幼少期
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それは秋も深まろうかという9月の終わり、彼は運命とも呼べる出逢いを果たした。
エレメンタリースクールにも入学し、叔父の友人たちにあれこれと10才に満たない子供が知るべきではない事を教わりつつ日々を過ごしていた。
始めに感じた違和感は町中ですれ違ったボルサリーノの男性だった。
「(いま、確かに硝煙の匂いが…コロンで上手く隠されてたけど…)」
徠焔は、思わずその男性の背中へと視線を向けた。
「(体運びからしてただ者ではないな…何者だろう?)」
徠焔は、件の男性が見えなくなるまでその背を見つめていた。
その短い邂逅が第一遭遇だとはこのとき思いもしなかった。
次の遭遇は思わぬところ“公園”であった。
「(ん?あれは…)」
目についたのは複数のアメリカ人に囲まれてたじたじになっている1人の男性。
口早に捲し立てられている言葉から察するに日本マニアな彼らの勢いに押されている様子だ。
「Well, I’ll give you a break」
(まぁまぁ、その辺で勘弁してあげて)
徠焔は、その様子に見かねて声をかける。
「What??」
(え??)
「Because Japanese people are shy, they will be in trouble」
(日本人はシャイだからそんな風に詰め寄られると困ってしまうよ)
徠焔の言葉に男性を囲んでいた人たちは一斉に罰の悪そうな表情となる。
「You didn't want to bother him too?」
(あなたたちも彼を困らせたかったわけではないでしょう?)
「Of course!!」
(も、勿論だよ!!)
「Can you please release him here?」
(では、ここらで彼を解放していただけませんか?)
「I'm sorry!」
(す、すまなかった!)
男性を囲んでいた面々はそれだけ言うと蜘蛛の子を散らすかのようにその場を去った。
「大丈夫ですか?彼らにも悪気があったわけではないので許してあげてください」
徠焔は、苦笑を浮かべながら呆然と立ち竦む男性へと声をかけた。
「忝ない。助かった」
男性は、徠焔の姿を見て漸く落ち着いたのか苦笑を浮かべながら例を述べた。
「いえいえ、困ったときはお互い様です」
徠焔は、そう言いながら失礼にならない程度に男性を観察する。
純日本人の顔立ち、近代では珍しく着物に袴姿、手には刀袋と思われる細長い袋を携えている。
「拙者、石川 五右ェ門と申す」
「あ、僕は東雲 徠焔と言います」
「東雲殿でござるな。拙者のことは五右ェ門とでも呼んでくだされ」
「五右ェ門さんですね。僕のことも徠焔で構いませんよ!」
互いに自己紹介を済ませた二人は、軽い世間話の末、五右ェ門が再び同じような目に合わないようにと徠焔が少しの間五右ェ門の案内をすることとなった。
「(この人、何者だろう?)」
徠焔は、街中を案内しながらも五右ェ門の一挙手、一投足に目を向け徐にそう思案する。
一時間ほど街中を案内した時、徠焔は口を開いた。
「五右ェ門さん、僕らつけられてます?」
徠焔の言葉に目を見開き驚きの表情を浮かべる五右ェ門。
「その反応を見るに僕の勘違いと言うわけでもないようですね」
「すまぬ。どうやら拙者の面倒事に巻き込んでしまったようだ」
五右ェ門は、至極申し訳なさそうに眦(まなじり)を下げて謝罪を述べる。
「いえ、五右ェ門さんのお客ですか?」
徠焔は、僅かに声を潜めて五右ェ門に確認する。
「恐らく」
「どうされます?お邪魔でしたらこの辺りで別れますか?」
「いや、別れてはかえって徠焔殿が危ないであろう」
「そんなに物騒な人たちなんですか?」
「重ね重ね申し訳ない」
「んー、ではどうしましょう?このまま街をぶらついても変わりありませんよね?」
「どこか身を隠すことができる場所はないでござろうか?」
五右ェ門の言葉に徠焔は、僅かに逡巡(しゅんじゅん)したのち決意の籠った眼差しを五右ェ門へと向けた。
「緊急事態ですから僕の秘密基地に案内しますよ」
「秘密基地、でござるか?」
五右ェ門は、首をかしげながら言葉を復唱した。
徠焔の顔には自信に満ちた笑みが浮かべられていた。
一先ず話はまとまったため二人は行動を開始する。
緩急をつけながら町中散策を装い尾行を撒くと一路、ある倉庫街へと足を向けた。
レンガ造りのその倉庫に徠焔は、いくつかのセキュリティを解除しながら入っていく。
その一歩後ろを驚愕の表情で続く五右ェ門は、自身の見ているものが信じられない思いであった。
街中で偶然出会った目の前の少年が追っ手の存在に気がつくことも予想外だったが、何よりこの倉庫を『秘密基地』と宣ったことからこの倉庫自体この少年のものということであろう。
