空想ルンバ
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俺は夢を見た。
雲ひとつない青空、辺りには一面花が咲き乱れている円形の平野、どこかの島や草原かと思えばこの平野には終わりがあり、この空間だけ丸ごと切り抜かれたかのように宙に浮いてる、その下には何も無い、青空が広がっているだけ。
辺りを探索していると、島の中心に真っ白なワンピースを来た一人の少女が眠る様に地面に横たわっていた。
見た目は俺と同じくらいだろうか、夢の中であろうと何が起こるか分からないこの世界、目の前に居る見覚えのない女に俺は警戒する。
ゆっくりと近づいて行くと女は目覚めたのか、起き上がり辺りを見渡すと俺の存在に気付き目が合う。
「あっ……」
女は驚いた顔をしている。
その表情の意味は分からなかったが、なるべく角を立てぬよう優しく話しかける。
「おはよう」
「お、おはようございます……?」
ゆっくりと立ち上がる女。
「いきなりですまないがまず確認したいことがある。君は俺の夢の中だけの存在、それとも、俺の夢に介入している、どっちだ?」
少し険しい表情をしてしまっただろうか、女は困った様な表情をし少し何かを考えてから話し出す。
「あの、これって私の夢ですよね?じゃあ貴方は私の夢の中だけの存在じゃないんですか……?」
その言葉に驚いた、つまりこの女も俺と同じ状況、そういう事になる。
よく見ればとても無防備で、最初はカリムの刺客かと思ったが俺に魔法をかけている時点でそれは無いだろう。
「確かに、君から見ても俺から見てもお互い夢の中の登場人物に過ぎないな、変な事を聞いてすまなかった」
「い、いえ、でも夢の中でこんなこと聞かれるの初めてでちょっとびっくりしちゃいました」
クスクスと笑う少女の表情は何かを企んでるなんてことも無さそうなあどけない表情だった。
「ここ、とっても素敵ですね」
クルクルと踊るように辺りを見渡す少女。
「あぁ、辺り一面花に囲まれて天気も良いし。風もとても気持ちが良い」
優しく吹く風に少女と俺の髪、そして花が揺れる。
「なんか不思議な夢ですね、花の匂いも分かるし風も感じるなんて」
「言われてみればこうして夢の中で会話が成立する事も奇妙だな」
俺の言葉に何かを思いついた顔をすると、俺に近づいてくる少女。
「あ、あの、ちょっと触ってみてもいいですか?」
「? 構わないが……」
「失礼します」
そう言うと控えめに俺の腕に触れる少女。
そこから熱が伝わるようにじんわりと熱くなる、その感覚に少女のしたかった事を理解する。
「お互いの感触まであるのか……」
「本当に不思議な夢ですね」
きっと誰かの魔法の仕業だ。
だが不思議と焦りや恐怖感は無かった、きっと目の前の少女の無防備さとこの空間のせいだろう。
「うーん、折角不思議な夢なのでなにかしません? どうせまた同じ夢を見ることなんて無いですし」
少女の提案に少し考える、最近色々な出来事が重なりかなり疲れていた俺はそれも面白いかもしれない、と思い少女の提案に乗ることにしてみた。
「面白いかもしれないな、例えば君は何がしたい?」
「う〜〜〜ん、鬼ごっことか……?」
想像していた答えとは違う答えに思わず吹き出す。
「くっ、くく……鬼ごっこって、君は子供か」
「だ、だっていざってなると思いつかなかったんですもん!」
顔を赤らめ怒る少女に気が完全に抜ける感覚がした。
「そうだな、なら、俺と一緒に踊ってくれないか?」
「え、踊る、ですか……」
「あぁ、お互いに触れ合えるという事を最大限生かした事だと思うんだが」
「あ、でも私踊るなんて……」
「大丈夫、俺はダンスが得意なんだ、身を任せてくれたら後は俺がリードする」
右手を少女へと差し出す、少女は恐る恐る俺の手を取った。
「じ、じゃぁお願いします」
────
「本当に踊れないんだな」
