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序章

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「ん~…嫌な気配がしますね…まるであの人のような…“闇の気配”が…」


ライフォードは、少し小高い丘の上から街を見渡して小さくそう呟いた。
その表情は、どこか憂いを帯びていて悲しげである。



ーー数日前。

その日は、新月で空には星だけがどこか頼りなげに輝いていた。

【コンコンコン…】

深夜になろうとしているというのに訪問者を知らせるノック音が玄関ホールに響き渡った。


「おや…こんな時間に誰でしょうか…」


ライフォードは、偶然にもホールの片隅にある資料室から出てきたところで首を傾げながら扉へと歩み寄る。


ライさま。私が…」


そんなライフォードを案ずるかのように後ろ方から声が掛けられる。
それは、執事のアルバートのものだった。


「アルバートはもう休んでください。もう夜も遅いことですしね…」


ライフォードは、クルリと後ろを振り返って柔らかく微笑みながらそう言って玄関まで出て来ようとしていたアルバートをその場に止まらせる。


「ですが…」

「大丈夫ですから、そんなに心配しないでください」


なおも言い募ろうとするアルバートにライフォードはニコリと笑って言葉を遮る。


「…かしこまりました。もし何か御用がありましたら何なりとお呼びください…」


アルバートは、ライフォードの言葉に少し心配そうな表情を浮かべてからそう言うと一礼して奥へと引っ込んだ。

【コンコンコン…】

ライフォードは、そんなアルバートの背を見送ってから扉に向き直る。
先ほどから頭の片隅で心地悪い警報音が鳴り響いているのだ。
このドアの向こうに何か計り知れぬものが居る。