はじめはただの倉庫だと思っていた。
少年の家が所有している廃倉庫か何かだと。
だが、表の一番簡単な南京錠の鍵をはずした後現れたセキュリティの数々。
電子錠、指紋認証、果てにはたった今、網膜認証までやってのけた。
この倉庫は倉庫のふりをした軍事基地かなにかだろうか。
「ここの存在を知る人は極僅かですから安心してください」
「貴殿は何者なのだ?」
「エレメンタリースクールに通う9才の子供ですよ。少々、お世話になっている叔父の教育が普通ではないだけで…」
徠焔は、五右ェ門の問いに対して苦笑を浮かべながらそう答えた。
徠焔の言葉に五右ェ門は怪訝そうに眉根をしかめた。
「叔父はよくこう言います。“ギフテッド”と」
五右ェ門の訝しげな顔に徠焔は苦笑を浮かべ倉庫の奥に歩みを進める。
そこには簡易的ではあるもののキッチンが備え付けられていた。
「よかったのでござるか?」
五右ェ門は、徠焔の言葉に幾ばくか逡巡し、今度は心配そうに眉根を下げた。
「ここにあなたを連れてきたことですか?それともギフテッドであることを明かしたことですか?」
「その両方でござる。これだけの機密性、よほどのことがあるのではござらんか?」
五右ェ門の真剣な眼差しに徠焔は、へにゃりと微笑みながら首を横に振る。
「ここは単なる“秘密基地”ですよ。叔父とその仲間が面白半分にセキュリティをバカ高くしたにすぎません」
徠焔は、呆れたようにそう言葉にするとケトルを片手にお湯を沸かし始める。
「しかし…」
「五右ェ門さんはコーヒーと紅茶、緑茶ならどれが良いです?」
五右ェ門の言葉を遮るかのように言葉を発する徠焔。
「…では、緑茶をいただこう」
五右ェ門は、徠焔の意を汲み取り静かにそう答えた後、部屋の中央に設置されているソファーへと歩みを進めた。
「はい」
徠焔は、五右ェ門の言葉に笑顔で頷くと戸棚のお菓子などを探すために動き出す。
「(ギフテッドとは…苦労しているな)」
五右ェ門は、そんな徠焔の背を見つめながらわずかに表情を曇らせる。
随分と賢い子供だとも思っていたし、早熟していると感じてはいた。
しかし、ギフテッドだというなら納得がいくと同時に不憫に思える。
ギフテッドとは、先天的天才児のことをいう。
それ故、周りと話が合わずに幼い時から疎外感や孤立感を感じさせる雰囲気がある。
しかし、彼にはそういった雰囲気は感じられない。
どちらかと言えば早熟から来る大人な対応ばかりが目立つ。
だからこそ、苦労や経験から普通を装うことに慣れているのではないかとさえ思えてくる。
こう言ったとき仲間である赤いスーツの男が脳裏を過る。
あの男ならばこんなとき気の効いた冗談の一つでも言って場を和ませ、さらに彼にとっていい選択肢でも与えてやれるのだろうが口下手な自分では土台無理な話である。
「そう、難しい顔をされないでください」
「!すまぬ…」
「さて、これからどうします?」
徠焔は、テーブルの上に緑茶の入った湯飲みを二つ置き、お茶請けとして煎餅を二人のちょうど中央に並べた。
「一時的に撒いたとしても根本的な解決にはならん…」
「そうでしょうね…それで済むなら街中で尾行に気づいたときに別れても問題なかったでしょうし…」
「…(一番の解決策…)」
五右ェ門は、自身の考えに僅かに眉根を寄せて目の前の少年へと視線を向けた。
一番の解決策、それはこの場所を拠点とし己とその仲間が問題の組織を叩くこと。
しかし、その間この少年の“保護”が必要である。
己が表の人間で正義側の者ならばそれをそのままに提案すればいい。
しかし、己は歴とした“犯罪者”であり、裏の人間である。
「(どうしたものか…)」
そんなことを考える傍らこの少年にあの男を会わせるべきなのではないかとさえ考えている自分がいる。
五右ェ門が、一人長考している間、徠焔も同じく考えを巡らせる。
「(恐らく、五右ェ門さんは警察を頼る事はないだろう…ならば、どうしたものか?…)」
徠焔は、五右ェ門がただ者ではないことに気づいている。
その上、恐らくは悪い人ではないが表の人間と言うわけでもないだろう。
時折見せる表情や視線が歴戦の猛者や前世一番死線を潜り抜けることが多かった友人と似ている。
つまり、この人もかなりの場数を経験しているということ。
「(さて、どう切り出したものか…)」
恐らく、尾行の相手は彼、もしくは彼らが事を構えている相手。
このまま、ここで別れればきっと自分は奴等に狙われ周りも危険になるだろう。
まぁ、易々とはやられはしないが余計な危険はできるだけ避けたい。
それにはこのまま片がつくまで自宅には帰らない方が懸命だろう。
「(叔父さんには秘密基地でやりたいことがあるとでも言えばなんとかなるけど、問題は…)」
徠焔は、難しい顔で長考する五右ェ門へと視線を向ける。
