このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

審神者の霊力が枯渇したので、ボランティアを募集します。



 部屋に入るなり、薬研は「大将、顔を見せてくれ」と言った。私は今まさに部屋の灯りをつけたところだったので、薬研を行灯のそばに座らせる。この部屋は、本当に寝起きするだけの部屋なので電気の照明がないのだ。短刀の薬研には、この灯りでも充分かもしれない。

 薬研は上品な顔をぐいと近づけて、私のことをまじまじと見る。一応湯上りに薄化粧もしてしまったが、診てもらう予定はなかったのだ。
 彼の前に座らされて、印象的な瞳が、私の目から頰、口元までを眺めていく。脈でも測っているのか、指先が輪郭のすぐ下に添えられる。

「うん、こりゃあ駄目だな。猶予がない」
「えっ」

 文字通り、じっと見ただけ。私にはそうとしか思えなかったが、薬研はあっさりと診断を下した。

「今夜手を打ったほうがいいだろうよ。……だが、話し合って一振り選ぶ時間はないな」
「あの調子だと、すぐには決まらないよね……」

 もうこの部屋でくじ引きを作って、問答無用で希望者に引かせたほうがいい気がしてきた。たぶんそう。みんな神様なんだから、くじも一番いい縁を結んでくれる気がする。

「大将としちゃあ、俺たちの誰が来ても良かったんだよな」

 薬研がぽつりと呟く。誤解があったら困るんだけど、いい意味で、誰でも良かったのだ。

「どうでもいいって言ってるんじゃなくてね……。みんないい人だし、申し訳ないくらいだよ」

 その答えに、薬研はほっとしたような顔をした。じゃあ、と紡がれる言葉は、例えば「頑張ってきな」「俺が決めてきてやる」。そういう、後押しをするものが続くとばかり思っていた。


「じゃあ、俺がその任を請けても問題ないな」

 …………ん……?
 その可愛い顔で、今放った言葉の意味するところは「俺が抱いてやる」。

 アリかナシかでいうと、見た目年齢を理由に、アリ寄りのナシ……という感じだ。本当にぎりぎりの境目。薬研に本気で惚れている女審神者が多々いるという事実で、なんとかアリに寄っている。
 というか、失礼ながら、できるの……? とも思う。それが理由で、私は即答ができなかった。
 性格とか声は、それはもうとてもアリなんですけど。お人形のように繊細な顔や細い手足を見ると、男というより少年でしかない。

 私が即答しないからか、薬研はもっともな事を言うように、あのなと語り始める。

「誰でもいいっつったって、限度があるだろ。大将、大太刀や薙刀の連中のモン、見たことあるか?」
「ないないない」

 短刀とお風呂に入ったこともないので、大太刀に限らずない。

「ありゃ男から見ても、体に入るのは神秘を感じるよ」

 ……言われてみれば、重要な問題だ。薬研が左手の指で何かを表現したジェスチャーから想像するそれは、恐ろしい。審神者生活で恋人を作ったことのない身に、文字通り余りある気がする。決めるのは刀剣男士だと思って、自分の限界を考えもしなかった。
 今の私には今夜に迫った問題なので、かなり生々しく想像してしまった。肉体的な都合を考えると、大柄ではなく、穏やかな性格の刀剣男士……くらいには、絞り込むことが出来そうだ。痛いのは、避けたいし。

 私の手を両手でぎゅっと握って、薬研は優しげな笑顔を見せる。湯冷めしたんじゃねぇかと言う薬研のほうが、少し温かい。
 で、私まだ薬研にお願いとは言ってないんですけど、なぜ手を握るんでしょうか。


「俺くらいの体格なら、あんたの負担も少ない。適任だと思うぜ」
「……たしかに……。薬研さん、近い」
「治療は俺の領分だ」
「あの、わかった、わかったから。それでいいんですけど、ちょっと待、んむっ……」

 彼の身体が軽いので、徐々に乗りかかられていることに、気付くのが遅れた。プレゼンも早々に、口で口を塞がれる。冷えた唇から生温かい舌がもぐりこんで、灯りが消されて文字通り暗転。


 霊力、無事に? 戻りました……。
2/2ページ
スキ