「だからそう言ったじゃないですか! そ、それにワルツなんて……わっ!」
このメルヘンな空間に似合うダンスはワルツしかない、と思い俺は柄にも無く少女をリードしながら優雅に踊った。
少女の手を取り腰を支えリードするのは良かったが、少女はワルツを踊った事が無いようでステップもリズムもめちゃくちゃだった。
俺はそれがおかしくて堪らなかった。
「貴方凄い人なんですね、こんなダンス踊れるなんて」
「家柄の関係で自然と身についただけさ」
曲は流れていない、なるべく踊りやすいリズムで踊る。
「私こんな踊り知らないのに、不思議。貴方は本当に私の夢の中だけの人なんですか?夢の中のお兄さんはお名前があったりしますか?」
「そう言えばお互い自己紹介していなかったな、俺はジャミル、ジャミル・バイパーだ。君は?」
俺が名前を伝えると少女は再び驚いた顔をし真っ直ぐ俺を見つめてくる。もしかして聞いたことのある名前だったのだろうか。
「私、私は──」
❖❖❖❖
そこで目が覚め、夢は終わる。
何から何まで不思議だった。
いつもはおきた瞬間みた夢は覚えて居ないのに鮮明に覚えていた。
ユウ、はっきりそう言っていた。
夢の中の人物に名前がある事に驚いた、遠い昔に聞いた名前なのかもしれない。
❖❖❖❖
俺はまた夢を見た。
昨日と全く同じ空間。
雲ひとつない青空、花、風、下を見るが昨日と同じく青空が広がっているだけ。
もしかして、と思い島の中心へと駆け寄ると思った通り昨日の少女、ユウが白いワンピースを纏いそこに横たわって居た。
「ユウ」
俺は優しくユウの肩を揺さぶり起こす。
やはり、触れられる。
「ん……あ、あれ、ジャミル、さん……?」
眠そうな目を擦りながら起き上がるユウ。
「おはよう、2回目だな」
「はい……またお会い出来ましたね」
これは若しかするとただの夢では無いのかもしれない、そう考えたがそれ以上は夢だからなのか上手く頭が回らなかった。
「昨日は途中で目が覚めちゃった見たいで」
「同じだ、起きてからこの夢を鮮明に覚えていた」
「私もです! 実は起きたあとちょっとだけワルツの動画見ました」
「ほう、どうだった?」
「めっちゃくちゃ難しかったです!」
笑顔でそう答える少女。
「ふっ、そうだろうな、ワルツは1日2日で身に付くものでは無いからな」
少しドヤ顔になっていたのだろうか、ユウが悔しそうな表情でこちらを見てくる。
「なんか悔しいです! 別に機会は無いですけど私ワルツちゃんと覚えたくなりました」
「そうか……なら、今夜も踊るか?」
昨日と同じ様にユウへ右手を差し出す。
少女は昨日と同じ様に俺の手を取った。
❖❖❖❖
あれから俺は毎日同じ夢を見ていた。
夢の中の少女と踊る夢だ。
俺と何処の誰だかも分からない少女だけの特別な空間、いつしかその時間が俺にとって最大の楽しみになっていた。
夢だと分かっているが、これが現実で覚めなければと思うほどに。
ユウに会いたい、ふとそう考えた俺は色々なツテを頼って少女を探してみた。
しかしこの広い世界で1人の少女を探すのは中々骨の折れる作業だった。
❖❖❖❖
今日も2人で風の音をBGMに踊る。
「なぁ、君はどこに住んでいるんだ?」
ずっと考えていた疑問をなげかけるとユウは少し考えて、「秘密です」と答えた。
「何故だ? なにか困る事があるのか?」
「んー、そういう訳じゃないんですけど、夢の中だけってなんかロマンチックじゃないですか?」
「ロマンチックか、俺には分からないな」
はぐらかされた、ユウは俺と会いたくないのだろうか。
今まで感じたことのないモヤモヤとした気持ちが湧き上がる。
日に日に彼女へ会いたいという思いが強くなる。
2人で踊ってる瞬間が最高に楽しい、長らくこんな気持ちを忘れていた、いつぶりだろうか。
❖❖❖❖
「君は、一体誰なんだ」
こんな聞き方をするつもりじゃなかった。