【ピリリリリッ!ピリリリリッ!!】
静かな沈黙を破ったのは無機質な呼び出し音。
音の発生源は五右ェ門のようだ。
「…すまぬが出ても構わないだろうか?」
「え、ええ。勿論です」
徠焔のその言葉に五右ェ門は、目礼で返すと着物の合わせ目から音の発信源であるケータイよりも小型な機械を耳元にあてた。
『五右ェ門ちゃーん!出るのがおそーい』
機械から発せられた声に五右ェ門の眉間に皺がよる。
「…何用だ」
五右ェ門は、ぐっと我慢した声で声の主に尋ねる。気心知れた知り合いなのだろう。
『つめてぇなぁ!?そーれより、今どこにいんだよぉ?こっちは敵さんとカーチェイスの真っ只中だっていうのによぉ?』
「…街中での尾行を撒いて一時避難しているところだ」
『ずっりぃなぁ!?』
「…」
話し相手は、仲間であろうが何やらどんどんと五右ェ門の表情が険しくなって行く。
そんな、五右ェ門の様子に徠焔は静かに口を開いた。
「…何かお困り事ですか?」
「…いや…」
『ん?誰かそこにいるのか?』
「…ハァ…貴様たちはどこにいるのだ?」
五右ェ門は、電話の相手と目の前の少年の問いに幾ばくかの思考を巡らせ、諦めの溜め息をついた。
「??」
徠焔は、不思議そうに小首を傾げながらもことの成り行きを見守る。
そうしている間にも電話の相手と二言三言言葉を交わし、真っ直ぐに徠焔へと視線を向けた五右ェ門。
「すまぬがここに仲間を呼んでもよいでござろうか?」
五右ェ門の真摯な対応に徠焔は、すぐに答えを返す。
「ええ、困ったときはお互い様です」
徠焔の言葉に五右ェ門は頷き、電話の相手に敵を撒いて倉庫街へ来るように伝えると電話を切った。
「話は纏まったんですね?」
「ああ、重ね重ね世話になる」
「いえいえ、これくらい構いません」
「…これからのことなのだが、仲間が来てから子細を説明させてもらっても構わぬだろうか?」
五右ェ門は、徠焔に対してひどく申し訳なさそうにそう話を切り出した。
「ええ、僕もこれと言っていい考えがあるわけではありませんし…“三人寄れば文殊の知恵”とも言いますから」
徠焔は、そう言ってお茶を飲みながらも優しく微笑んだ。
「忝ない」
五右ェ門は、徠焔の返答に深く頭を下げるのだった。
それから30分ほど経った頃、倉庫内に備え付けられたインターフォンが鳴った。
「予想より速かったですね?」
徠焔は、五右ェ門にそう語りかけながらソファから立ち上がるとインターフォンの前まで歩み寄る。
インターフォンには液晶がついており、そこには二人の男性の姿があった。
一人は黒いスーツにボルサリーノのアゴヒゲの男性。もう一人は赤いスーツに黄色いネクタイの男性だ。
「五右ェ門さん、お仲間の方たちで間違いないですか?」
徠焔は、五右ェ門を振り返りながら液晶を示す。
「ああ」
「では、セキュリティを解除しますね」
徠焔は、そう言ってインターフォンの下にあるキーパッドを操作した。
「お二人とも今、ロックを解除しましたのでそのまま入っていただいて大丈夫です」
徠焔は、最後にインターフォンに向かってそう話しかけるとキッチンへと踵を返す。
「お二人ともコーヒーでしょうか?」
「…重ね重ね手間をかける」
キッチンからの言葉に五右ェ門は、一拍遅れてなんとかそれだけを返した。
そんな会話から数分もしない内に部屋のドアが開けられた。
「おいおい、こりゃどうなってやがる?」
「随分とセキュリティの高い倉庫じゃない?五右ェ門ちゃんたら一体どーしちまった訳?」
部屋へと入ってくるなり問いかけられた五右ェ門は、二人の仲間に視線を向けつつ茶を啜った。
「ちと、街中で助けられてな」
五右ェ門は、それだけ言うとキッチンに立つ徠焔へと視線を向けた。
「はじめまして、東雲 徠焔と申します」
徠焔は、五右ェ門の視線に苦笑を浮かべながら二人の男性に向かって自己紹介をする。
「助けられた?」
「徠焔殿、この赤い男は、ルパン。隣の男は次元という」
「おい、勝手に…」
疑問符を浮かべるルパンに対して、五右ェ門が徠焔に二人を紹介する。
勝手に情報を明かしたことに対して次元から声が上がる。
「ここは徠焔殿が所有する倉庫でござる。名乗りぐらいは礼儀でござろう」
「はー、随分と心許してる感じじゃないの?ごめんな?少年、名乗るのが遅れちまった。俺様はルパン三世、隣のこいつが相棒の次元大介だ。うちの五右ェ門が世話になったな?」
ルパンは、五右ェ門の様子に改めて徠焔へと自己紹介をする。
「いえ、偶然です」
徠焔は、そう言ってマグカップに入ったコーヒーと共に改めて入れた緑茶を盆に乗せ、ソファまで歩み寄る。
「まずは座ってはどうだ?これからのことも話す必要がある」
五右ェ門は、そう言って自身の向かい側のソファを顎で示す。
「OK。まずは、そっちの話から聞こうじゃないの」
ルパンは、そう言ってソファへと深く腰かけた。
