審神者の霊力が枯渇したので、ボランティアを募集します。
◆
部屋に入るなり、薬研は「大将、顔を見せてくれ」と言った。私は今まさに部屋の灯りをつけたところだったので、薬研を行灯のそばに座らせる。この部屋は、本当に寝起きするだけの部屋なので電気の照明がないのだ。短刀の薬研には、この灯りでも充分かもしれない。
薬研は上品な顔をぐいと近づけて、私のことをまじまじと見る。一応湯上りに薄化粧もしてしまったが、診てもらう予定はなかったのだ。
彼の前に座らされて、印象的な瞳が、私の目から頰、口元までを眺めていく。脈でも測っているのか、指先が輪郭のすぐ下に添えられる。
「うん、こりゃあ駄目だな。猶予がない」
「えっ」
文字通り、じっと見ただけ。私にはそうとしか思えなかったが、薬研はあっさりと診断を下した。
「今夜手を打ったほうがいいだろうよ。……だが、話し合って一振り選ぶ時間はないな」
「あの調子だと、すぐには決まらないよね……」
もうこの部屋でくじ引きを作って、問答無用で希望者に引かせたほうがいい気がしてきた。たぶんそう。みんな神様なんだから、くじも一番いい縁を結んでくれる気がする。
「大将としちゃあ、俺たちの誰が来ても良かったんだよな」
薬研がぽつりと呟く。誤解があったら困るんだけど、いい意味で、誰でも良かったのだ。
「どうでもいいって言ってるんじゃなくてね……。みんないい人だし、申し訳ないくらいだよ」
その答えに、薬研はほっとしたような顔をした。じゃあ、と紡がれる言葉は、例えば「頑張ってきな」「俺が決めてきてやる」。そういう、後押しをするものが続くとばかり思っていた。
「じゃあ、俺がその任を請けても問題ないな」
…………ん……?
その可愛い顔で、今放った言葉の意味するところは「俺が抱いてやる」。
アリかナシかでいうと、見た目年齢を理由に、アリ寄りのナシ……という感じだ。本当にぎりぎりの境目。薬研に本気で惚れている女審神者が多々いるという事実で、なんとかアリに寄っている。
というか、失礼ながら、できるの……? とも思う。それが理由で、私は即答ができなかった。
性格とか声は、それはもうとてもアリなんですけど。お人形のように繊細な顔や細い手足を見ると、男というより少年でしかない。
私が即答しないからか、薬研はもっともな事を言うように、あのなと語り始める。
「誰でもいいっつったって、限度があるだろ。大将、大太刀や薙刀の連中のモン、見たことあるか?」
「ないないない」
短刀とお風呂に入ったこともないので、大太刀に限らずない。
「ありゃ男から見ても、体に入るのは神秘を感じるよ」
……言われてみれば、重要な問題だ。薬研が左手の指で何かを表現したジェスチャーから想像するそれは、恐ろしい。審神者生活で恋人を作ったことのない身に、文字通り余りある気がする。決めるのは刀剣男士だと思って、自分の限界を考えもしなかった。
今の私には今夜に迫った問題なので、かなり生々しく想像してしまった。肉体的な都合を考えると、大柄ではなく、穏やかな性格の刀剣男士……くらいには、絞り込むことが出来そうだ。痛いのは、避けたいし。
私の手を両手でぎゅっと握って、薬研は優しげな笑顔を見せる。湯冷めしたんじゃねぇかと言う薬研のほうが、少し温かい。
で、私まだ薬研にお願いとは言ってないんですけど、なぜ手を握るんでしょうか。
「俺くらいの体格なら、あんたの負担も少ない。適任だと思うぜ」
「……たしかに……。薬研さん、近い」
「治療は俺の領分だ」
「あの、わかった、わかったから。それでいいんですけど、ちょっと待、んむっ……」
彼の身体が軽いので、徐々に乗りかかられていることに、気付くのが遅れた。プレゼンも早々に、口で口を塞がれる。冷えた唇から生温かい舌がもぐりこんで、灯りが消されて文字通り暗転。
霊力、無事に? 戻りました……。
