RAINBOW BOY
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初めて君と出会ったのは箱ばかりの小さな6畳間だった。
このゲームが起動された瞬間全てを察した。
(あ、拙者これゲームのキャラクターじゃん、これなんてギャグ漫画?)
まず最初に目に飛び込んできたのはこのゲームのメニュー画面、そこに僕はなんの意味もなく立たされていた。
そこで2つ目に気づく、僕は攻略対象外キャラだ。
しかも主人公に異性の連絡先を教えて誕生日とか好きな食べ物とかオススメのデートスポットとかをアドバイスする役目。
(いやいやいやこの立場最も拙者が適せぬ立場では? なにゆえ拙者にこの役を割り振った?)
次に目に入ったのは画面越しの君の瞳。
僕を見る目はキラキラ輝いてた。
(あー、もしかして君、拙者が推しになってしまわれましたな。でも残念ながら拙者は脇役、ゲームのキャラクターに恋するなんて哀れな人だなぁ。まぁ人のこと言えないですけど。乙女ゲームなのに攻略出来ぬという苦行を耐え忍んで下され)
他の"学園"のキャラクターは君じゃなくて目の前にいる女の子を見ている。
でも僕は違う、彼女の顔は分からない。
僕に見えているのは画面に写る君の顔。
画面の奥から僕を見つめる瞳。
『パンパカパーン、これで記念すべき10個目のエンディングおめでとう』
『まだやるの?』
『まぁ適当に頑張ってよ』
どうせすぐに飽きるだろうと思っていた。
❖❖❖❖
それから一ヶ月、今日も君は飽きずに拙者を出現させようと朝から晩までずっとプレイしている。メニュー画面には二人きり。
12時を回った、ちょうど1ヶ月だから設定されている労いの言葉でも掛けてさしあげよう。
『あー、ログイン1ヶ月達成おめでとう。君も毎日飽きないよね』
『なに? ソーシャルゲームじゃないからログインボーナスとかないよ。現実だって毎朝起きたらログボなんてないんだから我慢してよね』
『ちょっと、どこ触ってるのよ! ………べべ、別に拙者がこういうゲームをやっているのではなくき、君のためにサービスだよ、サービス』
2次元と3次元の壁があるのにこんな事言うの自分でもおかしいと思うけどこんな拙者に君は優しくしてくれた。
でもごめんね、どんなに僕をタップしてくれても僕はタダの攻略対象外キャラクター。
君が"イデアシュラウド"を隠しキャラとして出現させようとしてる事なんてとっくに気付いている。
『このゲームはエンディングが100種類以上、エンディングスチルも1000枚以上あるのに全部回収する人なんているの? まぁ拙者ならやるでしょうな』
君にタップされた時にしか君と喋れない、会話出来ない。
でも君はタップしてくれるから僕は君に話しかける。
『出会ってくれて本当にありがとう……ど、どう? 拙者が本編で主役張った際に言おうと思ってるセリフなんですけど』
(本編で言えないの分かってるのにシナリオライターは残酷な事言わせますなぁ)
初めて君に恋したのはデータ中のセーブデータ。
ゲームを起動すれば他にもエンディングもスチルも豊富なイケメンが沢山居るのに浮気する事なく僕だけを見ててくれた。
今までは何とも感じなかった他のキャラクターとのキスシーンは"君"と違う女の子がキスしていると分かっているのにとても嫌だった。「僕以外の人を見ないで、浮気とかしないで」なんて言えたらどんなに良かっただろう。
君じゃなきゃ、もうダメなんだ。