そんなルパンに倣ってか次元もその隣に浅く腰かける。
徠焔は、そんな二人に苦笑を浮かべながらもコーヒーをローテーブルへと並べた。
そして、少し離れたところの椅子に座るため踵を変えそうとしたとき五右ェ門から声がかかった。
何処に行くのかと。
仲間内での話もあるだろうからと言葉を濁す徠焔にルパンは苦笑した。
「気にしなさんな。君も座ってくれ、色々と意見も聞きたい」
ルパンは、今までの態度を改め徠焔に紳士に語りかけた。
「しかし…」
「こやつもこう言っている。遠慮はいらぬ」
五右ェ門は、そう言って自身の隣を示した。
「…わかりました」
徠焔は、二人の様子に苦笑を浮かべると五右ェ門の横に腰を下ろした。
そこからはお互いの経緯が話される。
五右ェ門と公園で会い、尾行に気づいてここに避難したこと。
同じく街中で急に襲撃され、街中をカーチェイスする羽目になったことなどが話される。
「なるほどそれで助けられたってわけか」
「…」
「?ルパンさん?」
五右ェ門の話に次元が相槌を打つ。
そんな隣で、ルパンは難しい顔のまま徠焔を見つめていた。
そんなルパンに徠焔は不思議そうに首をかしげた。
「いや、君なら五右衛門がただ者じゃないことや俺たちが普通じゃないことは今の会話からも分かったんじゃないか?」
「ルパン」
真剣に話し出したルパンを咎めるように話しかけたのは次元だった。
お互い真剣な表情で無言のやり取りが続けられる。
五右ェ門は、そんな二人の様子に口を挟む気はないのか徠焔の隣で茶を傾けていた。
「…わかっていました。そして、恐らくあなた方は、警察を頼ることはないでしょう」
「!お前…」
徠焔の言葉に驚いたように視線を向けた次元。
ルパンや五右ェ門は、徠焔の言葉に僅かに目を細めるだけであった。
「それだけわかっていて、ここに招き入れたってのか?」
ルパンの言葉に剣呑さを帯びる。
空気もどこか張り詰めている。
「ええ、困ったときはお互い様と言いますし…何より、あなた方は真の悪人と言うわけでは無さそうでしたから」
徠焔は、そんな空気も何のその淡々とそう告げるとお茶をすすった。
「「「…」」」
その場になんとも言えない沈黙が流れる。
「ぷっ…あーはっはっはっ!!」
沈黙を破ったのはルパンの盛大な笑い声。
「ふふふふ」
その笑い声に続いたのは五右ェ門の控え目な笑い声。
しかし、笑い声は徐々に大きくなっていく。
「こいつはとんだ大物だな!!」
最後にそう叫んだ次元さえも楽し気な笑い声を上げた。
「?何か可笑しなこと言いましたか?」
徠焔は、小首を傾げながらも不思議そうに楽し気な三人を見つめる。
「いや、この天下の大泥棒ルパン三世を捕まえて“真の悪人じゃない”と言われるとは…恐れ入ったぜ」
「こうやって対面し、言葉を交わして始めてわかることです。それに…」
「それに?」
「人を見る目には自信がありますから」
徠焔は、そう言って自信に満ちた笑みを浮かべながら胸を張った。
「ぬふふ…あーはっはっはっ!!」
「大した奴だ」
「流石でござるな」
その場に再び楽し気な笑い声が響いた。
始終楽し気な三人を見つめ徠焔は、困ったように僅かに眉尻を下げるのだった。
「気に入った!このおじさんにまっかせなさーい!!」
ルパンは、笑いが納まったのか徠焔を真剣に見つめそう声を上げた。
「ルパン?」
「ルパンさん?」
「確かに俺たちは警察を頼らない。だが、君の安全は保証する」
「!…ありがとうございます」
「気にしなさんなって!元々こっちが巻き込んじまったようだしな」
ルパンは、そう言ってからりと笑った。
「さーて、そうと決まれば作戦会議と行きましょうか!!」
ルパンのそんな明るい声と共に話は進む。
徠焔は、この時この数奇な出会いが今後の未来に大きく影響するとは思いもしなかった。
エレメンタリースクールにも入学し、叔父の友人たちにあれこれと10才に満たない子供が知るべきではない事を教わりつつ日々を過ごしていた。
始めに感じた違和感は町中ですれ違ったボルサリーノの男性だった。
「(いま、確かに硝煙の匂いが…コロンで上手く隠されてたけど…)」
徠焔は、思わずその男性の背中へと視線を向けた。
「(体運びからしてただ者ではないな…何者だろう?)」
徠焔は、件の男性が見えなくなるまでその背を見つめていた。
その短い邂逅が第一遭遇だとはこのとき思いもしなかった。
次の遭遇は思わぬところ“公園”であった。
「(ん?あれは…)」
目についたのは複数のアメリカ人に囲まれてたじたじになっている1人の男性。
口早に捲し立てられている言葉から察するに日本マニアな彼らの勢いに押されている様子だ。
「Well, I’ll give you a break」
(まぁまぁ、その辺で勘弁してあげて)
徠焔は、その様子に見かねて声をかける。
「What??」
(え??)
