第一章
* * *
友達なんていらない。薄っぺらい褒め言葉とも言えない褒め言葉ばかりかけてくる偽りの友達なんていらない。
「さすがあの手塚の妹!」
「さすが、秀才の妹は秀才!」
「天才の妹は天才!」
うるさいうるさい聞き飽きたわ。妹、妹ってうるさいのよ。あんた達に私の何が分かるの。あんた達にお兄ちゃんの何が分かるの。
「でもやっぱり、兄貴には勝てないよなぁ」
うるさいわね、殺されたいの?勝てないなんてなんで分かるの。私のことも兄のことも、何も知らないあんた達に何が分かるの。
こんなこと言われるくらいなら、一人でいる方がずっとマシ。学校は立場があるから今更変えられないけど、この新しいテニススクールでは誰にも何も言わせないから。兄のことなんて、絶対に言わせないから。
「あいつの兄、桁違いにテニス強いらしいぜ」
「それ俺も聞いた!大会には出ないけど滅茶苦茶ヤバイって」
「それマジかよ⁉…なんだ結局血筋かよ」
更衣室から聞こえてきた声に息が止まるかと思った。なんで、なんで知ってるの。私誰にも言ってないのに。コーチにも内緒にしてくれと言ったのに。噂好きのおばさん達から仕入れてきたの?
「それは違うだろ。あの子の実力はあの子の努力の賜物だろ。血筋なんかじゃないよ」
「そのとおりだ。いくら天才と言えども、努力なしで強くはなれん」
更に息が止まりそうになる。なんで、なんで貴方たちがそんなこと言うの。全然仲良くないはずなのに、なんでそんな庇うようなこと言うの。なんで、私が一番欲しかった言葉を言ってしまうの。
「いや、まぁそうかもしんねぇけど…」
「まぁでも、どうせ兄には劣るんだろ?」
プツンと何かが切れる音がした。切れたのは怒りの糸ではなくて悲しみの糸だ。煮えたぎるほどの怒りの代わりに涙が溢れそうになる。でも、絶対泣きたくない。あんな心無い奴らの言葉で泣いてなんかやるもんか。
「お兄さんと比べること自体がおかしいと思うけど」
「全くだ。不毛でしかない」
限界だ。これ以上聞いていたら泣いてしまう。悔しいんじゃない、嬉しいの。兄以外で初めて私を見てくれた、全然仲良くない二人の男の子。きっと私のこと大嫌いだろうけど、今この瞬間、私は彼らのことが好きになった。
「失礼!」
「 うわぁっ!!」
着替え中の男子更衣室にズカズカと踏み込む私は相当ヤバい人間だろう。でも、いくら男子と言えど小学生しかいないでしょう?ならそこまでビビる必要もないはずだ。
「おいお前…!ここは男子更衣室だぞ、出ていけ!」
「出ていくわよ、すぐにね」
腕を掴んできた真田の手を振り払った私は、噂をしていたであろう三人組のリーダー格に詰め寄るとバンっとロッカーに手を置いた。そう、これはいわゆる壁ドンというやつだ。
「私、天才でもなんでもない。あんた達の言うとおり、兄より弱い。…でも、あんた達よりずっと努力してるしあんた達よりはずっと強い。間違いなくね」
心が軽くなった。ずっと、皆に言ってやりたかった。兄と私を比べる全ての人に、両親に、言ってやりたくて仕方なかった。
「異論があるなら勝負しましょう?…テニスでね」
ああ、なんて気分が良いの。兄から離れた日の何百倍も何千倍も、身体が軽くて清々しい。
きっとこれは彼らのおかげね。私を手塚優里という一人の人間として見てくれた、初めてのお友達になれそうな二人組。
「ありがとうね」
呆然としてる二人に軽く頭を下げると、私は軽い足取りで殺伐とした空気の更衣室を後にした。
友達なんていらない。薄っぺらい褒め言葉とも言えない褒め言葉ばかりかけてくる偽りの友達なんていらない。
「さすがあの手塚の妹!」
「さすが、秀才の妹は秀才!」
「天才の妹は天才!」
うるさいうるさい聞き飽きたわ。妹、妹ってうるさいのよ。あんた達に私の何が分かるの。あんた達にお兄ちゃんの何が分かるの。
「でもやっぱり、兄貴には勝てないよなぁ」
うるさいわね、殺されたいの?勝てないなんてなんで分かるの。私のことも兄のことも、何も知らないあんた達に何が分かるの。
こんなこと言われるくらいなら、一人でいる方がずっとマシ。学校は立場があるから今更変えられないけど、この新しいテニススクールでは誰にも何も言わせないから。兄のことなんて、絶対に言わせないから。
「あいつの兄、桁違いにテニス強いらしいぜ」
「それ俺も聞いた!大会には出ないけど滅茶苦茶ヤバイって」
「それマジかよ⁉…なんだ結局血筋かよ」
更衣室から聞こえてきた声に息が止まるかと思った。なんで、なんで知ってるの。私誰にも言ってないのに。コーチにも内緒にしてくれと言ったのに。噂好きのおばさん達から仕入れてきたの?
「それは違うだろ。あの子の実力はあの子の努力の賜物だろ。血筋なんかじゃないよ」
「そのとおりだ。いくら天才と言えども、努力なしで強くはなれん」
更に息が止まりそうになる。なんで、なんで貴方たちがそんなこと言うの。全然仲良くないはずなのに、なんでそんな庇うようなこと言うの。なんで、私が一番欲しかった言葉を言ってしまうの。
「いや、まぁそうかもしんねぇけど…」
「まぁでも、どうせ兄には劣るんだろ?」
プツンと何かが切れる音がした。切れたのは怒りの糸ではなくて悲しみの糸だ。煮えたぎるほどの怒りの代わりに涙が溢れそうになる。でも、絶対泣きたくない。あんな心無い奴らの言葉で泣いてなんかやるもんか。
「お兄さんと比べること自体がおかしいと思うけど」
「全くだ。不毛でしかない」
限界だ。これ以上聞いていたら泣いてしまう。悔しいんじゃない、嬉しいの。兄以外で初めて私を見てくれた、全然仲良くない二人の男の子。きっと私のこと大嫌いだろうけど、今この瞬間、私は彼らのことが好きになった。
「失礼!」
「 うわぁっ!!」
着替え中の男子更衣室にズカズカと踏み込む私は相当ヤバい人間だろう。でも、いくら男子と言えど小学生しかいないでしょう?ならそこまでビビる必要もないはずだ。
「おいお前…!ここは男子更衣室だぞ、出ていけ!」
「出ていくわよ、すぐにね」
腕を掴んできた真田の手を振り払った私は、噂をしていたであろう三人組のリーダー格に詰め寄るとバンっとロッカーに手を置いた。そう、これはいわゆる壁ドンというやつだ。
「私、天才でもなんでもない。あんた達の言うとおり、兄より弱い。…でも、あんた達よりずっと努力してるしあんた達よりはずっと強い。間違いなくね」
心が軽くなった。ずっと、皆に言ってやりたかった。兄と私を比べる全ての人に、両親に、言ってやりたくて仕方なかった。
「異論があるなら勝負しましょう?…テニスでね」
ああ、なんて気分が良いの。兄から離れた日の何百倍も何千倍も、身体が軽くて清々しい。
きっとこれは彼らのおかげね。私を手塚優里という一人の人間として見てくれた、初めてのお友達になれそうな二人組。
「ありがとうね」
呆然としてる二人に軽く頭を下げると、私は軽い足取りで殺伐とした空気の更衣室を後にした。