俺は焦っていた、俺の長年築き上げてきたツテとユニーク魔法があれば世界中どこに居たって少女を見つけ出せると思っていた。
いくら世界中を探してもユウは見つからなかった。
名前と容姿さえ分かっていれば簡単に見つかるだろうと思っていた、だが何処を探しても彼女の手がかりすら見つからなかった。
俺の言葉にユウが動きを止め俯く、釣られて俺も足を止め彼女の手と腰から手を離す。
黙ってユウの次の言葉を待つ。
俯いていた少女はゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
「ジャミルさんは、10年前のこと覚えていますか?」
「10年前……?」
10年前と聞き、俺は思考を巡らせる。
「昔話をしますね。私小さい頃に1度だけ遊んだ男の子が居たんです、その男の子は迷子になって泣いている私を優しく元気付けてくれて、一緒に遊んでくれたんです。こんな風にダンスしたり、2人だけで鬼ごっこしたり、短い時間でしたけどとても楽しかったんです」
一呼吸起き、ユウは話を続ける。
「私、ジャミルさんの世界の人間じゃないんです」
「は……?」
「正確に言うと、私は元々ツイステッドワンダーランドの世界に生を受けました。でも8年前、突然別の世界に飛ばされたんです。そこは魔法がない世界でした」
目の前の彼女が何を言っているか分からない、整理できない頭に更に情報が入ってくる。
「知ってる人は誰もいない、親も居ない、そんな中で過ごしている内に、ツイステッドワンダーランドで過ごした幼い頃の記憶は段々と薄れて行きました」
黙ってユウの話を聞く。
だから俺がいくら世界中探しても見つからなかったのか、彼女の話を聞いて腑に落ちる。
「でもある日夢を見ました、綺麗な花畑の中に綺麗な男の子が立ってる夢でした。その男の子の顔がとても見覚えがあって、名前を聴いた瞬間、一つだけ忘れてた事を思い出しました、私のユニーク魔法です」
「その効果は、聞いても、」
「はい、私のユニーク魔法は対象と自分の夢をリンクさせること、でした。多分ジャミルさんと一番最初にこの場所で出会ったのは、偶然なんだと思います」
俯いていた顔を上げ俺を見つめる少女、その瞳は今にも泣き出しそうだった。
「わたし、嬉しかったんです、自分の大切な魔法を思い出せて、ジャミルさんと出会えて、ジャミルさんとの思い出を思い出せて、」
ボロボロとユウの目から涙が溢れる。
「でも、私は元の世界に帰ることは出来ませんでした。だからせめて毎日好きな男の子と一緒に踊る夢を見ていたかったんです」
好きな男の子、という単語に胸が昂るのを感じたと同時に嫌でも分かってしまう。
この世界には俺が居て、君は居ない。
彼女の話が終わると同時に強い風が吹き抜け、あまりの風に思わず目を瞑ってしまう。
巻き込んでごめんなさい、
『全ては夢幻、夢は永遠には続かない、いつか覚めるもの』
《いつか夢で 》
少女の呪文を聞き俺は飛び起きた、外はまだ暗い。
鮮明に覚えている夢での出来事を思い出す
彼女は、俺の生きているこの世界には居ない。
受け入れられなかった、でも俺の優秀すぎる頭は嫌でも理解してしまっていた。
「くそっ……どうしてなんだ……」
何故俺はいつも上手く行かないのだろう。
頬を水が伝う感覚がする、こんなに誰かを好きになったのは初めてだった。
俺はその晩ひとしきり泣いた、全部消えてしまえ、そう思うほどユウの存在が自分の中で大きくなっていた。
俺はその日の夜も夢を見た。
いつもの場所だった、そこに俺1人で立ち尽くす夢。
俺の心を嘲笑うかのように青空は相変わらず嫌なくらい晴れていて、優しく風が吹き花も綺麗に咲き誇ってる。
ただその場に少女だけが居ない、それ以外はいつもと変わらぬ光景だった。