「Because Japanese people are shy, they will be in trouble」
(日本人はシャイだからそんな風に詰め寄られると困ってしまうよ)
徠焔の言葉に男性を囲んでいた人たちは一斉に罰の悪そうな表情となる。
「You didn't want to bother him too?」
(あなたたちも彼を困らせたかったわけではないでしょう?)
「Of course!!」
(も、勿論だよ!!)
「Can you please release him here?」
(では、ここらで彼を解放していただけませんか?)
「I'm sorry!」
(す、すまなかった!)
男性を囲んでいた面々はそれだけ言うと蜘蛛の子を散らすかのようにその場を去った。
「大丈夫ですか?彼らにも悪気があったわけではないので許してあげてください」
徠焔は、苦笑を浮かべながら呆然と立ち竦む男性へと声をかけた。
「忝ない。助かった」
男性は、徠焔の姿を見て漸く落ち着いたのか苦笑を浮かべながら例を述べた。
「いえいえ、困ったときはお互い様です」
徠焔は、そう言いながら失礼にならない程度に男性を観察する。
純日本人の顔立ち、近代では珍しく着物に袴姿、手には刀袋と思われる細長い袋を携えている。
「拙者、石川 五右ェ門と申す」
「あ、僕は東雲 徠焔と言います」
「東雲殿でござるな。拙者のことは五右ェ門とでも呼んでくだされ」
「五右ェ門さんですね。僕のことも徠焔で構いませんよ!」
互いに自己紹介を済ませた二人は、軽い世間話の末、五右ェ門が再び同じような目に合わないようにと徠焔が少しの間五右ェ門の案内をすることとなった。
「(この人、何者だろう?)」
徠焔は、街中を案内しながらも五右ェ門の一挙手、一投足に目を向け徐にそう思案する。
一時間ほど街中を案内した時、徠焔は口を開いた。
「五右ェ門さん、僕らつけられてます?」
徠焔の言葉に目を見開き驚きの表情を浮かべる五右ェ門。
「その反応を見るに僕の勘違いと言うわけでもないようですね」
「すまぬ。どうやら拙者の面倒事に巻き込んでしまったようだ」
五右ェ門は、至極申し訳なさそうに眦(まなじり)を下げて謝罪を述べる。
「いえ、五右ェ門さんのお客ですか?」
徠焔は、僅かに声を潜めて五右ェ門に確認する。
「恐らく」
「どうされます?お邪魔でしたらこの辺りで別れますか?」
「いや、別れてはかえって徠焔殿が危ないであろう」
「そんなに物騒な人たちなんですか?」
「重ね重ね申し訳ない」
「んー、ではどうしましょう?このまま街をぶらついても変わりありませんよね?」
「どこか身を隠すことができる場所はないでござろうか?」
五右ェ門の言葉に徠焔は、僅かに逡巡(しゅんじゅん)したのち決意の籠った眼差しを五右ェ門へと向けた。
「緊急事態ですから僕の秘密基地に案内しますよ」
「秘密基地、でござるか?」
五右ェ門は、首をかしげながら言葉を復唱した。
徠焔の顔には自信に満ちた笑みが浮かべられていた。
一先ず話はまとまったため二人は行動を開始する。
緩急をつけながら町中散策を装い尾行を撒くと一路、ある倉庫街へと足を向けた。
レンガ造りのその倉庫に徠焔は、いくつかのセキュリティを解除しながら入っていく。
その一歩後ろを驚愕の表情で続く五右ェ門は、自身の見ているものが信じられない思いであった。
街中で偶然出会った目の前の少年が追っ手の存在に気がつくことも予想外だったが、何よりこの倉庫を『秘密基地』と宣ったことからこの倉庫自体この少年のものということであろう。
はじめはただの倉庫だと思っていた。
少年の家が所有している廃倉庫か何かだと。
だが、表の一番簡単な南京錠の鍵をはずした後現れたセキュリティの数々。
電子錠、指紋認証、果てにはたった今、網膜認証までやってのけた。
この倉庫は倉庫のふりをした軍事基地かなにかだろうか。
「ここの存在を知る人は極僅かですから安心してください」
「貴殿は何者なのだ?」
「エレメンタリースクールに通う9才の子供ですよ。少々、お世話になっている叔父の教育が普通ではないだけで…」
徠焔は、五右ェ門の問いに対して苦笑を浮かべながらそう答えた。
徠焔の言葉に五右ェ門は怪訝そうに眉根をしかめた。