そう本能が告げているかのようだ。


「今、出ます…」


ライフォードは、一度呼吸を整えてからそう言ってドアを開けた。


「こんばんハ♪」


扉の向こうに広がる闇の中。
その人は、ひっそりと立っていた。
少しずんぐりとした体躯に南瓜の傘。
そして、頭の上に載るシルクハット帽。


しかし、その人物から感じる言いようのない気配は人の持つそれとは逸脱したものだった。


「こんばんは…」


ライフォードは、真っ直ぐにその人物を見つめてそう返した。


「少しお伺いしたいことがあって伺いましタ」

「…あの、どちら様ですか?」


ライフォードは、相手の言葉に困ったように苦笑を浮かべてそう尋ねた。


「これは失礼しましタ。我輩は千年伯爵。あなたはご当主ですカ?」


「はい。この領地の領主をしています。ライフォードロランスです」


「そうですカ♪ずいぶんとお若いんですネェ~」


千年伯爵は、ライフォードの言葉に嬉しそうにそう答えた。


「…(この人…嫌な気配がする…)」


ライフォードは、真っ直ぐ千年伯爵を見つめて視線を逸らすことはない。

その場を僅かに沈黙が包み込む。


「…実は、少しお伺いしたいことがあるんでス」


「…なんでしょうか?」


「“鍵”をご存知ありませんカ?」


千年伯爵は、そう言って眼鏡を光らせる。
眼鏡の奥の瞳が冷たくライフォードを見つめる。

しかし、幼いと言っても一領地の長であるライフォードは、その眼差しを真っ向から受け止めて見つめ返していた。


「…“鍵”ですか?」


「はい、“封じられし世界の鍵”でス♪ご存知ありませんカ?」


「…申し訳ありませんが、ボクは存じ上げません…」


「…本当ですカ?」


「はい…」


ライフォードは、真っ直ぐ千年伯爵をまっすぐ見つめてそう言った。


「そうですか…それは残念でス…」


千年伯爵は、本当に残念そうに顔を曇らせる。


「お力になれなくてすみません」


ライフォードも申し訳なさそうに苦笑を漏らしながらそう謝罪を述べる。


「いいえ。ご存知でないのなら仕方ありませン」


「…お探しの物が早く見つかるといいですね?」


ライフォードは、にこりと優しく微笑んでそう言った。
勿論、千年伯爵への警戒を解いたわけではない。


「ありがとうございまス。ライさんは優しいですネ♪」



ライフォードの言葉に千年伯爵は心底嬉しげにそう言葉を紡いだ。


「いえ…」


「では、お邪魔しましタ♪」


千年伯爵は、そう言って丁寧に一礼するとクルリと踵を返すと町の闇へと消えて行った。


その場に残ったのは、闇を見つめるライフォードと町の静寂、それから微かな闇の気配のみだった。


ーーーー
ーー



「あれから…ですね…この町に闇の気配が根付きだしたのは…まったく…あの人は何を仕出かしてくれたんでしょうか…」


ライフォードは、軽い口調とは裏腹に硬い表情で町を見続けた。


「とても嫌な予感がします…」


ライフォードの小さな呟きは、風によって浚われて行き誰かの耳に入ることはなかった。


ーー翌日。


【ドカーン!!】

町の中に爆音がけたたましく響き渡った。
偶然、町にまで来ていたライフォードにもその爆音は届いていた。


「キャー!化け物よ!!」


「早く逃げるんだ!みんな急げ!!!」


その声と共に町の住民たちが一斉に走り出す。
ライフォードは、その波に逆らい爆音の方へと走り出す。


《いや…たく…ない…》


騒ぎの中心へと向かうライフォードの耳に町の人々の声とは違う何かの声が届いた。


「!…泣いているんですか…?」


ライフォードは、その声に導かれるかのように無我夢中で足を前に進めた。


《助けて…》


「!…急がないと…」


ライフォードは、訳もわからない衝動に懸命に足を進めた。


ライ様!そちらは危険です!!!」


「戻ってください!!ライフォード様!!!!」


町の人々がライフォードを呼び止める声が響き渡っている。
しかし、そんな声も聞こえないかのようにライフォードは足を動かし続けた。


「皆さんは急いで避難してください!!!」


ライフォードは、立ち止まることも振り返ることもなくそう声を張り上げるとそのまま走り去った。


「…」


そんなライフォードの姿を一人の男が見ていたことをこのときライフォードは知らなかった。


「いやー!!!」


爆発の中心では球体の化け物にキャノンを向けられている女性。
その周りには夥しい数の血痕とまるで抜け殻のような服。

そして、灰が錯乱していた。


「そこまでです!!!」


その場にライフォードの声が高らかに響き渡った。


「!ライ様!!」


女性は、ライフォードの声に目を見開きそして涙を流した。


「早く逃げてください!ここはボクが何とかします!!!」


ライフォードは、目の前の球体の化け物から視線を外さずにそう静かに言い放った。


「そんな!ライ様!!」


「早く!!!」


ライフォードの身を案じ、逃げることを渋る女性にライフォードは強く声を張り上げた。


「!…わ、かり…ました…」


女性は、ライフォードの声にびくりと肩を揺らし、また新たな涙を一つ溢すとその場から駆け出した。