最初は不毛な事してるな、って思ってた。
流石の拙者でもゲームのキャラにガチ恋はしない、そう、思っていた。
でも僕が出る度に恋する目線で見つめる君に恋をした。
君の瞳に恋をした。
君自身に恋焦がれてしまった。
(まさか2次元から3次元のお相手を好きになるなんて特殊設定過ぎるでしょ……)
毎日帰ってきては起動し真っ直ぐ自分を見詰めるその君の視線に、僕の気持ちは捕らわれた。
『あ、エンディングもう50個も回収したの? 君も中々やるね、そろそろ隠しキャラが出てきますぞw』
『いやいや、拙者では無く先生方でござる』
『なに、こうして毎日メニュー画面でお話出来るのにそれでは満足出来ないと』
『拙者だけメニュー画面でお喋りしてくれるなんて結構特別扱いだと思うのですが』
(なーにが特別扱いな物か、偽りの感情だとしても、僕と君は恋に落ちる事は無いのに)
それから更に1ヶ月、君が僕をまだ諦めていない頃、攻略対象の1人である"キャラクター"のハッピーエンドをクリアした。僕の事が推しだとわかっていてもハッピーエンドの1枚絵に微笑む君を見て心が苦しくなる。
(分かっている、これはゲーム、このゲームには拙者を覗いても25人以上の男子が出てくる、しかも美麗なスチルと豪華なボイス付きの。拙者だってスチルもボイスも有るけど君とのスチルは1つもない)
もう何度目か分からない程見たエンドロールの後現れた「Fin」の文字。
僕とは永遠に見れないその文字が出ると、他のキャラクターの気持ちはリセットされる。
でも僕の記憶は消えない、消させない。
メニュー画面で君と毎日話す僕だけはずっと君の事を覚えている。
何故?何故こんなにも近いのにこんなにも離れて居るんだ。
どんなに願っても君には触れられない、僕が本当に言いたいセリフも言えない。
そっちの世界へは行けない。
──そっちの世界に行けないならこちらの世界へは?
ゲームには終わりがある、このゲームだっていくら総プレイ時間4000時間以上掛かると言ってもこれはゲーム。
どんなに君が恋しくても、君に飽きられたらすぐ終わり。
最近、毎日君と一緒にいられる未来を想像して夢を見てる。
君の心に続く道は君の手が僕に触れなくなったら鎖されてしまう。
君との幸せを触れ合って感じてみたい、日に日にその思いは強くなる。
もうすぐこのルートも終わる。
『ごめんなさい、貴方の事は友人としてしか見ておりません。』
ノーマルエンドの回収だろう、振られる彼女を見るのも何となく苦痛だった。
『君ってハッピーエンドから見るタイプ?』
『エンディング回収の仕方って人によって違うよね』
『拙者は初見のゲームは最初から攻略サイトを見ながらプレイしてるでござる』
『ま、まぁ? ある程度性格等のパターンを予測すれば攻略サイトを見ずとも出来るようになりますが?』
『せ、拙者に攻略サイト無しで女子の気持ちが分かるとお思いか!』
『本編中でも言っただろ、ぼ、僕は女子と喋るのは苦手なんだよ……き、君は特別だよ、だって主人公だろ?』
(違う、"君"だからだよ。早くこちらへ来てよ)
僕も伊達にオタクキャラをやっている訳じゃない、これでも恋愛ゲームマスター(攻略サイト有り)を活かして君へ他のキャラの情報を渡すアドバイスキャラをやっている。
ゆえに僕だけには外の世界の恋愛ゲームの知識がある。
考えた、この世界が僕にエンディングなんて用意してくれないんだとしたら何をすればハッピーエンドにたどり着けるだろうか?
どうすれば君に愛を届けられる?
