第十四章
♢♢♢ 第十四章 ♢♢♢
『海原祭に来ない?』
9月も半ばに差し掛かったある日、精ちゃんからこんなLINEがきた。一瞬何のことか分からなくて目が点になったけど、字面を見るに恐らく立海の文化祭のことだろう。" 海原祭" なんて随分と洒落た名前だ。
『行きたい!いつあるの?』
他校の文化祭なんて行ったことがないから既にワクワクしている。他校と言ったが、そもそも私は学校行事にあまり積極的じゃないので昨年の青春学園の文化祭すらあまり覚えていない。出し物で何をしたかもはっきり思い出せないくらいには記憶に残っていないのだ。
でも、他でもない精ちゃんが誘ってくれた文化祭ならきっと一生忘れない。精ちゃんはどんな出し物するのかな、なんて柄にもなくワクワクしてしまう。
『来週の土日だよ。どっちでも大丈夫だから時間取れたら来てよ』
『私は基本的に暇人なの。休み明けのことを考えて土曜日に行くね』
自分で打っていて恥ずかしくないのかと聞かれそうだが全くもって恥ずかしくなどない。部活という部活をしていない私に休日の予定などあるわけもなくて、いつもすることと言えば勉強かテニスくらいだ。
『やった!一人で来るのは寂しいだろうから、友達と一緒に来たら良いよ』
『私友達いないんだよね』
『そんなことないでしょ(笑)』
『あるのよそれが』
そこまで打って思わずため息が出た。私に友達がいないのは紛うことなき事実だから恥ずかしいとも情けないとも思わないが、確かに私一人であのマンモス校に乗り込むのは心許ない。取り敢えずは当日までに誰か着いてきてくれそうな人を探さなくては。
私は携帯を机に置くと、就寝前に本を読んでいるであろう兄の部屋の前に立つと軽く3回ノックした。
「どうした?」
少しの間も空けずドアを開けてくれた兄に少しだけ肩身が狭くなるが、不思議そうに私を見下ろす兄なら私の頼みも快く受け入れてくれると思えた。
「ねえ兄さん、次の土曜日予定ある?」
「土曜日?今のところ無いが…」
「なら、その日一日付き合ってくれない?」
兄の目が少しだけ大きく見開かれた。私が自分から誰かを誘うのは珍しいことで、当然兄は私が単独行動を好むとよく知っているから意外に思うのは無理もない。
「構わないが…行きたいところでもあるのか?」
「うん、あるの。どこだと思う?」
兄は顎に手を当てて考える素振りをする。取り敢えず私が好みそうな場所を頭の中で並べて、片っ端から消去していってるのだろう。ただでさえ険しく見える表情が余計に険しくなってるから何だか悪いことした気分になってしまう。だから私は一つ深呼吸すると、兄の肩を軽く叩いて微笑んだ。
「海原祭に行きたいの」
「…ああ、立海の文化祭か」
さすが兄さん、理解が早い。私が兄なら間髪入れず聞き返していた。やっぱり私は何から何まで兄には敵わないな、なんて嬉しいような悲しいような複雑な気持ちになるけど気にしたら負けだ。
「そういえば桃城が行くと言っていたな」
「へぇ、それはまたどうして?」
「真田から招待状が届いてな…テニス部宛に」
「そうなの、それは初耳だわ」
立海にはそういう文化があるのだろうか。あるいは、立海に限らず部活繋がりで他校との関わりはあるもので、単に私が知らなかっただけかもしれない。いずれにしても、学校を超えた交流が行われているというのは何だか夢のある話で素敵だと思う。
「ならどうしようか…。兄さんはあまり行きたくない?」
「いや、行こう。せっかくお前が誘ってくれたんだ」
「良いの?」
兄が一緒に来てくれたらこれ以上の喜びは無いんだけど、無理させてないか不安になる。そもそもよく考えたら、妹と二人で文化祭って思春期男子からしたらまあまあ嫌なのでは?