ライフォードは、女性の言葉と遠ざかっていく足音に僅かに安堵の溜息を溢し、再び気を引き締める。


《こ、ろして…私を…》


ライフォードは、耳に届く声ならざる声に目を剣呑に細める。


「この…悲しい声は…あなたの物だったんですね…」


ライフォードは、目の前の球体の化け物に向かって静かにそう言葉を紡いだ。


《私を…こ、ろして…救って…》


「…殺ス…」


球体の化け物から禍々しい言葉が発せられる。
その言葉にライフォードは、より悲しげに表情を歪めた。


「(なんて悲しい生き物なんだろうか…)」


ライフォードは、目の前の敵に真っ直ぐ視線を向けたままそう思わずに入られなかった。

そして、一度大きく深呼吸をすると意を決したようにナイフを構えた。


「死ネ…死ネエエェェェェ!!!」


球体の化け物は声高らかにそう叫び、ライフォード目掛けて発砲した。


【ドドドドドド!!!】


「フッ!!」


ライフォードは、己が身体能力をフルに使いすべての弾丸をかわす。

そして、地面に着地すると同時にナイフを化け物目掛けて投げつけた。

【キキン!】

しかし、ライフォードの放ったナイフは化け物の硬いボディに弾かれて地に落ちる。


「ハァ…ハァッ…随分と硬い体をお持ちなんですね…(さて、どうするか…)」


ライフォードは、僅かに表情を歪めて苦笑を浮かべた。


「殺サセロー!!!」


高らかな叫び声と共に化け物がライフォードに襲い掛かる。


「!…クッ!!」


ライフォードは、これから自身を襲うであろう衝撃にとっさに身構える。


「そこから動くなよ?」


その場に第三者の声が凛と響いた。


「え!?」


ライフォードの驚いたような声と銃声が重なった。
次の瞬間、ライフォードの目の前にいた化け物は一瞬で爆発し消えた。


《あり…がと…》


最後に聞こえた小さな声は安らかな感謝の言葉。

酷く美しい心からの喜びの言葉だった。


「…(なんて綺麗な言葉だろう…)」


ライフォードは、その言葉にしばし耳を傾け聞きほれていた。


「…無事か?」


そんなライフォードに背後から声がかけられる。


「!あ…はい。助けていただきありがとうございました…」


ライフォードは、勢いよく後ろを振り返り深く頭を下げた。


「…いや…」


一瞬だけ目の前の男の動きが止まった。


「?…あの…」


「お前の名は?」


ライフォードの言葉を遮り、男が問いかけてくる。


「え?…ボクは、ライフォードロランスといいます。このあたり一帯の領地を治める領主を勤めさせていただいています」


ライフォードは、いきなりの問いかけに驚いたように一瞬目を見開いたが、すぐに笑顔で自己紹介した。


「何だと…?」


男は、ライフォードの言葉に一瞬だけ目を見開き何かを考え込みだした。


「…あの…」


「ん?」


「あなたは?」


「ああ、俺は、クロス・マリアン…神父だ」


男性は、今気づいたかのように頭を掻きながらそう言った。


「神父様でしたか…」


「さっきの話だが…お前がここの領主というのは本当か?」


「はい。ボクがロランス家の現当主です…先代は二年前に亡くなりました」


「!…そうか…」


「神父様…」


「クロスだ…」


「クロス…さま??」


「さまはいらん…クロスだ」


「…しかし…」


「俺に聞きたいことがあるんだろう?」


「…(この人は…人の話を聞く気ないよね…)はい。先ほどの球体の物は一体何なんですか?」


「あれはAKUMAだ」


「アクマですか??」


「ああ、あれは人の悲しみを糧として作られる。千年伯爵のオモチャだ」


「!…千年伯爵ですか?」


「どうした?」


「いえ…」


ライフォードは、クロスの問いかけに苦笑して返した。


ライ様!!」


その場に一つの声が響き渡った。


「!え?…」


ライフォードは、その声に驚いたように振り替える。


ライ様~!!」


先ほどの声とはまた別の声が響く。
それとともに複数の足音がライフォードたちの元へと近づいてくる。

その足音の正体は先ほどライフォードが避難させた町の住民たちだった。


「み、皆さん!!」


ライフォードは、町の住民たちの姿に驚き声を上げる。


ライ様!!ご無事ですか!?」


「よかった!ライ様は無事だぞ!!」


「本当によかった…」


町の人々は、口々にライフォードの無事を喜び涙している。


「皆さん…どうして…」


ライフォードは、鍬や鎌などの農具を武器に携えた町の人々に視線を巡らせてそう言って呆然と呟く。


「どうしてって…ライ様お一人を戦わせたりできませんよ!!!」


ライ様!!」


人の波を掻き分けて一人の女性がライフォードに飛びつく。


「!あなたは…」


ライフォードは、その女性が誰か分かると驚いたようにそう呟いた。


その女性は、ライフォードが体を張って逃がした先ほどの彼女だったのだ。


「さっきはありがとうございました」


女性は、ライフォードの体に縋りつき涙を流しながら礼を述べる。


「ご無事で何よりです」


ライフォードは、優しく微笑みながらそう言って女性の髪をなでる。