僕は──────その方法を知っている。
正確には気付いた。
ヤンデレキャラだって出来ない、データを改ざん出来るキャラだって出来なかった、その方法を僕は知ってしまった。
だってこの世界は魔法を学ぶ学校のある世界。
呪文もあれば鏡だってある──異世界に繋がる鏡だって。
このゲームの設定は異世界からトリップしてきた主人公が異世界の男の子と恋に落ちる。
なら"君"をこちらの世界へ迎える事だって出来るはず、そちらの世界が見える、僕になら。
君を手放すなんてしない、絶対この世界で君とハッピーエンドを迎える。
❖❖❖❖❖
・
・
・
*fin*
遂に君はこのゲームをコンプリートした。
僕とのエンディングを探して、この膨大なデータ量のゲームをクリアした。
【おめでとうございます、全てのスチル、エンディングを回収しました。完全ゲームクリアです。メニュー画面に戻ります。】
【メニュー画面】
《キャラクターからのメッセージが届いています》
『総プレイ時間4057時間……待って、君もしかしてスチルもルートも全部回収したの? このゲームの全スチルとエンディング回収なんてとんだ暇人だね、お疲れ様』
(僕の為にこんなにも時間費やしてくれてありがとう)
『…え? 僕に会いたかったから?』
(知ってる)
『君も物好きだね、もしかして毎回エンディング後に出てくる拙者のクリア後のアドバイスも回収してらっしゃいます?』
(君がクリア後に僕が解放されないことに何度落ち込んだかも知ってる)
『あ、違うの?』
(そうして次のキャラクターを攻略サイト見ながら攻略していたのだって知ってる)
『スチルもエンディングも全部集めて回収率100%にしたのに僕が攻略出来なかった?』
(悪いのは制作サイドだ)
『残念だけど僕は攻略出来ないよ、対象キャラじゃないから』
(運命を呪った、でも今は違う)
『拙者はあくまで隣の家に住んでる幼馴染みや主人公──君の弟的な立場なのですが?』
『君知らないの? 説明文にアドバイスをくれるって書いてあるキャラは大体攻略出来ないんだよ、そんなの常識中の常識ですぞ?』
(恋愛ゲームで情報をくれるキャラが攻略対象外なんて誰が言った?)
【タップ】
『いやいやあくまで登場するのが、28人ですから』
(その中に僕は居ない)
『対象キャラが28人とは書いてないんだよ、君ちゃんと説明書読みました? もしかして説明書読まずにゲーム始めるタイプ?』
(きっと君は僕に会いたくて説明書もろくに読まず始めたのだろう)
【タップ】
『それにしても、1人につき最低グッド、トゥルー、ノーマル、バッドエンドの計4種類のエンディングがある上に隠しキャラまで4種類エンディングがあるって近年稀に見る大作だよね』
(それなのに何故拙者のエンディングは作らなかったのか)
『他のプレイヤーは自分の好きなキャラを攻略したら殆ど辞めてるレベルだよこれ』
(ネットを見ても1人のキャラクターだけで充分満足出来るボリュームのあるこのゲームはコンプリートする人は少ない)
『スチルも1000枚以上あってほんと制作会社には頭上がらないっすわー』
(そしてここまでプレイしてくれた君にも)
【タップ】
『あ、あのさ、本編中もそうやってよく僕のこと触ってたよね』
(優しい手付きで)
『教室の後ろに居るモブと化した僕をタッチしたり、誰と行く? って選択肢で僕を選んだりとか』
(嬉しかった)
『意味なんてないのに』
(意味なんて本当に無かった)
『やたらと僕に話しかけて誰のエンディングにも行かないで終わったルートもあったよね』
(誰も目に移さないで真っ先に僕を選んでくれた時はもう僕ルートでいいんじゃね? って思った)
『選択肢の組み合わせ等も試してたり』
(バグ技とか都市伝説レベルのボタン入力とかもしてたよね、あれには正直笑った)