「叔父はよくこう言います。“ギフテッド”と」
五右ェ門の訝しげな顔に徠焔は苦笑を浮かべ倉庫の奥に歩みを進める。
そこには簡易的ではあるもののキッチンが備え付けられていた。
「よかったのでござるか?」
五右ェ門は、徠焔の言葉に幾ばくか逡巡し、今度は心配そうに眉根を下げた。
「ここにあなたを連れてきたことですか?それともギフテッドであることを明かしたことですか?」
「その両方でござる。これだけの機密性、よほどのことがあるのではござらんか?」
五右ェ門の真剣な眼差しに徠焔は、へにゃりと微笑みながら首を横に振る。
「ここは単なる“秘密基地”ですよ。叔父とその仲間が面白半分にセキュリティをバカ高くしたにすぎません」
徠焔は、呆れたようにそう言葉にするとケトルを片手にお湯を沸かし始める。
「しかし…」
「五右ェ門さんはコーヒーと紅茶、緑茶ならどれが良いです?」
五右ェ門の言葉を遮るかのように言葉を発する徠焔。
「…では、緑茶をいただこう」
五右ェ門は、徠焔の意を汲み取り静かにそう答えた後、部屋の中央に設置されているソファーへと歩みを進めた。
「はい」
徠焔は、五右ェ門の言葉に笑顔で頷くと戸棚のお菓子などを探すために動き出す。
「(ギフテッドとは…苦労しているな)」
五右ェ門は、そんな徠焔の背を見つめながらわずかに表情を曇らせる。
随分と賢い子供だとも思っていたし、早熟していると感じてはいた。
しかし、ギフテッドだというなら納得がいくと同時に不憫に思える。
ギフテッドとは、先天的天才児のことをいう。
それ故、周りと話が合わずに幼い時から疎外感や孤立感を感じさせる雰囲気がある。
しかし、彼にはそういった雰囲気は感じられない。
どちらかと言えば早熟から来る大人な対応ばかりが目立つ。
だからこそ、苦労や経験から普通を装うことに慣れているのではないかとさえ思えてくる。
こう言ったとき仲間である赤いスーツの男が脳裏を過る。
あの男ならばこんなとき気の効いた冗談の一つでも言って場を和ませ、さらに彼にとっていい選択肢でも与えてやれるのだろうが口下手な自分では土台無理な話である。
「そう、難しい顔をされないでください」
「!すまぬ…」
「さて、これからどうします?」
徠焔は、テーブルの上に緑茶の入った湯飲みを二つ置き、お茶請けとして煎餅を二人のちょうど中央に並べた。
「一時的に撒いたとしても根本的な解決にはならん…」
「そうでしょうね…それで済むなら街中で尾行に気づいたときに別れても問題なかったでしょうし…」
「…(一番の解決策…)」
五右ェ門は、自身の考えに僅かに眉根を寄せて目の前の少年へと視線を向けた。
一番の解決策、それはこの場所を拠点とし己とその仲間が問題の組織を叩くこと。
しかし、その間この少年の“保護”が必要である。
己が表の人間で正義側の者ならばそれをそのままに提案すればいい。
しかし、己は歴とした“犯罪者”であり、裏の人間である。
「(どうしたものか…)」
そんなことを考える傍らこの少年にあの男を会わせるべきなのではないかとさえ考えている自分がいる。
五右ェ門が、一人長考している間、徠焔も同じく考えを巡らせる。
「(恐らく、五右ェ門さんは警察を頼る事はないだろう…ならば、どうしたものか?…)」
徠焔は、五右ェ門がただ者ではないことに気づいている。
その上、恐らくは悪い人ではないが表の人間と言うわけでもないだろう。
時折見せる表情や視線が歴戦の猛者や前世一番死線を潜り抜けることが多かった友人と似ている。
つまり、この人もかなりの場数を経験しているということ。
「(さて、どう切り出したものか…)」
恐らく、尾行の相手は彼、もしくは彼らが事を構えている相手。
このまま、ここで別れればきっと自分は奴等に狙われ周りも危険になるだろう。
まぁ、易々とはやられはしないが余計な危険はできるだけ避けたい。
それにはこのまま片がつくまで自宅には帰らない方が懸命だろう。
「(叔父さんには秘密基地でやりたいことがあるとでも言えばなんとかなるけど、問題は…)」
徠焔は、難しい顔で長考する五右ェ門へと視線を向ける。
【ピリリリリッ!ピリリリリッ!!】
静かな沈黙を破ったのは無機質な呼び出し音。
音の発生源は五右ェ門のようだ。
「…すまぬが出ても構わないだろうか?」