ライ様も…」


「はい。こちらの方に助けていただきました…」


ライフォードは、そう言って女性から離れると一人だけ人の輪から外れていたクロスに歩み寄る。


「…」


クロスは、予想しなかったことに思わず固まる。


「…」


「…」


思わず互いに静止して見詰め合うクロスと町の人々。
その場になんとも言えない居心地の悪い時間が流れる。


「皆さん??」


ライフォードは、不思議そうにそう声を上げて首を傾げる。


「旅の人!」


それまでじっとクロスを見つめていた町の人の一人が声を上げた。


「な、何だ…?」


ライ様を助けてくれてありがとな!!」


「…」


いきなりのお礼にクロスは呆然と町人たちを見詰める。


「ありがとな!!旅の人!!」


一人の言葉を皮切りに次々とクロスに激励の言葉を掛ける。
よほどライフォードの無事が嬉しかったようだ。




ーーその日の夜。



ライフォードは、クロスを自分の屋敷に招いた。


「今日は、本当にありがとうございました…」


ライフォードは、改めてクロスに礼を述べる。


「俺は自分の仕事をしただけだ…」


クロスは、ワイングラスを傾けながらそう言葉を放つ。


「それでも助けていただいたことは事実ですから……今日はゆっくり休んでください」


ライフォードは、柔らかく微笑み一礼する。


「…そうさせてもらう」


クロスは、そんなライフォードを見つめ静かにそう答える。
そして、ワインのボトルを手に持つとライフォードの部屋を後にしようと扉の前まで進む。

しかし、扉に手を掛けたところでクロスはその動きを静止させた。


「?…どうかしましたか??」


ライフォードは、いきなり固まったクロスに不思議そうにそう声を掛ける。


「お前は休まないのか?」


クロスは、徐にライフォードの方に振り返りそう問いかける。


「!…僕にはもう少し仕事が残っていますので」


ライフォードは、その問いかけに一瞬驚いたように目を見開いたが次の瞬間には柔らかな微笑を浮かべてそう言った。


「…ガキが頑張り過ぎるなよ?」


クロスは、しばらくライフォードの顔を見つめた後それだけ呟いた。


「ありがとうございます」


ライフォードは、本当に嬉しげに微笑んでそう答えた。
そのライフォードの言葉を背にしながらクロスは部屋を後にした。


「……さて…」


ライフォードは、クロスの足音が聞こえなくなると真剣な表情でそう呟き、コートを片手に部屋を出る。


ライ様…」


玄関ホールまで行くとそこには心配顔のアルバートの姿があった。


「…アルバート…お客様のお相手を頼みますね…」


ライフォードは、コートに袖を通して厳粛な口調でそう言った。


「…かしこまりました…どうぞ、お気をつけて…」


アルバートは、玄関をくぐるライフォードの背を見つめ悲しげな表情を浮かべると深く一礼した。


「行ってきます」


ライフォードは、そんなアルバートに振り返り、柔らかな微笑みを向けるとそのまま夜の闇に消えていった。


「…どうぞ…ご無事で…」


アルバートは、一人静まり返る玄関ホールで主人の無事を祈りそう呟いた。





ーー町の郊外に位置する丘。


「(昼間よりも闇の気配が強まっている…近い)」


ライフォードは、丘の上から寝静まる静かな町を見つめて心の中でそう呟いた。


「こうなったら仕方ありませんね」


ライフォードは、険しい顔でそう呟くと勢い良く踵を返した。
向かう先は町の中央広場。
ライフォードは、広場の中央に立ち手をかざす。


「“我が血と共に在りし力よ。今、その力を持ってこの地に侵入せんとする闇の者に鉄槌を与えん”…『シールド!!』」


ライフォードの言葉と共に町全体を一瞬だけ淡い光が包み込んだ。


「…これで一先ず安心ですね…次は…“結界の中に根付きし闇のものに永久の苦しみを…”」


ライフォードが、そう言葉を紡ぐとそれに答えるように町全体が一瞬だけ光を放つ。


「…(声が聞こえる…)」


ライフォードは、その光を確認するとゆっくりと瞳を閉じた。


《助けて…苦しい…》


声にならない悲痛な叫びが確かにライフォードの耳に届く。


「…動き出しましたね…“右手に誓いを…左手に覚悟を…”(もう迷いはない…)」


ライフォードは、一度深く深呼吸をすると勢い良く駆け出した。

向かう先は、町のはずれにある高原。


「…」


ライフォードは、目の前に浮かぶ5体のAKUMAを静かに目詰める。


「殺サセテ…」


「死…ネ」


《助けて…苦しい…》


「…5体…これでこの町にいるAKUMAはすべてですね」


ライフォードは、5体のAKUMAを前にどこか悲しげにそう呟いた。
5体のAKUMAは昼間見たものと同じ、つまりはLv.1。


「殺ス…」


《助けて…》



直接耳に届く声とは別に悲しみに染まる悲痛な叫び声がライフォードの耳には届く。


「…本当に悲しい声ですね…『グレイヴ』」


ライフォードは、静かにそう呟くとAKUMAたちに向かって手を差し出しその手を勢い良く握りこんだ。
それと同時にAKUMAたちは見えない力に潰されるかのように爆発した。