雲ひとつない青空、辺りには一面花が咲き乱れている円形の平野、どこかの島や草原かと思えばこの平野には終わりがあり、この空間だけ丸ごと切り抜かれたかのように宙に浮いてる、その下には何も無い、青空が広がっているだけ。
辺りを探索していると、島の中心に真っ白なワンピースを来た一人の少女が眠る様に地面に横たわっていた。
見た目は俺と同じくらいだろうか、夢の中であろうと何が起こるか分からないこの世界、目の前に居る見覚えのない女に俺は警戒する。
ゆっくりと近づいて行くと女は目覚めたのか、起き上がり辺りを見渡すと俺の存在に気付き目が合う。
「あっ……」
女は驚いた顔をしている。
その表情の意味は分からなかったが、なるべく角を立てぬよう優しく話しかける。
「おはよう」
「お、おはようございます……?」
ゆっくりと立ち上がる女。
「いきなりですまないがまず確認したいことがある。君は俺の夢の中だけの存在、それとも、俺の夢に介入している、どっちだ?」
少し険しい表情をしてしまっただろうか、女は困った様な表情をし少し何かを考えてから話し出す。
「あの、これって私の夢ですよね?じゃあ貴方は私の夢の中だけの存在じゃないんですか……?」
その言葉に驚いた、つまりこの女も俺と同じ状況、そういう事になる。
よく見ればとても無防備で、最初はカリムの刺客かと思ったが俺に魔法をかけている時点でそれは無いだろう。
「確かに、君から見ても俺から見てもお互い夢の中の登場人物に過ぎないな、変な事を聞いてすまなかった」
「い、いえ、でも夢の中でこんなこと聞かれるの初めてでちょっとびっくりしちゃいました」
クスクスと笑う少女の表情は何かを企んでるなんてことも無さそうなあどけない表情だった。
「ここ、とっても素敵ですね」
クルクルと踊るように辺りを見渡す少女。
「あぁ、辺り一面花に囲まれて天気も良いし。風もとても気持ちが良い」
優しく吹く風に少女と俺の髪、そして花が揺れる。
「なんか不思議な夢ですね、花の匂いも分かるし風も感じるなんて」
「言われてみればこうして夢の中で会話が成立する事も奇妙だな」
俺の言葉に何かを思いついた顔をすると、俺に近づいてくる少女。
「あ、あの、ちょっと触ってみてもいいですか?」
「? 構わないが……」
「失礼します」
そう言うと控えめに俺の腕に触れる少女。
そこから熱が伝わるようにじんわりと熱くなる、その感覚に少女のしたかった事を理解する。
「お互いの感触まであるのか……」
「本当に不思議な夢ですね」
きっと誰かの魔法の仕業だ。
だが不思議と焦りや恐怖感は無かった、きっと目の前の少女の無防備さとこの空間のせいだろう。
「うーん、折角不思議な夢なのでなにかしません? どうせまた同じ夢を見ることなんて無いですし」
少女の提案に少し考える、最近色々な出来事が重なりかなり疲れていた俺はそれも面白いかもしれない、と思い少女の提案に乗ることにしてみた。
「面白いかもしれないな、例えば君は何がしたい?」
「う〜〜〜ん、鬼ごっことか……?」
想像していた答えとは違う答えに思わず吹き出す。
「くっ、くく……鬼ごっこって、君は子供か」
「だ、だっていざってなると思いつかなかったんですもん!」
顔を赤らめ怒る少女に気が完全に抜ける感覚がした。
「そうだな、なら、俺と一緒に踊ってくれないか?」
「え、踊る、ですか……」
「あぁ、お互いに触れ合えるという事を最大限生かした事だと思うんだが」
「あ、でも私踊るなんて……」
「大丈夫、俺はダンスが得意なんだ、身を任せてくれたら後は俺がリードする」
右手を少女へと差し出す、少女は恐る恐る俺の手を取った。
「じ、じゃぁお願いします」
────
「本当に踊れないんだな」
「だからそう言ったじゃないですか! そ、それにワルツなんて……わっ!」
このメルヘンな空間に似合うダンスはワルツしかない、と思い俺は柄にも無く少女をリードしながら優雅に踊った。
