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第1話

✾ 場地圭介 ✾




 俺には双子の姉がいる。強くて賢くて何でもできる、天才という言葉がぴったりの自慢の姉だ。俺より喧嘩が強いのは少し癪だけど、もっと大きくなればきっとアイツを追い越せる。そう思ってるから特に姉を疎んだことはなかった。


「水都も来れば良かったのに。なんで連れてこなかったんだよ場地ぃ」
「めちゃくちゃ連れて来ようとしたわ!アイツ最近付き合い悪過ぎんだよ。何が生徒会だ、真面目振りやがって」


 隣を走りながら文句を言ってくる一虎を睨む。なんで来ないかなんて、そんなの俺が一番思ってる。アイツの人生だから何をしようとアイツの自由だが、俺達よりも生徒会を選んだ水都に心底苛ついていた。


「水都はもともと真面目だろー?お前も少しは見習えばー?」
「うるっせえよ三ツ谷!!喧嘩売ってんのか!?」
「お前らうるせぇよ。…さすがに水都も嫌だったんじゃねぇの、野郎に混ざって海行くの。アイツ腕っぷしは男並みだけどそれ以外は歴とした女だし」
「お前馬鹿かドラケン。アイツ未だに俺の入浴邪魔してくるからな。そんな奴のどこが歴とした女なんだ?」
「え、お前水都と一緒に風呂入ってんの?ずりー、今度写真撮ってきてくれよ」
「…お前最低だな一虎」
「言っとくけどアイツの体は俺と変わんねぇからな。胸なんてものはねぇからな。違いと言えば付いてねぇことくらいだからな」
「お前の方が最低だったわ」


 こうやって仲間と馬鹿言っていれば嫌なことも忘れてしまえる。水都が俺から離れていくなんて嫌だと、素直に言えたらどんなに良いか。ずっと一緒に走っていて欲しいと言えたらどんなに良いか。


「…重いよな、それは」
「え、なんて?」
「いや、何でもねぇ独り言!」


 アイツが離れたいと言うのなら止めては駄目だ。何やかんや甘い奴だから俺が言えば立ち止まってくれるだろうが、そんな窮屈な思いをさせたくない。悪態付きながらも側にいてくれる強く優しい姉だからこそ、チンケな独占欲で縛り付けてはならない。


「おいマイキー!遅ぇぞ!」


 後ろで原チャをノロノロと走らせているマイキーを怒鳴り付ける。奴と出会う前まではひたすら姉に依存していた俺だが、奴とつるむようになってからは依存という名の憧れが徐々に移動していった。
 今俺が水都に抱いている感情に名前を付けるとするならば、それはきっと愛情だろう。




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