『攻略対象キャラの電話番号を聞くフリして沢山拙者と話してましたが何もなくて悔しかったでしょうなぁww』
(君と喋れて嬉しかった)
『ねぇどんな気持ち? 今どんな気持ちでござるか?』
(ここまでプレイした君の気持ちが知りたい、いや知っている)
『じ、冗談だよ。他のゲームではアドバイスキャラのルートもあるからやってたって言うのは分かってるよ、うん』
(このゲームではたまたま用意されて居なかっただけだ、たまたま)
【タップ】
『ね、ねぇ僕と話して楽しい? メニューに戻ってまたスタートすれば他に沢山イケメン居ますよ?君ほんと変わってるね……』
(ゲームが終わったのにまだ諦めていない)
【タップ】
『何度タップしても拙者は攻略出来ないよ。このゲームは終了。何でかって? 君が完クリしたからだよ』
(そう、本来ならここで終わり)
【タップ】
『あのさ、沢山話しかけてくれてるのはありがたいけど隠し要素はこれだけ、もう後は何もないよ。次話しかけてももう定型文しか出ないからね』
(これは本当、でも今は違う)
【タップ】
……
『プレイしてくれてありがとう。』
(もっと)
……
『プレイしてくれてありがとう。』
(お願い)
……
『プレイしてくれてありがとう。』
(もう1回、そうすれば壁は壊れる)
【タップ】
『だ、だから何も無いって、なにゆえ諦めないのです?』
(泣きそうな顔しないで)
『拙者が話すからまだ何かあるとお思いで?』
(最後までゲーム側が抵抗しているのが分かる)
『なるほど、それだったらもう喋らないよ』
(お願い、僕を信じて)
【タップ】
【タップ】
【タップ】
【タップ】
『………な、なに、まだいるの? だから何も変わらないってば』
(嘘だ)
『拙者優しいので教えてあげるけど、隠し要素なんてないよ』
(君の為の最後の隠し要素があるんだ)
【タップ】
『きっ君は……本当に僕を攻略したいの?』
(分かってる)
【タップ】
『ほ、本当に僕のルートが見たいの?』
(知っている)
【タップ】
『………後悔、しない?』
⇒はい
はい
『フヒヒw驚きましたかな? 選択肢"はい"しか用意してないの忘れてたでござるw』
(遂にここまで来た)
『後悔しないって言ったのは君だからね』
(後悔なんて絶対させない)
『スチルもルートも100%回収した君にとっておきのルートだよ、ここまでやってくれた君ならきっと喜ぶんじゃないかな。じゃ僕はエンディングで待ってるから』
(だから早く、僕を攻略して)
【ニューゲーム】
《名前を入力して下さい》
《【ユウ】でよろしいですか?》
《ゲームを開始します》
このゲームが起動された瞬間全てを察した。
(あ、拙者これゲームのキャラクターじゃん、これなんてギャグ漫画?)
まず最初に目に飛び込んできたのはこのゲームのメニュー画面、そこに僕はなんの意味もなく立たされていた。
そこで2つ目に気づく、僕は攻略対象外キャラだ。
しかも主人公に異性の連絡先を教えて誕生日とか好きな食べ物とかオススメのデートスポットとかをアドバイスする役目。
(いやいやいやこの立場最も拙者が適せぬ立場では? なにゆえ拙者にこの役を割り振った?)
次に目に入ったのは画面越しの君の瞳。
僕を見る目はキラキラ輝いてた。
(あー、もしかして君、拙者が推しになってしまわれましたな。でも残念ながら拙者は脇役、ゲームのキャラクターに恋するなんて哀れな人だなぁ。まぁ人のこと言えないですけど。乙女ゲームなのに攻略出来ぬという苦行を耐え忍んで下され)
他の"学園"のキャラクターは君じゃなくて目の前にいる女の子を見ている。
でも僕は違う、彼女の顔は分からない。
僕に見えているのは画面に写る君の顔。
画面の奥から僕を見つめる瞳。
『パンパカパーン、これで記念すべき10個目のエンディングおめでとう』
『まだやるの?』
『まぁ適当に頑張ってよ』
どうせすぐに飽きるだろうと思っていた。