そう思うと何だか急に申し訳なくなってきて、無意識のうちにとんでもないことを口走っていた。
「そうだ、不二さん!不二さんも誘わない?」
「不二?…俺は構わないがお前は良いのか?」
「うん、良い!私不二さん大好きだから!」
さすがに今のは嘘くさかった。兄は優しいから特に突っ込んでこないけど、他の人だったら絶対何か言われてる。でも今回ばかりはこれで良い、兄のためにも不二さんには犠牲になって貰おう。
「私が誘ったら変な感じになっちゃうから、兄さんから声かけて貰って良い?」
「ああ、それは構わないが…」
「ありがと。それじゃ、取り敢えず向こうに昼前到着を目処に動きましょう」
よろしくね、と兄の腕を軽く叩いて逃げるように自室へ戻った私は、机の上に置きっ放しにしていた携帯を手に取ると勢いよくベッドに倒れ込んだ。何だかとんでもないことをしでかしてしまった気がするけど、こういうのもたまには良いじゃない。不二さんと兄は仲が良いし、何やかんや良い仕事したかもしれない。
『海原祭に来ない?』
9月も半ばに差し掛かったある日、精ちゃんからこんなLINEがきた。一瞬何のことか分からなくて目が点になったけど、字面を見るに恐らく立海の文化祭のことだろう。" 海原祭" なんて随分と洒落た名前だ。
『行きたい!いつあるの?』
他校の文化祭なんて行ったことがないから既にワクワクしている。他校と言ったが、そもそも私は学校行事にあまり積極的じゃないので昨年の青春学園の文化祭すらあまり覚えていない。出し物で何をしたかもはっきり思い出せないくらいには記憶に残っていないのだ。
でも、他でもない精ちゃんが誘ってくれた文化祭ならきっと一生忘れない。精ちゃんはどんな出し物するのかな、なんて柄にもなくワクワクしてしまう。
『来週の土日だよ。どっちでも大丈夫だから時間取れたら来てよ』
『私は基本的に暇人なの。休み明けのことを考えて土曜日に行くね』
自分で打っていて恥ずかしくないのかと聞かれそうだが全くもって恥ずかしくなどない。部活という部活をしていない私に休日の予定などあるわけもなくて、いつもすることと言えば勉強かテニスくらいだ。
『やった!一人で来るのは寂しいだろうから、友達と一緒に来たら良いよ』
『私友達いないんだよね』
『そんなことないでしょ(笑)』
『あるのよそれが』
そこまで打って思わずため息が出た。私に友達がいないのは紛うことなき事実だから恥ずかしいとも情けないとも思わないが、確かに私一人であのマンモス校に乗り込むのは心許ない。取り敢えずは当日までに誰か着いてきてくれそうな人を探さなくては。
私は携帯を机に置くと、就寝前に本を読んでいるであろう兄の部屋の前に立つと軽く3回ノックした。
「どうした?」
少しの間も空けずドアを開けてくれた兄に少しだけ肩身が狭くなるが、不思議そうに私を見下ろす兄なら私の頼みも快く受け入れてくれると思えた。
「ねえ兄さん、次の土曜日予定ある?」
「土曜日?今のところ無いが…」
「なら、その日一日付き合ってくれない?」
兄の目が少しだけ大きく見開かれた。私が自分から誰かを誘うのは珍しいことで、当然兄は私が単独行動を好むとよく知っているから意外に思うのは無理もない。
「構わないが…行きたいところでもあるのか?」
「うん、あるの。どこだと思う?」
兄は顎に手を当てて考える素振りをする。取り敢えず私が好みそうな場所を頭の中で並べて、片っ端から消去していってるのだろう。ただでさえ険しく見える表情が余計に険しくなってるから何だか悪いことした気分になってしまう。だから私は一つ深呼吸すると、兄の肩を軽く叩いて微笑んだ。
「海原祭に行きたいの」
「…ああ、立海の文化祭か」
さすが兄さん、理解が早い。私が兄なら間髪入れず聞き返していた。やっぱり私は何から何まで兄には敵わないな、なんて嬉しいような悲しいような複雑な気持ちになるけど気にしたら負けだ。
「そういえば桃城が行くと言っていたな」
「へぇ、それはまたどうして?」
「真田から招待状が届いてな…テニス部宛に」
「そうなの、それは初耳だわ」
立海にはそういう文化があるのだろうか。あるいは、立海に限らず部活繋がりで他校との関わりはあるもので、単に私が知らなかっただけかもしれない。いずれにしても、学校を超えた交流が行われているというのは何だか夢のある話で素敵だと思う。
「ならどうしようか…。兄さんはあまり行きたくない?」
「いや、行こう。せっかくお前が誘ってくれたんだ」
「良いの?」
兄が一緒に来てくれたらこれ以上の喜びは無いんだけど、無理させてないか不安になる。そもそもよく考えたら、妹と二人で文化祭って思春期男子からしたらまあまあ嫌なのでは?
そう思うと何だか急に申し訳なくなってきて、無意識のうちにとんでもないことを口走っていた。
「そうだ、不二さん!不二さんも誘わない?」
「不二?…俺は構わないがお前は良いのか?」
「うん、良い!私不二さん大好きだから!」
さすがに今のは嘘くさかった。兄は優しいから特に突っ込んでこないけど、他の人だったら絶対何か言われてる。でも今回ばかりはこれで良い、兄のためにも不二さんには犠牲になって貰おう。
「私が誘ったら変な感じになっちゃうから、兄さんから声かけて貰って良い?」
「ああ、それは構わないが…」
「ありがと。それじゃ、取り敢えず向こうに昼前到着を目処に動きましょう」
よろしくね、と兄の腕を軽く叩いて逃げるように自室へ戻った私は、机の上に置きっ放しにしていた携帯を手に取ると勢いよくベッドに倒れ込んだ。何だかとんでもないことをしでかしてしまった気がするけど、こういうのもたまには良いじゃない。不二さんと兄は仲が良いし、何やかんや良い仕事したかもしれない。