「…」


ライフォードは、静かに機械の残骸を見つめて悲しげな表情を浮かべる。


【カサッ…】


ライフォードの背後から微かな物音が聞こえる。

しかし、ライフォードは振り返ることもなくごみとなったAKUMAたちを見つめ続ける。


「こんばんワ♪」


ライフォードの背後に千年伯爵が立ち、そう声を掛ける。


「…こんばんわ…千年伯爵…探し物は見つかりましたか??」


ライフォードは、ゆっくりと千年伯爵に向かい合う。


「いいえ、まだ見つかりませン」


千年伯爵は、どこか残念そうにそう答えて首を俯かせる。


「…そうですか…」


ライフォードは、そう言ってどこか憂い気に伯爵を見つめる。


「…」


「…」


その場に静かな沈黙が落ちる。


「…我輩のことを恨みますカ?」


徐に千年伯爵が、ライフォードに問いかける。


「…どうして恨むんですか?」


「我輩はAKUMAの製造者。AKUMAは殺人兵器…」


「…しかし、それを真に生み出しているのは人の心です」


ライフォードは、千年伯爵の言葉を遮り、ひどく悲しげにそう言葉を紡いだ。


「!…そう、思いますカ?」


千年伯爵は、一瞬だけ驚いたように目を見開きどこか優しげな声でそう尋ねる。


「…人の心は弱い、ほんの些細なことで簡単に砕けてしまうほど…」


ライフォードは、右手で左胸を押さえて悲しげにそう言葉を紡ぐ。
その瞳には確かに深い悲しみが見て取れた。


「…」


千年伯爵は、静かにライフォードを見つめながらその言葉を聴く。


「…あなたは、その弱さを見つけて囁いているだけでしょう?新たな玩具のために…違いますか?」


ライフォードは、千年伯爵を真っ直ぐ見つめてそう問いかける。


「それもそうですネ…ライさんは本当に面白イVv」


千年伯爵は、ライフォードの言葉に上機嫌な声でそう言った。


「…」


ライさん…我輩の家族になりませんカ?」


「え?」


「我輩の家族になりませんカ?」


千年伯爵は、そう言ってライフォードの前に自らの手を差し出した。


「…残念ですか、お断りさせていただきます」


ライフォードは、千年伯爵の手をしばし見つめ、僅かに視線を巡らせ逡巡した後、再びその視線を千年伯爵に向けるときっぱりとそう言い放った。


「それは残念でスvV」


千年伯爵は、言葉とは裏腹にどこか楽しげにそう呟いた。


「…千年伯爵」


ライフォードは、そんな千年伯爵を見つめて剣呑に瞳を細めると静かに口を開く。


「何ですカ?」


「僕は確かにあなたを憎んでも恨んでもいません…しかし…」


ライフォードは、一度視線を俯かせて言葉を切った後、鋭い視線を千年伯爵に向けた。


「あなたをこのままにしておいていいとも思っていないんです」


ライフォードは、その言葉とともに千年伯爵に向かって鋭い殺気を放つ。

それを感じ取ったのか千年伯爵の周りには千年伯爵を庇うように複数のAKUMAが出現した。


「…怒っていますカ?」


千年伯爵は、ライフォードから向けられた殺気にどこか悲しげにそう声を発した。


「はい…この町にAKUMAを放ったことは許せませんから…」


ライフォードは、そう言ってAKUMAを破壊するためにゆっくりと身構える。


そんなライフォードを千年伯爵は、何もせずにただじっと見つめている。


「…“ブロウ”」


ライフォードは、そう呟いて何かを払うかのように手を一閃させた。
すると、まるで見えない刃に切り裂かれるかのようにしてAKUMAたちが一瞬にして破壊される。


「その力は…イノセンスという訳ではなさそうですネ…」


千年伯爵の言葉にライフォードは、何も答えることはない。


「…イノセンスと同じような力を有しているのですカ…」


「お引取り願います…」


ライフォードは、力強い口調でそう言って千年伯爵を見据える。




「…仕方ありませんネ…ライさんにこれ以上嫌われたくは有りませんかラ」


千年伯爵は、そう言ってどこか寂しげに溜息をつく。


「…次に会ったその時は、その命、僕が頂きます…」


ライフォードは、くるりと踵を返した千年伯爵の背中に向かってそう言葉を投げかけた。


「…それは楽しみでスvV」


千年伯爵は、楽しげにそう言って笑うと闇の中へと消えて行った。