「え、ええ。勿論です」
徠焔のその言葉に五右ェ門は、目礼で返すと着物の合わせ目から音の発信源であるケータイよりも小型な機械を耳元にあてた。
『五右ェ門ちゃーん!出るのがおそーい』
機械から発せられた声に五右ェ門の眉間に皺がよる。
「…何用だ」
五右ェ門は、ぐっと我慢した声で声の主に尋ねる。気心知れた知り合いなのだろう。
『つめてぇなぁ!?そーれより、今どこにいんだよぉ?こっちは敵さんとカーチェイスの真っ只中だっていうのによぉ?』
「…街中での尾行を撒いて一時避難しているところだ」
『ずっりぃなぁ!?』
「…」
話し相手は、仲間であろうが何やらどんどんと五右ェ門の表情が険しくなって行く。
そんな、五右ェ門の様子に徠焔は静かに口を開いた。
「…何かお困り事ですか?」
「…いや…」
『ん?誰かそこにいるのか?』
「…ハァ…貴様たちはどこにいるのだ?」
五右ェ門は、電話の相手と目の前の少年の問いに幾ばくかの思考を巡らせ、諦めの溜め息をついた。
「??」
徠焔は、不思議そうに小首を傾げながらもことの成り行きを見守る。
そうしている間にも電話の相手と二言三言言葉を交わし、真っ直ぐに徠焔へと視線を向けた五右ェ門。
「すまぬがここに仲間を呼んでもよいでござろうか?」
五右ェ門の真摯な対応に徠焔は、すぐに答えを返す。
「ええ、困ったときはお互い様です」
徠焔の言葉に五右ェ門は頷き、電話の相手に敵を撒いて倉庫街へ来るように伝えると電話を切った。
「話は纏まったんですね?」
「ああ、重ね重ね世話になる」
「いえいえ、これくらい構いません」
「…これからのことなのだが、仲間が来てから子細を説明させてもらっても構わぬだろうか?」
五右ェ門は、徠焔に対してひどく申し訳なさそうにそう話を切り出した。
「ええ、僕もこれと言っていい考えがあるわけではありませんし…“三人寄れば文殊の知恵”とも言いますから」
徠焔は、そう言ってお茶を飲みながらも優しく微笑んだ。
「忝ない」
五右ェ門は、徠焔の返答に深く頭を下げるのだった。
それから30分ほど経った頃、倉庫内に備え付けられたインターフォンが鳴った。
「予想より速かったですね?」
徠焔は、五右ェ門にそう語りかけながらソファから立ち上がるとインターフォンの前まで歩み寄る。
インターフォンには液晶がついており、そこには二人の男性の姿があった。
一人は黒いスーツにボルサリーノのアゴヒゲの男性。もう一人は赤いスーツに黄色いネクタイの男性だ。
「五右ェ門さん、お仲間の方たちで間違いないですか?」
徠焔は、五右ェ門を振り返りながら液晶を示す。
「ああ」
「では、セキュリティを解除しますね」
徠焔は、そう言ってインターフォンの下にあるキーパッドを操作した。
「お二人とも今、ロックを解除しましたのでそのまま入っていただいて大丈夫です」
徠焔は、最後にインターフォンに向かってそう話しかけるとキッチンへと踵を返す。
「お二人ともコーヒーでしょうか?」
「…重ね重ね手間をかける」
キッチンからの言葉に五右ェ門は、一拍遅れてなんとかそれだけを返した。
そんな会話から数分もしない内に部屋のドアが開けられた。
「おいおい、こりゃどうなってやがる?」
「随分とセキュリティの高い倉庫じゃない?五右ェ門ちゃんたら一体どーしちまった訳?」
部屋へと入ってくるなり問いかけられた五右ェ門は、二人の仲間に視線を向けつつ茶を啜った。
「ちと、街中で助けられてな」
五右ェ門は、それだけ言うとキッチンに立つ徠焔へと視線を向けた。
「はじめまして、東雲 徠焔と申します」
徠焔は、五右ェ門の視線に苦笑を浮かべながら二人の男性に向かって自己紹介をする。
「助けられた?」
「徠焔殿、この赤い男は、ルパン。隣の男は次元という」
「おい、勝手に…」
疑問符を浮かべるルパンに対して、五右ェ門が徠焔に二人を紹介する。
勝手に情報を明かしたことに対して次元から声が上がる。
「ここは徠焔殿が所有する倉庫でござる。名乗りぐらいは礼儀でござろう」
「はー、随分と心許してる感じじゃないの?ごめんな?少年、名乗るのが遅れちまった。俺様はルパン三世、隣のこいつが相棒の次元大介だ。うちの五右ェ門が世話になったな?」
ルパンは、五右ェ門の様子に改めて徠焔へと自己紹介をする。
「いえ、偶然です」
