第6話
一虎の背中を黙って見つめる彼女はどんな顔をしているのだろう。この人はいつも冷静だから、何を思っているのかよく分からないのが本音だったりする。そしてこの人も、一虎にされるがままだったのを見て俺がどんな思いでいたか知らないだろう。
「…あの」
「帰るか千冬」
そう言って振り向いた彼女はいつもの水都さんだった。にこやかに笑って、俺の先を歩き出す。さっきのことは無かったように明るい声で他愛のない会話を続けた。
「てかお前なんでこんなとこいんの?」
「あ、少し用があって…」
本当だけど半分は嘘だ。この周辺を歩いていたのは事実だが、路地裏に入っていく水都さんを見かけて後をつけたというのが本当の理由。最初は影から見守っていただけだったけど、水都さんがあまりにも抵抗しないから思わず飛び出してしまった。
「…へぇ。ガキの出歩く時間じゃねえな」
「いやアンタも俺と変わんねぇっしょ」
今に始まったことじゃないが、この人は俺を何だと思ってるんだろう。確かに歳下だけど一個しか変わらねぇんだからガキ呼ばわりされる覚えはない。
ははっと軽快に笑った水都さんの横顔を盗み見れば、前を見据える瞳に少し元気がないような気がした。
「あの、水都さん」
「んー?」
大丈夫ですか──そう聞こうと思ったけど聞けなかった。視線だけを俺に向けて返事をした彼女の瞳が、そんなこと聞くなと言っているようだったから。
「…何か知ってるんすか?」
代わりに絞り出した問に、彼女は「さぁ」と素っ気ない返事をした。そして暫くの静寂の後、微かに目を細めて低い声でこう言った。
「でも、誰を潰すべきかは分かってる。…そしてそれは一虎じゃない」