❖❖❖❖
それから一ヶ月、今日も君は飽きずに拙者を出現させようと朝から晩までずっとプレイしている。メニュー画面には二人きり。
12時を回った、ちょうど1ヶ月だから設定されている労いの言葉でも掛けてさしあげよう。
『あー、ログイン1ヶ月達成おめでとう。君も毎日飽きないよね』
『なに? ソーシャルゲームじゃないからログインボーナスとかないよ。現実だって毎朝起きたらログボなんてないんだから我慢してよね』
『ちょっと、どこ触ってるのよ! ………べべ、別に拙者がこういうゲームをやっているのではなくき、君のためにサービスだよ、サービス』
2次元と3次元の壁があるのにこんな事言うの自分でもおかしいと思うけどこんな拙者に君は優しくしてくれた。
でもごめんね、どんなに僕をタップしてくれても僕はタダの攻略対象外キャラクター。
君が"イデアシュラウド"を隠しキャラとして出現させようとしてる事なんてとっくに気付いている。
『このゲームはエンディングが100種類以上、エンディングスチルも1000枚以上あるのに全部回収する人なんているの? まぁ拙者ならやるでしょうな』
君にタップされた時にしか君と喋れない、会話出来ない。
でも君はタップしてくれるから僕は君に話しかける。
『出会ってくれて本当にありがとう……ど、どう? 拙者が本編で主役張った際に言おうと思ってるセリフなんですけど』
(本編で言えないの分かってるのにシナリオライターは残酷な事言わせますなぁ)
初めて君に恋したのはデータ中のセーブデータ。
ゲームを起動すれば他にもエンディングもスチルも豊富なイケメンが沢山居るのに浮気する事なく僕だけを見ててくれた。
今までは何とも感じなかった他のキャラクターとのキスシーンは"君"と違う女の子がキスしていると分かっているのにとても嫌だった。「僕以外の人を見ないで、浮気とかしないで」なんて言えたらどんなに良かっただろう。
君じゃなきゃ、もうダメなんだ。
最初は不毛な事してるな、って思ってた。
流石の拙者でもゲームのキャラにガチ恋はしない、そう、思っていた。
でも僕が出る度に恋する目線で見つめる君に恋をした。
君の瞳に恋をした。
君自身に恋焦がれてしまった。
(まさか2次元から3次元のお相手を好きになるなんて特殊設定過ぎるでしょ……)
毎日帰ってきては起動し真っ直ぐ自分を見詰めるその君の視線に、僕の気持ちは捕らわれた。
『あ、エンディングもう50個も回収したの? 君も中々やるね、そろそろ隠しキャラが出てきますぞw』
『いやいや、拙者では無く先生方でござる』
『なに、こうして毎日メニュー画面でお話出来るのにそれでは満足出来ないと』
『拙者だけメニュー画面でお喋りしてくれるなんて結構特別扱いだと思うのですが』
(なーにが特別扱いな物か、偽りの感情だとしても、僕と君は恋に落ちる事は無いのに)
それから更に1ヶ月、君が僕をまだ諦めていない頃、攻略対象の1人である"キャラクター"のハッピーエンドをクリアした。僕の事が推しだとわかっていてもハッピーエンドの1枚絵に微笑む君を見て心が苦しくなる。
(分かっている、これはゲーム、このゲームには拙者を覗いても25人以上の男子が出てくる、しかも美麗なスチルと豪華なボイス付きの。拙者だってスチルもボイスも有るけど君とのスチルは1つもない)
もう何度目か分からない程見たエンドロールの後現れた「Fin」の文字。
僕とは永遠に見れないその文字が出ると、他のキャラクターの気持ちはリセットされる。
でも僕の記憶は消えない、消させない。
メニュー画面で君と毎日話す僕だけはずっと君の事を覚えている。
何故?何故こんなにも近いのにこんなにも離れて居るんだ。
どんなに願っても君には触れられない、僕が本当に言いたいセリフも言えない。
そっちの世界へは行けない。
──そっちの世界に行けないならこちらの世界へは?