部屋に入るなり、薬研は「大将、顔を見せてくれ」と言った。私は今まさに部屋の灯りをつけたところだったので、薬研を行灯のそばに座らせる。この部屋は、本当に寝起きするだけの部屋なので電気の照明がないのだ。短刀の薬研には、この灯りでも充分かもしれない。
薬研は上品な顔をぐいと近づけて、私のことをまじまじと見る。一応湯上りに薄化粧もしてしまったが、診てもらう予定はなかったのだ。
彼の前に座らされて、印象的な瞳が、私の目から頰、口元までを眺めていく。脈でも測っているのか、指先が輪郭のすぐ下に添えられる。
「うん、こりゃあ駄目だな。猶予がない」
「えっ」
文字通り、じっと見ただけ。私にはそうとしか思えなかったが、薬研はあっさりと診断を下した。
「今夜手を打ったほうがいいだろうよ。……だが、話し合って一振り選ぶ時間はないな」
「あの調子だと、すぐには決まらないよね……」
もうこの部屋でくじ引きを作って、問答無用で希望者に引かせたほうがいい気がしてきた。たぶんそう。みんな神様なんだから、くじも一番いい縁を結んでくれる気がする。
「大将としちゃあ、俺たちの誰が来ても良かったんだよな」
薬研がぽつりと呟く。誤解があったら困るんだけど、いい意味で、誰でも良かったのだ。
「どうでもいいって言ってるんじゃなくてね……。みんないい人だし、申し訳ないくらいだよ」
その答えに、薬研はほっとしたような顔をした。じゃあ、と紡がれる言葉は、例えば「頑張ってきな」「俺が決めてきてやる」。そういう、後押しをするものが続くとばかり思っていた。
「じゃあ、俺がその任を請けても問題ないな」
…………ん……?
その可愛い顔で、今放った言葉の意味するところは「俺が抱いてやる」。
アリかナシかでいうと、見た目年齢を理由に、アリ寄りのナシ……という感じだ。本当にぎりぎりの境目。薬研に本気で惚れている女審神者が多々いるという事実で、なんとかアリに寄っている。
というか、失礼ながら、できるの……? とも思う。それが理由で、私は即答ができなかった。
性格とか声は、それはもうとてもアリなんですけど。お人形のように繊細な顔や細い手足を見ると、男というより少年でしかない。
私が即答しないからか、薬研はもっともな事を言うように、あのなと語り始める。
「誰でもいいっつったって、限度があるだろ。大将、大太刀や薙刀の連中のモン、見たことあるか?」
「ないないない」
短刀とお風呂に入ったこともないので、大太刀に限らずない。
「ありゃ男から見ても、体に入るのは神秘を感じるよ」
……言われてみれば、重要な問題だ。薬研が左手の指で何かを表現したジェスチャーから想像するそれは、恐ろしい。審神者生活で恋人を作ったことのない身に、文字通り余りある気がする。決めるのは刀剣男士だと思って、自分の限界を考えもしなかった。
今の私には今夜に迫った問題なので、かなり生々しく想像してしまった。肉体的な都合を考えると、大柄ではなく、穏やかな性格の刀剣男士……くらいには、絞り込むことが出来そうだ。痛いのは、避けたいし。
私の手を両手でぎゅっと握って、薬研は優しげな笑顔を見せる。湯冷めしたんじゃねぇかと言う薬研のほうが、少し温かい。
で、私まだ薬研にお願いとは言ってないんですけど、なぜ手を握るんでしょうか。
「俺くらいの体格なら、あんたの負担も少ない。適任だと思うぜ」
「……たしかに……。薬研さん、近い」
「治療は俺の領分だ」
「あの、わかった、わかったから。それでいいんですけど、ちょっと待、んむっ……」
彼の身体が軽いので、徐々に乗りかかられていることに、気付くのが遅れた。プレゼンも早々に、口で口を塞がれる。冷えた唇から生温かい舌がもぐりこんで、灯りが消されて文字通り暗転。
霊力、無事に? 戻りました……。
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