の爆弾を城内で爆発させられてしまい、あっという間に燃え移って島全体が火事になった。
海軍が何人も駆り出され、消火活動、救助活動は1日中続いた。
犯人のマフィアを検挙することを優先した僕は火事場でボスと一騎打ちに。
とどめの一撃を撃って海楼石の手錠をはめるところまではなんとかなったが、煙を大量に吸ってしまい、逃げ遅れてしまった。
意識が朦朧とする中で見たのが、金髪の、背の高い男の人。
『正義』のコートを羽織った海兵だった。
そう。あの人は背の高い男の人だったから、小柄な彼女とは全然違うけれど、どことなく似ていた気がして、それがすごく気になっている。
「いいえ…人違いではありませんか?」
「でも…」
(この人が、コビー少尉…)
ふと、声が聞こえた。
あの時聞いたのと同じ声だ。
「私、エトワール島には行ったことがありませんから」
「………それは嘘ですね」
「あら、どうして?」
「だって、心の声があの人と同じだから」
あの火事場から僕を助けてくれた人の声。
きっと強くて逞しい人だと思っていたけれど、彼女と同じ、優しくて繊細で、ガラス細工のように透明な声が、ずっと残っていた。
「このバンダナをお返ししたくて、ずっとあなたを探していました…お会いできて嬉しいです、ロシーさん」
僕は上着のポケットに入れていた青い花柄のバンダナを彼女に差し出した。
「それはあなたに差し上げます」
「えっ」
「花柄なんて使いづらいかもしれませんが、よく止血できる素材なので、使ってください」
「そんな、いいんですか」
「ええ、だってあなた、額から血が出ていますから」
「えっ!?」
慌てて額に触れると、確かに手に血がついてしまったので、彼女の言う通り、額にバンダナを巻いてみた。
「すみません、お見苦しいものをお見せしました」
「いえ」
「ありがとうございます…大切に使いますね」
「コビー!こんなところにいたのか!」
バルコニーのドアが開いて、ぶわっと風が舞う。
「ヘルメッポさん」
「もうお開きだとよ!帰るぞ!」
「はい!…すみません、では僕は、これで…」
振り返ると、そこにはもうロシーさんはいなかった。
end.
年に一度、マリンフォードの裏手にある街の大きな城跡で盆に行われる海軍主催の黙祷会。
殉職した海兵の家族や親類縁者を呼んで供養する会だ。
僕は毎年黙祷のために参加しているけど、その後の親睦会がどうも苦手だ。
酒の入ったガープさんについて回って挨拶しているうちに疲れてしまって、風に当たろうかとバルコニーに出ると、女の人が夕日を眺めていた。
ため息が出るほど美しい人だった。
色素の薄い亜麻色の髪が夕日を受けて光っている。
木の陰になじむ黒い長そでのワンピース。洋風の小さな帽子に、顔を覆う黒いヴェール。
その奥から覗く白い肌。大きな瞳。
まるで絵画を観ているみたいだった。
ふと彼女が僕に気づいて、こちらを見る。
どきっとして、思わず見惚れてしまっていたことに気づいて、さらにドキドキしてしまう。
ヴェールの奥の瞳から、目が離せない。
時間が止まったみたいだった。
「綺麗だなあ」「綺麗ですね」
「「…えっ?」」
風の音と、中で歓談の声がかすかに聞こえるだけの静かなバルコニーで、彼女がため息交じりに言った言葉と、思わずあふれた僕の言葉が同時に響く。
彼女がまたこちらを見て、目が合って、ほんの少し妖艶にほほ笑んだ。
…今きっと僕、顔が真っ赤だ。
ドキドキするのが止まらない…どうしよう…。
「かぶっちゃいましたね」
「あはは…」
「こんなに燃えるように綺麗な夕日を見たのは久しぶりで、つい」
「あ…あ、ああ、そう、そうですよね!夕日、綺麗ですよね!」
びっくりした。夕日のことか…。
確かにとても綺麗だ。
「…僕、少尉のコビーと申します」
「コビーさん…お若いですね」
「17です」
「そうですか…」
「お名前をお伺いしても?」
「…ロシーと申します」
「ロシーさん…」
「殉職した海兵さんにお世話になりましたので、毎年お礼を言いに来ているんです」
彼女はそう言うけど…
なんだろう、違和感を感じる。
もしかして、と思って、訊いてみた。
「あの…先日のエトワール島の大火事の時に助けてくださった方ですよね…?」
つい1週間ほど前。
任務でエトワール島という小さな島に行ったのだが、そこの城を通して海賊に武器や麻薬を密輸していたファミリーを検挙する寸前で、密輸物の爆弾を城内で爆発させられてしまい、あっという間に燃え移って島全体が火事になった。
海軍が何人も駆り出され、消火活動、救助活動は1日中続いた。
犯人のマフィアを検挙することを優先した僕は火事場でボスと一騎打ちに。
とどめの一撃を撃って海楼石の手錠をはめるところまではなんとかなったが、煙を大量に吸ってしまい、逃げ遅れてしまった。
意識が朦朧とする中で見たのが、金髪の、背の高い男の人。
『正義』のコートを羽織った海兵だった。
そう。あの人は背の高い男の人だったから、小柄な彼女とは全然違うけれど、どことなく似ていた気がして、それがすごく気になっている。
「いいえ…人違いではありませんか?」
「でも…」
(この人が、コビー少尉…)
ふと、声が聞こえた。
あの時聞いたのと同じ声だ。
「私、エトワール島には行ったことがありませんから」
「………それは嘘ですね」
「あら、どうして?」
「だって、心の声があの人と同じだから」
あの火事場から僕を助けてくれた人の声。
きっと強くて逞しい人だと思っていたけれど、彼女と同じ、優しくて繊細で、ガラス細工のように透明な声が、ずっと残っていた。
「このバンダナをお返ししたくて、ずっとあなたを探していました…お会いできて嬉しいです、ロシーさん」
僕は上着のポケットに入れていた青い花柄のバンダナを彼女に差し出した。
「それはあなたに差し上げます」
「えっ」
「花柄なんて使いづらいかもしれませんが、よく止血できる素材なので、使ってください」
「そんな、いいんですか」
「ええ、だってあなた、額から血が出ていますから」
「えっ!?」
慌てて額に触れると、確かに手に血がついてしまったので、彼女の言う通り、額にバンダナを巻いてみた。
「すみません、お見苦しいものをお見せしました」
「いえ」
「ありがとうございます…大切に使いますね」
「コビー!こんなところにいたのか!」
バルコニーのドアが開いて、ぶわっと風が舞う。
「ヘルメッポさん」
「もうお開きだとよ!帰るぞ!」
「はい!…すみません、では僕は、これで…」
振り返ると、そこにはもうロシーさんはいなかった。
end.
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