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01鐘 オニキスの天空竜

 雨雲が街完全を覆った頃、住民は慌てて建物の中へ入っていく。
今の時期、天気が変わりやすく且つ比較的に雨が多い。

「あと30分しない内に土砂降りになるな」

「嵐が来るね……」

「……明日まで降るな」

「やだ! お洗濯取り込まなきゃ!」

 住みつく者は“どのタイミングで雨が降るのか”を理解していた。
ーー否、今後の天候を“知らされている”という方が適切であろう。

 これからくる嵐を前に住民が忙しなくする中、その様子を窓ガラス越しに見つめる者がいた。

「暇だのぉう……」

 そう呟く者は人ではない。
全長は約25m、全身を包む程の大きな翼、鋼も噛み砕く鋭い牙。
そして漆黒の皮膚と鱗にあかの瞳を持つ竜であった。

「毎日毎日毎日毎日退屈じゃー」

 ふて腐れた声調で呟く。
一つ大きな欠伸を残し、腹這いになる。

 竜の役目はこの街を見守り続けること。
その実態は人として過ごすには広すぎる「竜の間」からただ窓越しに街の様子を見守り続けるものである。
祭りでもあれば見て楽しむことは可能であるが、今の時期は雨が多い分開催数は少なく、また、人口の減少の関係で街の資金も乏しくなり、催しものを増やすことは困難であった。

 外は雨が降り始めた。
始めはポツリ、ポツリと。
次第に勢いを増し、ついには足音すらかき消される程となる。

「……今日は一段と凄いのぉ……つまんない、つまんない、つまんない、つまんない」

 腹這いになりながら手足をバタつかせる。
それはダダをこねた子供のようであった。
因みにこの竜の年齢は人間でいうと20代半ば位であるが、精神面は子供っぽい節がある。

 ーーただ、この様子を知るものは数少ない。
雨音で僅かにかき消されながらも慌ただしい足音が耳に届いたのだ。
それは真っ直ぐ竜の間へ近づいていく。

 気だるい様子で体を起こし、この竜曰く“謁見モード”に入る。
迎える準備が整った時、両開きの扉が開いた。

「アキーク様! アキーク様!」

 謁見の際の作法は当に頭から抜けている様子であった。
見た目は十代後半くらいの少年。
髪は濡れ、服は泥まみれでぐちゃぐちゃだ。

「シャハル、どうしたのじゃ」

「アキーク様、大変です! 賢者の木に……賢者の木に……人が!」

「……は?」

 頭がついていけない。
なぜかと言えば、賢者の木に人が近づける筈がないのだ。

「とにかく……アキーク様の力が……必要なのです」

 それだけを言い残し、シャハルは竜の間から出ていってしまう。

「……」

 なぜ自分の力が必要なのか。問う間も無かった。
シャハルはいつも肝心なことを言わずにどこかへ行ってしまう。
ただ、彼の様子から緊急を要することであることは間違いは無い。
また、賢者の木に近づくことが可能なのはアキークを含めた一部の者しかいないのだ。

 アキークは真上を向き、ホール場となった竜の間が震える程の咆哮をあげる。
すると天井が縦に割れ、次第に開かれていった。

 荒れ狂う風と滝のような雨が全身を叩きつける。
大きな翼を広げ勢いよくはばたく。

 ーー賢者の木に何が?

 嵐の空へと舞い上がった。
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