ゲームには終わりがある、このゲームだっていくら総プレイ時間4000時間以上掛かると言ってもこれはゲーム。
どんなに君が恋しくても、君に飽きられたらすぐ終わり。
最近、毎日君と一緒にいられる未来を想像して夢を見てる。
君の心に続く道は君の手が僕に触れなくなったら鎖されてしまう。
君との幸せを触れ合って感じてみたい、日に日にその思いは強くなる。
もうすぐこのルートも終わる。
『ごめんなさい、貴方の事は友人としてしか見ておりません。』
ノーマルエンドの回収だろう、振られる彼女を見るのも何となく苦痛だった。
『君ってハッピーエンドから見るタイプ?』
『エンディング回収の仕方って人によって違うよね』
『拙者は初見のゲームは最初から攻略サイトを見ながらプレイしてるでござる』
『ま、まぁ? ある程度性格等のパターンを予測すれば攻略サイトを見ずとも出来るようになりますが?』
『せ、拙者に攻略サイト無しで女子の気持ちが分かるとお思いか!』
『本編中でも言っただろ、ぼ、僕は女子と喋るのは苦手なんだよ……き、君は特別だよ、だって主人公だろ?』
(違う、"君"だからだよ。早くこちらへ来てよ)
僕も伊達にオタクキャラをやっている訳じゃない、これでも恋愛ゲームマスター(攻略サイト有り)を活かして君へ他のキャラの情報を渡すアドバイスキャラをやっている。
ゆえに僕だけには外の世界の恋愛ゲームの知識がある。
考えた、この世界が僕にエンディングなんて用意してくれないんだとしたら何をすればハッピーエンドにたどり着けるだろうか?
どうすれば君に愛を届けられる?
僕は──────その方法を知っている。
正確には気付いた。
ヤンデレキャラだって出来ない、データを改ざん出来るキャラだって出来なかった、その方法を僕は知ってしまった。
だってこの世界は魔法を学ぶ学校のある世界。
呪文もあれば鏡だってある──異世界に繋がる鏡だって。
このゲームの設定は異世界からトリップしてきた主人公が異世界の男の子と恋に落ちる。
なら"君"をこちらの世界へ迎える事だって出来るはず、そちらの世界が見える、僕になら。
君を手放すなんてしない、絶対この世界で君とハッピーエンドを迎える。
❖❖❖❖❖
・
・
・
*fin*
遂に君はこのゲームをコンプリートした。
僕とのエンディングを探して、この膨大なデータ量のゲームをクリアした。
【おめでとうございます、全てのスチル、エンディングを回収しました。完全ゲームクリアです。メニュー画面に戻ります。】
【メニュー画面】
《キャラクターからのメッセージが届いています》
『総プレイ時間4057時間……待って、君もしかしてスチルもルートも全部回収したの? このゲームの全スチルとエンディング回収なんてとんだ暇人だね、お疲れ様』
(僕の為にこんなにも時間費やしてくれてありがとう)
『…え? 僕に会いたかったから?』
(知ってる)
『君も物好きだね、もしかして毎回エンディング後に出てくる拙者のクリア後のアドバイスも回収してらっしゃいます?』
(君がクリア後に僕が解放されないことに何度落ち込んだかも知ってる)
『あ、違うの?』
(そうして次のキャラクターを攻略サイト見ながら攻略していたのだって知ってる)
『スチルもエンディングも全部集めて回収率100%にしたのに僕が攻略出来なかった?』
(悪いのは制作サイドだ)
『残念だけど僕は攻略出来ないよ、対象キャラじゃないから』
(運命を呪った、でも今は違う)
『拙者はあくまで隣の家に住んでる幼馴染みや主人公──君の弟的な立場なのですが?』
『君知らないの? 説明文にアドバイスをくれるって書いてあるキャラは大体攻略出来ないんだよ、そんなの常識中の常識ですぞ?』
(恋愛ゲームで情報をくれるキャラが攻略対象外なんて誰が言った?)