徠焔は、そう言ってマグカップに入ったコーヒーと共に改めて入れた緑茶を盆に乗せ、ソファまで歩み寄る。
「まずは座ってはどうだ?これからのことも話す必要がある」
五右ェ門は、そう言って自身の向かい側のソファを顎で示す。
「OK。まずは、そっちの話から聞こうじゃないの」
ルパンは、そう言ってソファへと深く腰かけた。
そんなルパンに倣ってか次元もその隣に浅く腰かける。
徠焔は、そんな二人に苦笑を浮かべながらもコーヒーをローテーブルへと並べた。
そして、少し離れたところの椅子に座るため踵を変えそうとしたとき五右ェ門から声がかかった。
何処に行くのかと。
仲間内での話もあるだろうからと言葉を濁す徠焔にルパンは苦笑した。
「気にしなさんな。君も座ってくれ、色々と意見も聞きたい」
ルパンは、今までの態度を改め徠焔に紳士に語りかけた。
「しかし…」
「こやつもこう言っている。遠慮はいらぬ」
五右ェ門は、そう言って自身の隣を示した。
「…わかりました」
徠焔は、二人の様子に苦笑を浮かべると五右ェ門の横に腰を下ろした。
そこからはお互いの経緯が話される。
五右ェ門と公園で会い、尾行に気づいてここに避難したこと。
同じく街中で急に襲撃され、街中をカーチェイスする羽目になったことなどが話される。
「なるほどそれで助けられたってわけか」
「…」
「?ルパンさん?」
五右ェ門の話に次元が相槌を打つ。
そんな隣で、ルパンは難しい顔のまま徠焔を見つめていた。
そんなルパンに徠焔は不思議そうに首をかしげた。
「いや、君なら五右衛門がただ者じゃないことや俺たちが普通じゃないことは今の会話からも分かったんじゃないか?」
「ルパン」
真剣に話し出したルパンを咎めるように話しかけたのは次元だった。
お互い真剣な表情で無言のやり取りが続けられる。
五右ェ門は、そんな二人の様子に口を挟む気はないのか徠焔の隣で茶を傾けていた。
「…わかっていました。そして、恐らくあなた方は、警察を頼ることはないでしょう」
「!お前…」
徠焔の言葉に驚いたように視線を向けた次元。
ルパンや五右ェ門は、徠焔の言葉に僅かに目を細めるだけであった。
「それだけわかっていて、ここに招き入れたってのか?」
ルパンの言葉に剣呑さを帯びる。
空気もどこか張り詰めている。
「ええ、困ったときはお互い様と言いますし…何より、あなた方は真の悪人と言うわけでは無さそうでしたから」
徠焔は、そんな空気も何のその淡々とそう告げるとお茶をすすった。
「「「…」」」
その場になんとも言えない沈黙が流れる。
「ぷっ…あーはっはっはっ!!」
沈黙を破ったのはルパンの盛大な笑い声。
「ふふふふ」
その笑い声に続いたのは五右ェ門の控え目な笑い声。
しかし、笑い声は徐々に大きくなっていく。
「こいつはとんだ大物だな!!」
最後にそう叫んだ次元さえも楽し気な笑い声を上げた。
「?何か可笑しなこと言いましたか?」
徠焔は、小首を傾げながらも不思議そうに楽し気な三人を見つめる。
「いや、この天下の大泥棒ルパン三世を捕まえて“真の悪人じゃない”と言われるとは…恐れ入ったぜ」
「こうやって対面し、言葉を交わして始めてわかることです。それに…」
「それに?」
「人を見る目には自信がありますから」
徠焔は、そう言って自信に満ちた笑みを浮かべながら胸を張った。
「ぬふふ…あーはっはっはっ!!」
「大した奴だ」
「流石でござるな」
その場に再び楽し気な笑い声が響いた。
始終楽し気な三人を見つめ徠焔は、困ったように僅かに眉尻を下げるのだった。
「気に入った!このおじさんにまっかせなさーい!!」
ルパンは、笑いが納まったのか徠焔を真剣に見つめそう声を上げた。
「ルパン?」
「ルパンさん?」
「確かに俺たちは警察を頼らない。だが、君の安全は保証する」
「!…ありがとうございます」
「気にしなさんなって!元々こっちが巻き込んじまったようだしな」
ルパンは、そう言ってからりと笑った。
「さーて、そうと決まれば作戦会議と行きましょうか!!」
ルパンのそんな明るい声と共に話は進む。
徠焔は、この時この数奇な出会いが今後の未来に大きく影響するとは思いもしなかった。
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