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第2話

✾ 場地圭介 ✾




 帰り道、水都は何も喋らなかった。いや、今日だけじゃない。俺たちが過ちを犯して以来、彼女は俺と必要以上に喋ろうとしなかった。いっそ罵ってくれれば楽なのに、そのことには一切触れず淡白な日々を過ごしていた。


「ごめんな水都」


 コイツも歴とした被害者だ。彼女はその場にいなかったから関係ないはずなのに、俺の姉弟という理由だけで肩身の狭い思いをしている。あんなに好きだと言っていた生徒会も、俺のせいで辞めさせられた。


「許されることじゃねぇのは分かってる。…でも、ごめん…!」


 マイキーや真一郎くんだけじゃない、俺はたった一人の姉の人生すらも滅茶苦茶にした。何故あの時一虎を止めなかったのか、何故踏みとどまることができなかったのか、後悔は積もるばかりだ。


「…お前は何で私に謝ってるんだ?」
「お前から全てを奪った…」
「 私何も奪われてないけど?」


 思わず目を見開いた。一体コイツは何を言っているんだ?お前はあんなに大事にしていた学校での立場を失ったんだぞ?俺のせいで、滅茶苦茶になったんだぞ?


「言わなかったっけ?私の一番は東卍だって」
「…でも」
「でもじゃねぇよ。私の大切なものは何一つ無くなってない。だからお前は、私に負い目感じる必要無いんだよ」


 その言葉を聞いた瞬間、ずっと霧がかかっていた視界が一気に開けた気がした。自分の意志とは正反対に流れていく涙を止めることができない。絶対嫌われたと思っていたのに、彼女は俺を許してくれた。


「泣くなよ圭介。男だろ?」


 うるせぇそんなの分かってる。泣きたくなんてないのに、勝手に涙が流れちまうんだよ。お前があまりにも優しいこと言うから、嬉しくて哀しくて仕方ないんだよ。


「私たちで、マイキーと一虎を支えてやろうな。…大丈夫、絶対に大丈夫だよ」


 姉の温もりを感じる。俺より少しだけ背が高いだけなのに、何故こんなにも大きく感じるのだろう。こんなにも涙を止めたいと思っているのに、何故止めれねぇんだろう。


「辛かったよな。…お前はよく頑張った」


 姉の背中に腕を回す。この短期間の出来事が走馬灯のように蘇ってきて、俺は暫く水都の腕の中で声を上げて泣いていた。




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