少女の手を取り腰を支えリードするのは良かったが、少女はワルツを踊った事が無いようでステップもリズムもめちゃくちゃだった。
俺はそれがおかしくて堪らなかった。
「貴方凄い人なんですね、こんなダンス踊れるなんて」
「家柄の関係で自然と身についただけさ」
曲は流れていない、なるべく踊りやすいリズムで踊る。
「私こんな踊り知らないのに、不思議。貴方は本当に私の夢の中だけの人なんですか?夢の中のお兄さんはお名前があったりしますか?」
「そう言えばお互い自己紹介していなかったな、俺はジャミル、ジャミル・バイパーだ。君は?」
俺が名前を伝えると少女は再び驚いた顔をし真っ直ぐ俺を見つめてくる。もしかして聞いたことのある名前だったのだろうか。
「私、私は──」
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そこで目が覚め、夢は終わる。
何から何まで不思議だった。
いつもはおきた瞬間みた夢は覚えて居ないのに鮮明に覚えていた。
ユウ、はっきりそう言っていた。
夢の中の人物に名前がある事に驚いた、遠い昔に聞いた名前なのかもしれない。
❖❖❖❖
俺はまた夢を見た。
昨日と全く同じ空間。
雲ひとつない青空、花、風、下を見るが昨日と同じく青空が広がっているだけ。
もしかして、と思い島の中心へと駆け寄ると思った通り昨日の少女、ユウが白いワンピースを纏いそこに横たわって居た。
「ユウ」
俺は優しくユウの肩を揺さぶり起こす。
やはり、触れられる。
「ん……あ、あれ、ジャミル、さん……?」
眠そうな目を擦りながら起き上がるユウ。
「おはよう、2回目だな」
「はい……またお会い出来ましたね」
これは若しかするとただの夢では無いのかもしれない、そう考えたがそれ以上は夢だからなのか上手く頭が回らなかった。
「昨日は途中で目が覚めちゃった見たいで」
「同じだ、起きてからこの夢を鮮明に覚えていた」
「私もです! 実は起きたあとちょっとだけワルツの動画見ました」
「ほう、どうだった?」
「めっちゃくちゃ難しかったです!」
笑顔でそう答える少女。
「ふっ、そうだろうな、ワルツは1日2日で身に付くものでは無いからな」
少しドヤ顔になっていたのだろうか、ユウが悔しそうな表情でこちらを見てくる。
「なんか悔しいです! 別に機会は無いですけど私ワルツちゃんと覚えたくなりました」
「そうか……なら、今夜も踊るか?」
昨日と同じ様にユウへ右手を差し出す。
少女は昨日と同じ様に俺の手を取った。
❖❖❖❖
あれから俺は毎日同じ夢を見ていた。
夢の中の少女と踊る夢だ。
俺と何処の誰だかも分からない少女だけの特別な空間、いつしかその時間が俺にとって最大の楽しみになっていた。
夢だと分かっているが、これが現実で覚めなければと思うほどに。
ユウに会いたい、ふとそう考えた俺は色々なツテを頼って少女を探してみた。
しかしこの広い世界で1人の少女を探すのは中々骨の折れる作業だった。
❖❖❖❖
今日も2人で風の音をBGMに踊る。
「なぁ、君はどこに住んでいるんだ?」
ずっと考えていた疑問をなげかけるとユウは少し考えて、「秘密です」と答えた。
「何故だ? なにか困る事があるのか?」
「んー、そういう訳じゃないんですけど、夢の中だけってなんかロマンチックじゃないですか?」
「ロマンチックか、俺には分からないな」
はぐらかされた、ユウは俺と会いたくないのだろうか。
今まで感じたことのないモヤモヤとした気持ちが湧き上がる。
日に日に彼女へ会いたいという思いが強くなる。
2人で踊ってる瞬間が最高に楽しい、長らくこんな気持ちを忘れていた、いつぶりだろうか。
❖❖❖❖
「君は、一体誰なんだ」
こんな聞き方をするつもりじゃなかった。
俺は焦っていた、俺の長年築き上げてきたツテとユニーク魔法があれば世界中どこに居たって少女を見つけ出せると思っていた。
