彼は、この三度目の人生の意味を考える。
一度目は、平凡な一警察官。
二度目は、自身の信念の元、悔いのない人生を生きたと自負している。


しかし、予期せず始まってしまった三度目の人生。
しかも、二度目の人生をなぞるかのように日々が過ぎていく。
この繰り返しの日々に彼は必死に考えた。


“前の人生で何がいけなかった”のか。


「ああ、そうか…」


彼は、散々答えの見つからない思考に無理矢理にも答えを出した。


「“完璧ではなかった”からだ…」


彼は、その無理矢理に出した答えに一人スッキリしたように言葉を発した。
二度目の人生で助けることの出来た人々は確かにいたが、“命は助けられた”程度だった。
夢を諦めた者がいた。信念を曲げざる得ないものがいた。


そして、確かに“間に合わなかった命”もあった。
そう、確かに完璧に救うことができたわけではなかった。


「“最高のハッピーエンド”をお望みとは…」


彼は、盛大なため息と共にポツリと呟く。


「それを叶えるには“同じ道”では足りないね」


彼は、決意した真の終わりを迎えるために。
訳もわからず二度目の生はがむしゃらに出来ることをひたすらに頑張った。


しかし、それでは足りなかった。ならば、自身の持てるすべてで救える限りのものを救う。
そのためには大切なものとの決別も辞さない覚悟だ。
東都某所の一画にそれは見事な桜の樹が存在する。
御神木としても奉られているこの樹は彼の二度目の人生での思い出の場所である。


「例え路(みち)が違おうとも…心は君たちと共に…今生では志を一つにすることもできないが…どうか健やかに…」


寂しげな表情の幼子が巨大な桜を見上げながら言葉を紡ぐ。
まだ、たった五つの子供は壮絶な未來へと覚悟を決めた。


二度目の人生をその傍らで見守り、共に切磋琢磨し友情を育んだかけがえのない友人たち。
三度目の人生では、彼らの陰らない笑顔のために彼は彼らとの決別を決意した。





ーーーーー………





『あー、そうじゃなぃー。そうじゃないんだよー』


この世界に存在しないとある場所でとある人物はもの悲しげに言葉を漏らした。
はじめの人生で彼は大きな功績を残し、そしてそれに報いることもできずに死なせてしまった。


二度目の人生は、そんな彼に報いるためのサプライズだったはずにもかかわらず再び彼は報われずにその功績だけを遺してしまった。


三度目の人生は、今度こそ報われて、幸せになってほしいとの思いからだったというのに彼は全く正反対の決意をしてしまった。


『こうなったら予定変更、“彼ら”にも覚えてて貰おう…』


その人物は、すいっと空を一閃し優しく微笑んだ。


『彼の幸せは彼らと共にあること…』


その人物は、世界に新たな一石を投じる。
ただ単に彼の幸せを願って。


『ついでに誰からも愛される“加護”を…“僕”から。この世界はすでに君だけのためにある。今度こそ天寿以外で死ぬことは許さないよ？』


その人物は、意味深に笑みを深め満足したかのように何度も頷く。


世界は、その創造主の手により本来の姿から大きく変えられ作り直される。
それはたった一人の功労者を幸せにするための一手として。