【タップ】
『いやいやあくまで登場するのが、28人ですから』
(その中に僕は居ない)
『対象キャラが28人とは書いてないんだよ、君ちゃんと説明書読みました? もしかして説明書読まずにゲーム始めるタイプ?』
(きっと君は僕に会いたくて説明書もろくに読まず始めたのだろう)
【タップ】
『それにしても、1人につき最低グッド、トゥルー、ノーマル、バッドエンドの計4種類のエンディングがある上に隠しキャラまで4種類エンディングがあるって近年稀に見る大作だよね』
(それなのに何故拙者のエンディングは作らなかったのか)
『他のプレイヤーは自分の好きなキャラを攻略したら殆ど辞めてるレベルだよこれ』
(ネットを見ても1人のキャラクターだけで充分満足出来るボリュームのあるこのゲームはコンプリートする人は少ない)
『スチルも1000枚以上あってほんと制作会社には頭上がらないっすわー』
(そしてここまでプレイしてくれた君にも)
【タップ】
『あ、あのさ、本編中もそうやってよく僕のこと触ってたよね』
(優しい手付きで)
『教室の後ろに居るモブと化した僕をタッチしたり、誰と行く? って選択肢で僕を選んだりとか』
(嬉しかった)
『意味なんてないのに』
(意味なんて本当に無かった)
『やたらと僕に話しかけて誰のエンディングにも行かないで終わったルートもあったよね』
(誰も目に移さないで真っ先に僕を選んでくれた時はもう僕ルートでいいんじゃね? って思った)
『選択肢の組み合わせ等も試してたり』
(バグ技とか都市伝説レベルのボタン入力とかもしてたよね、あれには正直笑った)
『攻略対象キャラの電話番号を聞くフリして沢山拙者と話してましたが何もなくて悔しかったでしょうなぁww』
(君と喋れて嬉しかった)
『ねぇどんな気持ち? 今どんな気持ちでござるか?』
(ここまでプレイした君の気持ちが知りたい、いや知っている)
『じ、冗談だよ。他のゲームではアドバイスキャラのルートもあるからやってたって言うのは分かってるよ、うん』
(このゲームではたまたま用意されて居なかっただけだ、たまたま)
【タップ】
『ね、ねぇ僕と話して楽しい? メニューに戻ってまたスタートすれば他に沢山イケメン居ますよ?君ほんと変わってるね……』
(ゲームが終わったのにまだ諦めていない)
【タップ】
『何度タップしても拙者は攻略出来ないよ。このゲームは終了。何でかって? 君が完クリしたからだよ』
(そう、本来ならここで終わり)
【タップ】
『あのさ、沢山話しかけてくれてるのはありがたいけど隠し要素はこれだけ、もう後は何もないよ。次話しかけてももう定型文しか出ないからね』
(これは本当、でも今は違う)
【タップ】
……
『プレイしてくれてありがとう。』
(もっと)
……
『プレイしてくれてありがとう。』
(お願い)
……
『プレイしてくれてありがとう。』
(もう1回、そうすれば壁は壊れる)
【タップ】
『だ、だから何も無いって、なにゆえ諦めないのです?』
(泣きそうな顔しないで)
『拙者が話すからまだ何かあるとお思いで?』
(最後までゲーム側が抵抗しているのが分かる)
『なるほど、それだったらもう喋らないよ』
(お願い、僕を信じて)
【タップ】
【タップ】
【タップ】
【タップ】
『………な、なに、まだいるの? だから何も変わらないってば』
(嘘だ)
『拙者優しいので教えてあげるけど、隠し要素なんてないよ』
(君の為の最後の隠し要素があるんだ)
【タップ】
『きっ君は……本当に僕を攻略したいの?』
(分かってる)
【タップ】
『ほ、本当に僕のルートが見たいの?』
(知っている)
【タップ】
『………後悔、しない?』
⇒はい
はい
『フヒヒw驚きましたかな? 選択肢"はい"しか用意してないの忘れてたでござるw』
(遂にここまで来た)
『後悔しないって言ったのは君だからね』
(後悔なんて絶対させない)
『スチルもルートも100%回収した君にとっておきのルートだよ、ここまでやってくれた君ならきっと喜ぶんじゃないかな。じゃ僕はエンディングで待ってるから』
(だから早く、僕を攻略して)
【ニューゲーム】
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