あなたと異星交流
気がつくと、あの時先輩を捕まえた三階から屋上に繋がる階段の踊り場にいた。
足音がする。
振り返る間もなく、足音は汐奈を追い越した。
明るい茶髪の三人組がまず汐奈の横を通り過ぎて、その後ろを従順についていくのは長い前髪に目を半分ほど隠している、先輩。
汐奈は背中にゾッとするものを感じ、慌てて腕を伸ばして先輩の腕を掴もうとした。だが、一歩手前のところで先輩の腕には触れられなかった。足を前に出して進もうとするが、水中にいるみたいに体がふわふわと浮くばかりで、全く前進できない。なんというか、重力を感じない。そのうち先輩たち一行は屋上の扉に吸い込まれていってしまう。汐奈は、その場でもがき続ける。
突然、首筋にずきんとした痛みを感じた。その痛みはぐりぐりと汐奈の中に埋め込まれていって、汐奈は思わず目を閉じた。
瞬間、重力が働いた。首ががくりと折れて、一気に意識が覚醒する。衝撃で机が揺れて、チープなデザインのシャープペンシルが転がって床に落ちたてカツンと音を立てる。
状況を確認しようとあたりを見回す。前方に黒板の前に立って何やら一生懸命に数式を並べる女子生徒。教卓に寄りかかり彼を見守る若い男性教師。右に頬杖をつきどこかに意識をトリップさせている女子生徒。左に必死に英語の課題をやる吉田。そして後ろには鉛筆を握ってにやにやと笑っている、森川。汐奈が寝ているのを見て厚意で起こしてくれたのが、単にイタズラしたくなったのか、おそらく後者だろうがとにかくこいつが鉛筆の先で汐奈の首筋を攻撃していたのだろう。
汐奈は、森川に苦笑いを返した。
先輩には関わらない方がいいと今朝決めたばかりなのに、昼休み汐奈は階段を降りて三年生のフロアに来ていた。今朝の吉田の情報提供によって、昨日なぜ先輩が屋上にいたのかすぐに合点がいっていたのだ。それに加え、先ほどの夢である。ぼっちメシくらいなら自分にも経験がある。便所メシくらいなら別にいじめられていなくてもしているやつを見たことがある。だが、カツアゲなどされていないかなどと考えていたらここまで来てしまったのだ。
(ちょっと昨日の怪我はどうなったかとか、声かけるだけならいいあるね?)
とか思いつつも汐奈の腕には自身の弁当が抱えられていた。
「振られたのか?」
結局先輩は黒いジャストサイズのセーターをブラウスの上から纏って、教室の端の席で「ぼっちメシ」していただけだった。今目の前にいるのは、普通に森川た。弁当を広げているのは汐奈だけで、森川はすでに食事を終えスマホを片手に話しかけてきた。
「・・・声もかけてねーあるよ」
「えっマジで男なのか?」
「女あるよ」
汐奈はため息まじりに答えた。森川のいったことを意訳すれば「好きな人なのか?」といったところなんだろうが、汐奈はそのまま直球に受け取って答えた。意訳した方に忠実に答えるなら、「ノー」というには少し躊躇われる。半年ほど前にはすでに視界に入ると目で追うようになっていた。今日なんか、意識に入ってきただけで探しに行ってしまったのだ。今までは「憧れ」という言葉で自分を丸め込んできたが、昨日二度目の接触をしてからずっと彼女のことばかり考えていて。
そうやって深く言葉を反芻して考え込む汐奈だが、聞いた方は「ふーん」と返しただけに終わった。それどころか変な時間に昼食を始めた汐奈にはもう興味がなくなったらしく、立ち上がってどこかに行ってしまった。
寂しさが胸を掠めて、汐奈は目を伏せた。
足音がする。
振り返る間もなく、足音は汐奈を追い越した。
明るい茶髪の三人組がまず汐奈の横を通り過ぎて、その後ろを従順についていくのは長い前髪に目を半分ほど隠している、先輩。
汐奈は背中にゾッとするものを感じ、慌てて腕を伸ばして先輩の腕を掴もうとした。だが、一歩手前のところで先輩の腕には触れられなかった。足を前に出して進もうとするが、水中にいるみたいに体がふわふわと浮くばかりで、全く前進できない。なんというか、重力を感じない。そのうち先輩たち一行は屋上の扉に吸い込まれていってしまう。汐奈は、その場でもがき続ける。
突然、首筋にずきんとした痛みを感じた。その痛みはぐりぐりと汐奈の中に埋め込まれていって、汐奈は思わず目を閉じた。
瞬間、重力が働いた。首ががくりと折れて、一気に意識が覚醒する。衝撃で机が揺れて、チープなデザインのシャープペンシルが転がって床に落ちたてカツンと音を立てる。
状況を確認しようとあたりを見回す。前方に黒板の前に立って何やら一生懸命に数式を並べる女子生徒。教卓に寄りかかり彼を見守る若い男性教師。右に頬杖をつきどこかに意識をトリップさせている女子生徒。左に必死に英語の課題をやる吉田。そして後ろには鉛筆を握ってにやにやと笑っている、森川。汐奈が寝ているのを見て厚意で起こしてくれたのが、単にイタズラしたくなったのか、おそらく後者だろうがとにかくこいつが鉛筆の先で汐奈の首筋を攻撃していたのだろう。
汐奈は、森川に苦笑いを返した。
先輩には関わらない方がいいと今朝決めたばかりなのに、昼休み汐奈は階段を降りて三年生のフロアに来ていた。今朝の吉田の情報提供によって、昨日なぜ先輩が屋上にいたのかすぐに合点がいっていたのだ。それに加え、先ほどの夢である。ぼっちメシくらいなら自分にも経験がある。便所メシくらいなら別にいじめられていなくてもしているやつを見たことがある。だが、カツアゲなどされていないかなどと考えていたらここまで来てしまったのだ。
(ちょっと昨日の怪我はどうなったかとか、声かけるだけならいいあるね?)
とか思いつつも汐奈の腕には自身の弁当が抱えられていた。
「振られたのか?」
結局先輩は黒いジャストサイズのセーターをブラウスの上から纏って、教室の端の席で「ぼっちメシ」していただけだった。今目の前にいるのは、普通に森川た。弁当を広げているのは汐奈だけで、森川はすでに食事を終えスマホを片手に話しかけてきた。
「・・・声もかけてねーあるよ」
「えっマジで男なのか?」
「女あるよ」
汐奈はため息まじりに答えた。森川のいったことを意訳すれば「好きな人なのか?」といったところなんだろうが、汐奈はそのまま直球に受け取って答えた。意訳した方に忠実に答えるなら、「ノー」というには少し躊躇われる。半年ほど前にはすでに視界に入ると目で追うようになっていた。今日なんか、意識に入ってきただけで探しに行ってしまったのだ。今までは「憧れ」という言葉で自分を丸め込んできたが、昨日二度目の接触をしてからずっと彼女のことばかり考えていて。
そうやって深く言葉を反芻して考え込む汐奈だが、聞いた方は「ふーん」と返しただけに終わった。それどころか変な時間に昼食を始めた汐奈にはもう興味がなくなったらしく、立ち上がってどこかに行ってしまった。
寂しさが胸を掠めて、汐奈は目を伏せた。