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第六章

* * *



「見てこれ。優里ちゃんに貰ったんだ」


 その日の部活終わり、手塚に彼女から貰った絵を見せた。関東大会が近いこともあり、全体の練習が終わっても残るレギュラーは多いが、今日は僕も手塚も早く切り上げていた。
 手塚は、絵を見ても特に驚いた様子を見せない。さすがに妹の絵の上手さはちゃんと認識していたようだ。


「いつの間にそんなに仲良くなったんだ?」
「 妬いてる?」
「お前は本当に良い性格してるな」


 彼が小さくため息をつく。手塚と彼女はあまり似てないけど、こういった何気ない仕草は結構似ているからやっぱり兄妹なんだなと思ってしまう。


「僕、今日初めて優里ちゃんのこと可愛いと思ったよ」


 昼休み、一瞬だけど素の顔を見せてくれた彼女を思い出す。いつも彼女の周りを囲っている見えない壁が、ほんの一瞬だけど崩れ落ちた。いつも微動だにしない表情が緩んだあの一瞬、僕は確かに彼女のことを可愛いと思った。


「…不二。お前に限って無いとは思うが、くれぐれも変な気は起こすなよ」
「変な気って何?」
「分かってるだろう」


 気のせいかもしれないけど、手塚の視線がいつもより鋭く思えた。彼が隠れシスコンなのは割と早い段階から気付いていたけど、今の彼はなんというか普通に怖い。これが僕じゃなかったら、きっと変な誤解をされていただろう。


「心配ないよ。優里ちゃんみたいな絶世の美女、タイプじゃないし」 
「…褒めてるのか貶してるのか分からん言い草だな」
「 何言ってるの。めちゃくちゃ褒めてるじゃないか」 


 手塚の言いたいことは分かっている。本気で彼女に恋をするから構わないけど、そうでないなら手を出すなということだ。
 実際のところ僕は彼女に気があるわけじゃなくて、彼女の心の内に興味があるだけだった。手塚は間違いなく彼女のことを想ってるけど、彼女はどうなのか単純に興味があっただけ。同じく下に兄弟を持つ兄として、知りたいと思っただけ。


「クスッ」
「何だ急に」
「 いや、君たち本当に仲が良いなと思って」


 あの子、手塚以上に感情が読めないけど案外素直なんだね。恥ずかしげもなく君のこと大好きって言ってたもの。


「優里ちゃんも隠れブラコンってこと知れて、僕は満足だよ」
「一体何を言ってるんだお前は」


 怪訝そうに眉をしかめる彼を見ていると、やっぱりあの子は分かりにくいなと思ってしまう。表情の変化に乏しいところは似ているけど、あの子はもっと隠すのが上手い。彼は決して心と正反対の表情をしないけど、彼女は結構そういうところがある。本当は気が気でないくせに、興味なさそうな態度取るところなんてまさにそれだ。




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