いくら世界中を探してもユウは見つからなかった。
名前と容姿さえ分かっていれば簡単に見つかるだろうと思っていた、だが何処を探しても彼女の手がかりすら見つからなかった。
俺の言葉にユウが動きを止め俯く、釣られて俺も足を止め彼女の手と腰から手を離す。
黙ってユウの次の言葉を待つ。
俯いていた少女はゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
「ジャミルさんは、10年前のこと覚えていますか?」
「10年前……?」
10年前と聞き、俺は思考を巡らせる。
「昔話をしますね。私小さい頃に1度だけ遊んだ男の子が居たんです、その男の子は迷子になって泣いている私を優しく元気付けてくれて、一緒に遊んでくれたんです。こんな風にダンスしたり、2人だけで鬼ごっこしたり、短い時間でしたけどとても楽しかったんです」
一呼吸起き、ユウは話を続ける。
「私、ジャミルさんの世界の人間じゃないんです」
「は……?」
「正確に言うと、私は元々ツイステッドワンダーランドの世界に生を受けました。でも8年前、突然別の世界に飛ばされたんです。そこは魔法がない世界でした」
目の前の彼女が何を言っているか分からない、整理できない頭に更に情報が入ってくる。
「知ってる人は誰もいない、親も居ない、そんな中で過ごしている内に、ツイステッドワンダーランドで過ごした幼い頃の記憶は段々と薄れて行きました」
黙ってユウの話を聞く。
だから俺がいくら世界中探しても見つからなかったのか、彼女の話を聞いて腑に落ちる。
「でもある日夢を見ました、綺麗な花畑の中に綺麗な男の子が立ってる夢でした。その男の子の顔がとても見覚えがあって、名前を聴いた瞬間、一つだけ忘れてた事を思い出しました、私のユニーク魔法です」
「その効果は、聞いても、」
「はい、私のユニーク魔法は対象と自分の夢をリンクさせること、でした。多分ジャミルさんと一番最初にこの場所で出会ったのは、偶然なんだと思います」
俯いていた顔を上げ俺を見つめる少女、その瞳は今にも泣き出しそうだった。
「わたし、嬉しかったんです、自分の大切な魔法を思い出せて、ジャミルさんと出会えて、ジャミルさんとの思い出を思い出せて、」
ボロボロとユウの目から涙が溢れる。
「でも、私は元の世界に帰ることは出来ませんでした。だからせめて毎日好きな男の子と一緒に踊る夢を見ていたかったんです」
好きな男の子、という単語に胸が昂るのを感じたと同時に嫌でも分かってしまう。
この世界には俺が居て、君は居ない。
彼女の話が終わると同時に強い風が吹き抜け、あまりの風に思わず目を瞑ってしまう。
巻き込んでごめんなさい、
『全ては夢幻、夢は永遠には続かない、いつか覚めるもの』
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少女の呪文を聞き俺は飛び起きた、外はまだ暗い。
鮮明に覚えている夢での出来事を思い出す
彼女は、俺の生きているこの世界には居ない。
受け入れられなかった、でも俺の優秀すぎる頭は嫌でも理解してしまっていた。
「くそっ……どうしてなんだ……」
何故俺はいつも上手く行かないのだろう。
頬を水が伝う感覚がする、こんなに誰かを好きになったのは初めてだった。
俺はその晩ひとしきり泣いた、全部消えてしまえ、そう思うほどユウの存在が自分の中で大きくなっていた。
俺はその日の夜も夢を見た。
いつもの場所だった、そこに俺1人で立ち尽くす夢。
俺の心を嘲笑うかのように青空は相変わらず嫌なくらい晴れていて、優しく風が吹き花も綺麗に咲き誇ってる。
ただその場に少女だけが居ない、それ以外はいつもと変わらぬ光景だった。
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