「…ハァ…力を使いすぎたみたいですね…何とか屋敷に帰らないと…」



ライフォードは、あまり使うことの無い力の連用で疲れきった体を何とか引きずりながら屋敷に向かって歩みを進める。

しかし、それも数mほど歩いた辺りで力尽きそのまま意識を手放したのだった。

意識を失うその瞬間、誰かに体を抱き止められたような気がした。


ーーー
ーー


ーー翌日。


ライフォードは、自分のベッドで目を覚ました。


「!!…ここは…僕はどうして…」


ライフォードは、ぼんやりと部屋を見渡して呆然と呟いた。


「目が覚めたか??」


呆然と部屋の中を見渡し昨夜の出来事を思い返していたライフォードにそう声が掛けられる。


「!神父様…」


ライフォードは、部屋の一角にいたクロスに視線を向けて驚いたようにそう声を上げた。


「クロスだ」


クロスは、神父と呼ばれたことが嫌だったのか間髪入れずにそう訂正した。
ライフォードは、そんなクロスを呆然と見つめる。

頭の中に巡るのは自分をここまで運んだのがクロスかもしれないと言う確信と不安であった。


「あの…」


「…昨夜は大変だったようだな」


ライフォードの言葉を遮るように口を開いたクロスは淡々とそう告げた。


「!!」


急に告げられた内容に目を見開き動揺を隠せないライフォード
やはり、昨日の出来事をこの人物に見られてしまっていたようだ。


「その力…」


「…この力は神からの贈り物だそうです」


クロスの言葉にライフォードは観念したようにそう返した。
ライフォードの返答にクロスの表情が訝しげに歪められる。


「神から?」


「父がよく言っていました…この力は人を護るための力だと。けれど、決して他人に知られてはいけないとも言っていました」


ライフォードは、クロスを真っ直ぐに見つめて至極淡々と言葉を続ける。
その脳裏には今は亡き、先代当主である父が思い起こされていた。


「その訳は聞いたか?」


「いいえ…」


ライフォードの言葉を聞き、クロスは考え込んだ様子で視線を俯かせる。
部屋の中に静かな静寂が流れる。


「…おい」


「!はいッ」


クロスの問い掛けに緊張した面持ちでライフォードが返事を返す。


「…エクソシストになれ」


厳かに告げられた内容は悲劇の生産物であり、また悲劇の元凶でもあるAKUMAを破壊するエクソシストになれと言うものであった。


―――
――



──とある屋敷。

「~♪」


シックな装いの廊下を照らすのは蝋燭の明かりと僅かなシャンデリアの微光。
上機嫌に鼻歌を歌いながら廊下を進む千年伯爵の姿がそこにはあった。


「千年公ぉ~」


そんな千年公に声をかける人影が一つ。


「おや、ロード。どうかしましたカ?」


「別にィー…ただ、千年公が凄く楽しそうだったからさぁ~…何かいいことでもあったのかなぁって」


間延びした声でケタケタと笑い声を溢すロードはニヤリと不敵な笑みを口元に浮かべている。


「ハイvVとても綺麗で美しく…そして、とても強い子に会いましタvV」


千年伯爵は、それは愉しげに上機嫌な声をあげる。
その言葉にロードの顔が訝しげにしかめられた。


「?何それぇ??」


「ムフッ♪」


ロードの言葉に何かを答えるわけでもなく千年伯爵はただただ上機嫌な笑みを浮かべている。


「千年公がそんな風に言うなんて~…ボクもちょっとキョーミあるなぁ♪」


千年伯爵が、詳しいことを話さないことがわかったロードはそれ以上追求することをやめ、今後の展開を予想し愉しげに声をあげた。


「ロードもきっと気に入りますヨvV」


「へぇ、早く会ってみたいかもぉ~♪」


「クスクスッ…彼の成長が今から楽しみでスvV」


「それより、千年公ぉ~?結局、カギはどうだったわけぇ??」


「それがハズレだったようでス」


「なんだぁ、つまんないのぉ~」


「まだ、時間はたっぷりありますvVこれから見つければいいのですヨvV」


「それもそうだよねぇ~♪」


クスクスと愉しげな笑い声が薄暗い闇の中へと吸い込まれていく。
ゆらりと揺らめいた蝋燭の光がこれからの未来を暗示するかのように僅かな明るさを保っていた。

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