第一章

* * *



「なんだアイツは!!無礼にもほどがある!!」
「そうカリカリするなよ真田」
「お前は何で平気なんだ⁉あんな態度取られたんだぞ!」


 隣で顔を真っ赤にしている真田はまるで赤鬼みたいだ。確かにあの子は感じ悪かったけど、僕はそれ以上にあの子の様子が気になった。一人で楽しそうに笑っているかと思えば急に静かになって、次の瞬間には「消えたい」だなんて恐ろしいことを言い出すのだから。
 あれが世に言う情緒不安定なのか、実際目の当たりにするとなかなか怖い。というか心配だ。


「まぁ…変わった子だよね」
「変わった子だと⁉ああいうのは無礼者と言うんだぞ!」
「真田さっきからうるさい」


 至近距離で大声を出さないで欲しい。昔はオドオドした可愛い坊やだったくせに、一体いつからこうなったのか。本当に、時の流れとは残酷なものだ。


「明日…は休みか。また次の練習の日に声かけてみるよ」
「俺はいかんぞ」
「良いよ別に」


 むしろ真田はいない方が良いかもしれない。あの他者を寄せ付けない瞳を持つ彼女に、真田のような真っ直ぐな人間は向いていない。かと言って僕に心を開いてくれるとも思えないけど、少なくとも真田よりは話ができる気がする。
 新入りだから、闇が深そうだから──僕が彼女に近付いた最初の理由は、小さな子どもがよく抱く浅はかな好奇心そのものだった。




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