第十四章

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 夏休みが明けてから初めての週末、兄たちと共に神奈川を訪ねた私は、初めてあの二人を怖いと思った。でも、少し気持ちが落ち着いてからは前向きになってきて、今まで知らなかった友人の新たな一面を見れたと思えるようになったいた。
 あの日以来、暫しの間途絶えていた精ちゃんからの連絡が復活し、彼とは少なくとも一日一回はメッセージのやり取りをするようになっていた。切れたと思っていた縁が復活するのは嬉しいもので、例え会えなくても互いの近況を報告したり何気ない日常を共有できるのはこの上ない幸せだ。


「今週の土曜日、お願いしますね」
「こちらこそ。君から誘って貰える日がくるなんて思ってなかったから嬉しいよ」
「言っときますけど、誘ったのは兄ですから」
「クスッ、そうだね」


 週明け、学校の自販機の前で偶然出会った不二さんに海原祭のことを念押せば、彼は楽しそうに肩をすくめた。今の感じだと、兄は経緯を割りと詳しく彼に話したのかもしれない。それは全然構わないのだが、今まで彼を煙たがっていたこともあり申し訳ないような恥ずかしいような気持ちになってしまう。


「そうだ、そのことで一つ相談があるんだけど」
「あ、はいどうぞ」


 少し後ろめたい気持ちになっていた私は、思い立ったように声を発した彼に驚いたこともあって、普段よりも一層素っ気ない返答をしてしまった。きっと相手が不二さんじゃなかったら、二度と私に近寄ろうとしないだろうなってくらいには冷たい言い方だったと思う。
 それでも気にしないのが不二周助という人間で、彼は何もなかったかのように穏やかな視線を向けると言葉を続けた。


「僕の弟も誘って良い?」
「…弟さんがいるんですか?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「聞いてませんね」


 正確には覚えていない。私は興味のない人の話を雑音として処理してしまう癖があるから、まだ私が不二さんに良い印象を持ってなかった頃に聞いた話であれば聞き流している可能性が高い。


「そうだったかなぁ」
「誘って貰うのは構いませんよ。弟さんが大丈夫なら」


 私の悪い癖で彼を不快にさせたくないという思いと、面倒事は避けたいという気持ちが大きくなったから強引に話を終わらそうと早口でそう言えば、不二さんはクスクスと笑った。


「ありがとう。弟は裕太っていうんだ。きっと君とは仲良くなれると思うから、よろしくね」


 そう言って私の頭に手を置くと、彼は校舎の方へ歩いて行った。そんな不二さんの背中を見つめていると、彼が面倒見の良い理由が分かった気がして何だか微笑ましくなってしまった。




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