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第四章

* * *



 空っぽだ。私本当に、何もなくなってしまった。あの二人のことはとうの昔に忘れたはずだけど、全然忘れられてなかった。やっぱり、思い出にすがるのは辞めたほうが良い。墓穴を掘るだけだって、今日気付いたわ。


「…でも、元気そうで良かった」


 これは紛れもない本心だ。成長した彼らの顔が見れて良かった。ちゃんと、さよならを言えて良かった。


──本当に?


 心の奥底で、もう一人の私の声が聞こえる。本当か、なんて言うまでもない。さよならなんてしたくなかった。叶うことならずっと友達でいたかった。また会おうねって言いたかった。


「…言えるわけないよねぇ」


 もう泣きたくなんてないから、無理やりにでも笑ってみせる。私の作り笑顔は怖いって、以前精ちゃんが言ってたっけ。作り物みたいで、人間味がなくて怖いって言ってたっけ。


「ごめんねぇ…」


 やっぱり会わない方が良かったな。無駄に辛くなってしまうし、きっと彼らにも嫌な思いさせた。でも、なんで彼らはあんなに怒ってたんだろう。私は彼らの心の声を代弁しただけなのに何故?もしかしてあれかな、図星ってやつ?


「優里」


 兄の声が聞こえる。リビングのソファでだらしなく天井を眺めていた私の視界が、兄の顔で一杯になる。


「泣いてるのか?」
「泣いてないよ」
「…そうか」


 兄の大きな手が私の目をふさぐ。視界が真っ暗になって何も見えない。だけど今は、それがやけに心地良かった。


「お前は偉いな」
「どこが?」
「弱音を吐かないところ」
「それは兄さんも同じじゃん」
「…俺はお前の逃げ場所にはなれないか?」
「兄さんが、私を逃げ場所にしてくれるのなら」


 兄の手が一瞬だけ震えた気がした。お互いに腹を割って話そう、辛いことがあったら支え合おう。そんな簡単な意味合いだけど、私達にとってはテストで満点取るよりも難しいことだ。
 私は彼の手をそっと振り払うと、ゆっくり体をお越し目元を拭った。いつの間にか溢れ出していた涙に気が付かず、歪な顔で笑っていた私はさぞかし気味悪かったことだろう。


「早く治ると良いね」


 兄の左腕を優しく撫でると、私はその場を後にした。戸惑った兄の視線を背中に感じながら、罪悪感と喪失感を抱えて自分の部屋へ閉じこもった。




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