第7話
血のハロウィン騒動が収まってようやく日常が戻ってきた。東卍を抜けようと思っていた俺だが、総長と話し合った結果、辞めずに壱番隊副隊長として新たな隊長タケミっちを支えることを決意した。
「…水都さん、どうしてんだろ」
タケミっちと行動を共にすることが増えた俺は、水都さんと会う機会が減った。集会以来顔を見てないが、元気にしてるだろうか。同じ学校とはいえ学年が違うものだから偶然出会う確率は案外低かったりする。あの人のことだから普段どおり真面目に学校生活を楽しんでいるだろうが、久しぶりに顔が見たい。
そう思って放課後彼女のクラスを覗いてみたのだが、誰もいない教室で机に突っ伏してる彼女に少し驚いた。
「…寝てるんすか?」
眼鏡を外して髪を解いているところを見れば、寝落ちというわけではないのだろう。だったら起こすのも悪いし帰ろう、そう思って小さく息を吐いた時、彼女の体が少しだけ動いた。そして黒髪の隙間から見えた寝顔に思わずギョッとした。
「…すごいクマ」
色白だから余計に目立つ。受験生だから勉強も大変なんだろうが、こんなに痛々しい姿になるまでやる必要はあるのか?綺麗な顔は健全だけど、綺麗だからこそ分かりやすくて恐ろしい。
思わずその目元に触れた瞬間、彼女が小さく呻いた。咄嗟に手を引っ込めて距離を置くが、彼女が目覚めることはなかった。その代わり、今にも消え入りそうな声であの人の名前を呼んだのだ。
「圭介…」
か細い声と共に、長いまつ毛の下から一筋の涙がこぼれ落ちる。窓から差し込む夕日に照らされて光るその涙があまりにも綺麗で、初めて見る水都さんの涙があまりにも哀しくて、気付けば俺まで泣いていた。
「…水都さん」
そうだ、辛くないわけない。泣かないわけがない。誰にも弱さを見せられないだけで、本当は毎日のように泣いていたのだろう。誰にも見られないように、気付かれないように静かに泣いていたのだ。この人は強いわけじゃなくて、強くあろうとしていただけなんだ。
「泣くなよ水都ぉ」
きっと場地さんならこう言う。俺はあの人の代わりになんてなれないけど、誰よりもあの人を見てきたからこそよく分かる。いつも凛としている水都さんの弱い部分、場地さんは唯一知っていたのだ。
「…大丈夫っすよ。俺が絶対、守りますから」
場地さんが命を賭けて守りたかった宝、俺が絶対守ります。アンタが愛した不器用なお姉さん、俺が絶対に守りますから。